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第八部・イギリス捜索 編

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 そのあと、双子が爆笑する。

『あはははは! こいつらが付き合ってるってないわー』
『そ、そうなんですか?』

『どっちかというと、女王様と奴隷みたいな感じだしね』
『あら、失礼ね』

 笑い転げる双子に、エミリアが突っ込みを入れる。
 それを佑が補填した。

『二人は俺たちよりもっと古い仲で、生まれてすぐみたいな付き合いだ。だから誰よりも近しいし、その分恋愛感情はないんじゃないかな』

 聞いた話マティアスは三十歳で、エミリアは二十八歳だ。
 年齢が近く美男美女なので勘違いしやすいが、香澄の一方的な思い込みだったようですぐに謝った。

『す、すみません。考え方が安直すぎました』
『気にしていないからいいわ』

 エミリアは上品に笑い、マティアスは特に何も反応していない。

 澪たちから忠告を受けて少し緊張していたが、会話をしているエミリアからは〝嫌な女〟という雰囲気はまったくしない。

 美人な上に品が良くユーモアのセンスもあり、頭がいい。
 佑たちも双子も、香澄を相手にしているより、ずっと高レベルの会話を楽しんでいるように思えた。

(ああいう風になりたいな)

 澪たちが言っていた事はさておき、エミリアが魅力的な女性なのは確かだ。

 お嬢様というから「高慢な人だったらどうしよう」と思っていたが、それもない。
 むしろほんの少しだけ、「嫌な人だったらいいのに」と願ってしまっていた自分が嫌になるほどだ。

 色々忠告は受けていたものの、何も起きずに食事が終わる頃には、香澄はほろ酔いになり、美味しい肉も食べてご機嫌になっていた。





「じゃあ、私は帰るから」

 食事のあと、レストランを出て、澪が一番に帰って行く。

「気をつけろよ」
「分かってる。車呼んでるから大丈夫」

 佑に心配されて澪は嬉しそうに笑ってから、他の者にも手を振ってエレベーターに向かう。

「俺たちも先に失礼するよ」

 陽菜の肩を抱いた律が言う。

 佑からこっそり聞いた話では、現在二人は妊活中らしく、律は神経質なまでに陽菜の体調を気にしているようだ。
 だから陽菜は先日の食事会でも今日も、アルコールは飲んでいなかった。

「俺は付き合ってもいいんだけど、さっき友達から連絡があったから、ちょっと向かうね」

 翔もそう言って帰り支度をしている。

「はー? 友達ー? カノジョじゃないの~?」

 クラウスがニヤニヤし、翔も負けずににやつく。

「さぁ、どうだろうなぁ? 当てられたら今度驕ってやんよ」
「ちょ、約束ね」

 アロイスが笑って念を押し、エレベーターホールの前でパンパンと翔の背中を叩く。

「じゃあ、香澄ちゃんまたね! あんまり飲み過ぎないようにね」

 最後に翔は香澄にそう言い、無言で佑とハイタッチをしてエレーベーターのゴンドラに乗り込んだ。
 香澄は閉じていくドアに手を振ったあと、息をついて少し俯く。

 少々酔っ払ってしまったようで、ホワホワしている。
 すぐにその変化を察した佑が、顔を覗き込んできた。

「大丈夫か?」
「ん。楽しかったから、ちょっと調子に乗って飲んじゃったみたい。でも大丈夫」

「僕ら、まだバーで飲むつもりだけど、どう?」

 クラウスが言い、アロイスが「来なよ」と笑いかける。

「香澄は? 部屋で休むか?」

 佑はせっかくドイツから幼馴染みが来たというので、このあとも一応付き合うつもりではいるようだ。
 この日はこのホテルに部屋を取っているらしく、酔い潰れても問題ないよう取り計らっていた。

「部屋を取ってるなら、もうちょっと飲んでも大丈夫だよ」

 香澄はニマニマしながら言い、結局バーのあるフロアまで全員で移動する事になった。

 澪が言っていた事は一応頭に残しているのだが、目に見えて嫌なところが見えないと少し安心している自分もいる。
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