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第七部・双子襲来 編

第七部・終章 買い物帰りの双子、襲来

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「食べないとやってられない」
「ふふ。美味しそうだから私も食べよっと」

 上品にカットされたサンドウィッチは、二口ぐらいでなくなりそうだ。
 食パンのフワフワな感触は高級感があり、香澄は大事に味わおうと思いながら囓った。

「そうは言うけど、佑さんだって学生時代に彼女いたんでしょ? 私は知っている」

 少し冗談めかして言う香澄は、佑の学生時代の話ぐらいでは嫉妬しないと決めている。
 大人になって性的な関係になったならともかく、自分と同じ手を繋いだり子供キスをする程度で、嫉妬をするのは大人げない。――と、言い聞かせていた。

「ん、……まぁ……。いたはいたけど……」

 視線を泳がせる佑は、嫉妬しているくせに自分の事を棚に上げている。
 その子供っぽさが愛しくて、香澄はケタケタと笑い出した。

「よぉし。じゃあ今度、二人で卒業アルバムとか見せ合いしよっか。それでその時にたっくさん学生時代の話をして、全部モヤモヤをなくすの。大人の修学旅行です」

「……よし。乗った」

 香澄の提案に佑は頷き、今はもうこれで終わりとティーカップの紅茶をクイッと飲む。

 決着がついたと香澄がにっこり笑った時、スマホが通知を告げた。

「ん?」

 香澄が手帳型のスマホケースを開くと、コネクターナウにバッジが溜まっている。
 どうやらシャワーボックスで過ごしていた間、連絡が来ていたようだ。

「しかも通知数56って……」

 こんな常識はずれな通知をよこす相手は、あの二人しかいない。

「えぇと……。今度は何かな」

 当惑しつつアプリを開けば、目もくらむような宝石類の写真がずらりと並んでいた。

「えーっ?」

 焦って遡ってゆくと、途中には洋服やコスメ類の写真もたくさんあった。
 最初まで写真を確認した間にメッセージがあり、「香澄はどれがほしい? 美里はどれが似合うと思う?」と意見を聞いている。

「……またあいつらか?」

 二人の時間を邪魔された佑が不機嫌な顔になり、香澄の横に座るとスマホを覗き込んできた。

「どうやらお買い物中みたい。私、これ以上洋服や化粧品があっても困るんだけど……。ただでさえ佑さんにもらった物を使いきれていないのに」

 そもそも口紅なんて、気分を変えるために三本ぐらいあれば十分だと思っている。
 アイシャドウも基本的に仕事で使うブラウン系のパレットと、ちょっと出掛ける様にピンクやボルドーの混じったパレットの二つがあればいい。

 どうして金持ち男というのは、こうもプレゼントしたがるのか……。

 苦笑していた時、ピンポンピンポンと部屋のチャイムをせわしなく鳴らす音が聞こえた。

「っひえっ!?」

 びくんっと背筋を伸ばして振り返った隣で、佑がチッと舌打ちをする。

「対応致しましょうか?」

 動じないコンシェルジュが申し出てくれるが、佑が自ら立ち上がり「俺が行きます」とドアに向かった。

 ドアの向こうには、思った通りの顔が二つある。
 その後ろには護衛たちが数人で大きな紙袋を両手に幾つも提げていた。

「カスミ! 適当に買ってきたから、好きな物選びなよ!」
「僕、カスミに似合いそうな色適当に買ってきたよ! 褒めて!」

 佑を押しのけて双子がぐいぐいと室内に入り込み、護衛が床に荷物を並べてゆく。

「ミサトも呼ぼっか」
「そうだね! 夕飯食ってバーに行って、上がるまで待って色々見せよう!」

 潔いまでに自分中心の双子に、香澄は気の抜けた笑顔を浮かべる。

「……あ、あのですねぇ……」

 思わず脱力しかけた香澄に構わず、アロイスが手近にあった紙袋のリボンを引く。
 それは香澄もよく知っている紙袋だ。

「カスミ、タスクと二人で使ってるコロンここのでしょ? ジョン・アルクール。カスミの香りを辿って同じの買ってきたけど、今ここでつけて嗅がせて!」

 おなじみのオフホワイトとブラックのデザインの箱から、百ミリリットルのコロンを出し、アロイスがじりじりと近付いてくる。

「ちょ……」
「アロ!」

 佑が噛みつくように制止するが、その反対側から手にハイブランドコスメの口紅を持ったクラウスが出てくる。

「僕にこのリップつけさせて? 半分ちょうだいとは言わないけどさ」

 半分ちょうだい=キスと瞬間で理解した佑が、不動明王リターンズの表情になった。

「あ……あの。えーっと……。お、お二人とも紅茶飲みますか?」

 とっさにかわそうとした香澄がアフターヌーンティーに誘い、コンシェルジュが「ティーカップを持って参ります」とにこやかに退室してゆく。

「美里さんが好きなんですよね? じゃあ私に構わず、正攻法の作戦を練らないとなりませんね?」

 ニコニコしながら、香澄はどうやってこの双子から逃げ切ろうかと、内心冷や汗タラタラだ。

「そう! そうなんだよねぇ。ミサト、受け取ってくれるかな?」

「さっき買ったブルートパーズなんて、ミサトに似合うと思うんだけど。あれ、僕ミサトの誕生日知らないや。誕生石贈らないと」

 何をしても変わらない双子に苦笑した香澄は、ロックオンされた美里を気の毒に思いつつも、彼らが本気ならその気持ちが届けばいいなと思っていた。

 溜め息をつく佑を手招きし、香澄は自分の隣をポンポンと叩いた。

「じゃあ、作戦会議のお茶会しましょうか」

 今回、札幌に帰省できて本当に良かった。

 双子がいると少しドタバタしがちだが、それでも人数が多いとやっぱり楽しい。

 明日は東京に戻り、明後日からはまた気持ちをしっかり持って職場に復帰しなければ。

 そう思いつつ、香澄はミニグラタンパイが温かいうちに、手でつまんでパクッと口に入れるのだった。

 第七部・完
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