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第八部・イギリス捜索 編
第八部・序章2 三人組のかしましいおしゃべり
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「ねぇ、秘書室で河野さんってどう?」
「え? どう、とは」
もぐ……とトマトを食べ、香澄は目を瞬かせる。
「私たちの間で、河野さんクールビューティーっていう事で密かに人気があるの。あ、社長は秘密にしておいてくださいね?」
「分かってる」
こちらはアジの開き定食を食べている佑が、軽く笑いつつ頷く。
「ビューティー……?」
香澄は表情筋がピクリとも動かない河野の顔を思い出し、首を傾げた。
確かに顔は整っている部類だが、いかんせん愛想というものがまったくないので、美形だとか格好いいと思えないのだ。
「そりゃあ赤松さんは側に社長みたいな規格外がいるもんねぇ。気持ちは分かるけど」
「河野さん独身だし、仕事できるし私たち以外にも割と目を着けてる人いるっぽくて」
「ふぅん……」
うなるように返事をし、「そんなものなのか」と香澄は何度も頷く。
食堂の中をグルリと見回してみると、遠く離れた場所で河野が一人やはりアジの開き定食を食べているのが見えた。
(アラサー男性にアジの開き人気なんだろうか)
的外れな事を考えつつ、香澄は少しお節介を焼こうかと提案する。
「何か質問があるのなら、それとなく聞いておきましょうか?」
「あ~、いやいやいやいや! それはいいよ。聞きたい事があったら自分で聞くし」
「そうそう。秘書の間で変な空気になっても悪いし」
慌てて三人がブンブンと胸の前で手を振り、仲がいいとこうも動作がシンクロするのかと思うほどだ。
「あのタイプはねぇ、クーデレだと思うんだぁ」
荒野がニヤニヤしながら言う。
佑は聞いた事のない単語を耳にして、チラッと彼女たちを見た。
「だよねぇ。職場では鉄仮面なんて言われながら、私生活になったら恋人とか奥さんにデレて、ゲロ甘に甘やかしたり……」
同調して妄想を膨らませる成瀬の言葉を聞いて、佑は何か一人で納得したようだ。
小さく頷き、再びアジをつついている。
「社長もどっちかっていうとクーデレっぽいですよね。クールはクールだけど、河野さんほどじゃなくて、人当たりがいいですけど」
いきなり佑に焦点が当たったが、香澄は内心項垂れながら首を横に振った。
(佑さんはヤンデレの素質も秘めています……)
「それは評価されたと思っていいのかな?」
小鉢の煮物を食べてから、佑が微笑する。
「評価してないとこんなこと言いませんよぉ」
「そうそう。私たち社長と赤松さんで、甘い妄想させて頂いてますから」
水木の言葉に香澄はスパゲッティを噴きかけた。
「ぐふっ……ちょ、も、妄想ってなんですか?」
「いやぁ、三人で仕事帰りに居酒屋とか行くでしょ? そしたらもう飲みながら、二人はどういう所にデートに行って、社長は赤松さんにどういう迫り方をして、そのあとどうなるのかとか……。もう図まで描いちゃってるよね」
成瀬が今持っているのが、コーヒーカップではなくビールのジョッキでないのが不思議だ。
「ふぅん? その会話内容と図には興味があるな」
食事を終えた佑は微笑み、コーヒーを買いにトレーを返却がてら席を立つ。
「も、もぉぉ……」
スパゲッティの最後の一口をフォークで巻きつつ、香澄は項垂れる。
「ごめんね、赤松さん。そりゃ私たち彼氏持ちだけど、社長みたいなハイスペがどんな恋愛するのか興味があって」
「そう、夢よ夢。社長と秘書の社内恋愛なんてもう、美味しいったらありゃしない」
「きっかけは社長の一目惚れみたいなもんなんでしょー? あぁん、ロマンチック」
これだけかしましくお喋りしながらも、三人の食器の中身は順調に減っているので凄い。
「もうハーレクインの世界みたいなもんだよねぇ。……と言えば、映画化された……」
荒木の言葉に、残る二人が押し殺した悲鳴を上げる。
「ちょっと、赤松さんが可哀相だって」
「いやいや、社長はああ見えて歪んだ性癖とか持ってそうだし、あり得るって」
「あの映画の主人公が社長と赤松さんになったって想像しただけでも、もうご飯三杯食べられる……」
とある映画を例に出されているようだが、香澄は何の事か分からない。
ただ、こんな風に自分たちの関係をオープンに受け止めてくれる存在は、とてもありがたい。
男性に性的に見られるのは御免被りたいが、女性の妄想のネタぐらいなら別にいいのでは……と思っている。
――いや、その前に佑本人が、香澄をオカズとして見ているので、今さら誰にどう見られてもあまり動じないかもしれない。
「え? どう、とは」
もぐ……とトマトを食べ、香澄は目を瞬かせる。
「私たちの間で、河野さんクールビューティーっていう事で密かに人気があるの。あ、社長は秘密にしておいてくださいね?」
「分かってる」
こちらはアジの開き定食を食べている佑が、軽く笑いつつ頷く。
「ビューティー……?」
香澄は表情筋がピクリとも動かない河野の顔を思い出し、首を傾げた。
確かに顔は整っている部類だが、いかんせん愛想というものがまったくないので、美形だとか格好いいと思えないのだ。
「そりゃあ赤松さんは側に社長みたいな規格外がいるもんねぇ。気持ちは分かるけど」
「河野さん独身だし、仕事できるし私たち以外にも割と目を着けてる人いるっぽくて」
「ふぅん……」
うなるように返事をし、「そんなものなのか」と香澄は何度も頷く。
食堂の中をグルリと見回してみると、遠く離れた場所で河野が一人やはりアジの開き定食を食べているのが見えた。
(アラサー男性にアジの開き人気なんだろうか)
的外れな事を考えつつ、香澄は少しお節介を焼こうかと提案する。
「何か質問があるのなら、それとなく聞いておきましょうか?」
「あ~、いやいやいやいや! それはいいよ。聞きたい事があったら自分で聞くし」
「そうそう。秘書の間で変な空気になっても悪いし」
慌てて三人がブンブンと胸の前で手を振り、仲がいいとこうも動作がシンクロするのかと思うほどだ。
「あのタイプはねぇ、クーデレだと思うんだぁ」
荒野がニヤニヤしながら言う。
佑は聞いた事のない単語を耳にして、チラッと彼女たちを見た。
「だよねぇ。職場では鉄仮面なんて言われながら、私生活になったら恋人とか奥さんにデレて、ゲロ甘に甘やかしたり……」
同調して妄想を膨らませる成瀬の言葉を聞いて、佑は何か一人で納得したようだ。
小さく頷き、再びアジをつついている。
「社長もどっちかっていうとクーデレっぽいですよね。クールはクールだけど、河野さんほどじゃなくて、人当たりがいいですけど」
いきなり佑に焦点が当たったが、香澄は内心項垂れながら首を横に振った。
(佑さんはヤンデレの素質も秘めています……)
「それは評価されたと思っていいのかな?」
小鉢の煮物を食べてから、佑が微笑する。
「評価してないとこんなこと言いませんよぉ」
「そうそう。私たち社長と赤松さんで、甘い妄想させて頂いてますから」
水木の言葉に香澄はスパゲッティを噴きかけた。
「ぐふっ……ちょ、も、妄想ってなんですか?」
「いやぁ、三人で仕事帰りに居酒屋とか行くでしょ? そしたらもう飲みながら、二人はどういう所にデートに行って、社長は赤松さんにどういう迫り方をして、そのあとどうなるのかとか……。もう図まで描いちゃってるよね」
成瀬が今持っているのが、コーヒーカップではなくビールのジョッキでないのが不思議だ。
「ふぅん? その会話内容と図には興味があるな」
食事を終えた佑は微笑み、コーヒーを買いにトレーを返却がてら席を立つ。
「も、もぉぉ……」
スパゲッティの最後の一口をフォークで巻きつつ、香澄は項垂れる。
「ごめんね、赤松さん。そりゃ私たち彼氏持ちだけど、社長みたいなハイスペがどんな恋愛するのか興味があって」
「そう、夢よ夢。社長と秘書の社内恋愛なんてもう、美味しいったらありゃしない」
「きっかけは社長の一目惚れみたいなもんなんでしょー? あぁん、ロマンチック」
これだけかしましくお喋りしながらも、三人の食器の中身は順調に減っているので凄い。
「もうハーレクインの世界みたいなもんだよねぇ。……と言えば、映画化された……」
荒木の言葉に、残る二人が押し殺した悲鳴を上げる。
「ちょっと、赤松さんが可哀相だって」
「いやいや、社長はああ見えて歪んだ性癖とか持ってそうだし、あり得るって」
「あの映画の主人公が社長と赤松さんになったって想像しただけでも、もうご飯三杯食べられる……」
とある映画を例に出されているようだが、香澄は何の事か分からない。
ただ、こんな風に自分たちの関係をオープンに受け止めてくれる存在は、とてもありがたい。
男性に性的に見られるのは御免被りたいが、女性の妄想のネタぐらいなら別にいいのでは……と思っている。
――いや、その前に佑本人が、香澄をオカズとして見ているので、今さら誰にどう見られてもあまり動じないかもしれない。
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