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第八部・イギリス捜索 編

事前協力

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「いってぇ!」
「仁王のグーパン!」
「ぶふっ、それ!」

 双子のやり取りを聞いて、佑は眉間に皺を寄せながら疑問に思い、すぐに思い当たった。
 どうやら大学生時代の地中海クルーズでの事件を揶揄してそう呼ばれているようだ。

(ガキ臭い……)

 大きな溜め息をつくが、今に始まった事ではない。

 佑は香澄が着替えて下りてくるまで玄関ホールのソファに座り、話題を変える。

「……で? 彼女はいつ来ると?」
「ああ、エミね。今週内には来るって言ってたよ」

「……まぁ、エミリアなら常識人だから、香澄を心配させる言動をしないと思っているが……」
「カスミがジェラシーしないか気にしてるんでしょ? 僕らだって分かってるよ。フォローするから心配するなって」

 頼もしいのだかそうじゃないのだか分からないが、一応安心する。

「俺は香澄のフォローに徹するから、彼女の事はお前らに任せる」
「オッケー。でもタスク、何でエミのこと愛称で呼ばないの?」

「……少しでも親しげな気配を見せたら、香澄が心配するだろうが」

 佑の返事に、双子は「そんな事で?」という顔で肩をすくめた。

「そうだ、タスク。協力代として、ワインセラーにあったアレッサンドラ1988飲んだから」
「は!?」

 ワインセラーに大事に寝かせておいた、イタリアトスカーナの当たり年のワインを飲んだと言われ、佑の目が点になる。

「あと、冷蔵庫にあったチーズももらった」
「…………」

 佑はぐしゃりと前髪ごと顔を覆い、盛大な溜め息をつく。

「……しっかり協力しろよ?」

 なくなった物は仕方がないと割り切り、だが恨みがましい目で双子を睨む。
 すると二人は「勿論!」と信用ならない無邪気な笑みを浮かべるのだった。

 その時、階段を下りる足音が聞こえ、踊り場に姿を現した香澄が「あれっ?」と声を上がる。

「やだ。佑さん、着替えてなかったの? ごめんなさい」
「いいよ。俺もすぐ着替えるから、二人でシャワーに入ろう」

「ちょっ、何で!?」
「俺がシャワー浴びてる間に、香澄に何かあったら困る。二人で入った方が時間のロスもないだろう」

 それはそうなのだが、双子がいる前で「いちゃいちゃする」と同義の事を言わないでほしい。

「サカるなよ? タスク」
「言っとくけど、僕たちがいる期間にセックスしたら、僕らにも考えがあるからね? 初日のアレは見逃すけど」

「言ってろ。ここは俺の家だ」

 じろりと双子を睨んでから、佑は鞄を持って二階に上がっていった。





 香澄は階段を上がっていった佑を見送ってから、双子に声を掛ける。

「お茶淹れますか? グリーンティーのほう」
「あ、や。別に気ぃ遣わなくていいよ?」

「そうそう。喉渇いたら勝手に何か飲んでるし」
「はぁ……」

 香澄は双子にリビングに連れて行かれ、ソファに座らされる。
 その向かいに、もはや自宅のようにくつろいだ様子で二人が腰掛けた。

「日本の水ってうまいよね。札幌行った時、水道水でもめっちゃ美味かった。やっぱ軟水だからかな」
「そうですね。普通に蛇口をひねって、そのお水を飲めたりお料理できるのは、幸福な事だと思います」

 いつもの双子を見て、香澄は明野の申し出を断って良かったと心の中で自分を褒めた。

 幾ら双子がとてもタフでも、煩わせる事があってはいけない。
 双子にかかれば明野など秒殺だろうが、お互いのために深く関わらなくて正解なのだ。

(もし私が佑さんと知り合わないままで、お二人と知り合う機会があったとしても、まず近付こうと思わないけどな……)

 とんでもない額の収入がある人で、ドイツの由緒ある家系出身で、本人たちも有名ブランドのデザイナーで経営者。
 おまけに性格が破綻している。

 そんな人に下手に関わったら、まず身の破滅だ。
 普通なら軽く遊ばれた上で捨てられ、女性だけが入れあげて傷付く。

 その過程でもし妊娠するような事があれば、一大事だ。

(……まぁ、お二人ならそういうミスはしないだろうけど)
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