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第七部・双子襲来 編

判官さま

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「ここのほうじ茶、セルフサービスなんです。無料で頂けるのありがたい……」

 そう言いつつ、紙コップに人数分のお茶を淹れ、二人分をクラウスに持たせた。

「ちょっと日差し強いですが、せっかくですし外で食べましょう」

 テーブルとベンチは埋まっていて、香澄は店の向かいにある石垣に座った。
 佑が隣に座り、反対側にやや揉めて「僕がお茶運んだから僕」とクラウスが腰掛ける。

「いただきます」

 紙コップを地面に置き、香澄は、はむっと餅にかぶりつく。

「んー……」

 焼きたての餅は香澄の口元からビヨーンと伸び、双子が大ウケする。

「すっげぇ! 餅すげぇ! ピザみたい」
「僕もいただきます!」

 クラウスが香澄を真似て判官さまにかぶりつき、同じようにビヨーンと餅を伸ばす。佑とアロイスも続いた。

「……ん、美味いな。餡子が甘すぎなくて、温かいのもあって本当に美味い」
「でしょ?」

 佑が認めてくれた事で香澄が喜び、小さい餅にさらにかぶりつく。

「小さいからこれでワンコインは頷けるけど、これだけ美味いなら安すぎない?」
「そうそう。チョコレートでも一粒数百円するしね?」

「……確かに佑さんにもらった高級チョコ美味しかったですけど、私はスーパーで買えるチョコの方が、気軽に美味しく食べられます」

 むぐむぐと口を動かし、香澄がうなる。

「カスミは本当に庶民的だなぁ。ま、そこが魅力なんだけど」
「だよなぁ。ネイルだってジュエリーネイルしてるの見た事ないし、ほんのりピンクベージュで地味なもんだよな」

「ジュエリー……ネイル?」

 ほうじ茶を飲んで、香澄は首を傾げる。

「あれ? 知らない? 本物の宝石をネイルパーツにしてつけるの」

 アロイスに言われ、香澄は目をまん丸にした。

「そっ、そんなのあるんですか? む、むりむり!」
「お前ら、香澄に向かって庶民とか地味とか言うなよ。香澄はそのままが可愛いんだから」

 餅を食べ終えて熱いお茶をすする佑が、半眼になって双子を睨む。

「まぁ、そうだけどさ! 可愛い子ってどんどん飾りたくなるよね」
「……異論はない。だが香澄は素材が抜群にいいんだ。無理に飾ることもないさ」

 ちょっとその気になればいつでも最高級の物で飾る準備ができているくせに、佑は理解のある態度を取る。
 それが分かっている双子は、「はっ」と鼻先でせせら笑い、「むっつりめ」と呟く。

 男たちの会話を脇に、香澄はマイペースに地元紹介を続ける。

「この公園、春になったら桜が綺麗なんですよ。お花見しながらジンギスカン、道民あるあるって言われますね」

 脚をそろえて前に出し、香澄は大好きな空間に目を細める。

「東京の桜もとても綺麗でした。本州って枝垂れ桜もたくさんあっていいですよね。北海道ってエゾヤマザクラやソメイヨシノ、ヤエザクラが多い印象で、枝垂れ桜ってあまり見なくて。……でもやっぱり、ここが好きだなぁ」

 言いながらふぅふぅとお茶を冷まし、静かに啜る。

「……また、来ような?」

 ポン、と頭を撫でられ、香澄は破顔した。

「うんっ」





 その後、駐車場で待機していた車に乗り込み、またホテルに戻る。

 双子が札幌駅直結の百貨店に向かうのを見送ってから、佑と香澄はスイートルームで休憩を取る。

「脚、大丈夫か?」
「うん、平気。それよりルームサービスありがとう。いまアフターヌーンティー頂いたら、夕食入るかな? 頑張ろう」

 リラックスしたワンピース姿でソファに座った香澄は、オットマンに足を乗せてのんびりくつろぐ。

「久しぶりの札幌を満喫できた?」
「……うん。本当にありがとう」

 お礼を……と思い、香澄は隣に座っている佑の頬にチュッとキスをした。
 佑はヘーゼルの瞳でチラリと香澄を見たあと、魅力的な笑みを浮かべる。

「お礼なら、もうちょっと情熱的でもいいよ?」

 佑は香澄の肩を抱き、そのまま二の腕をなぞって腰へ手を下ろす。
 ぐっと抱き寄せられ、気がつけば佑の腰の上に向かい合わせに座らされていた。

「……あ、……ありが、と……ぅ」

 三十歳を超えるのに、佑の頬はツルンとなめらかだ。

 彼の頬を両手で包み、香澄はゆっくり顔を近付けてキスをしようとする。

 それなのに、彼はじっと香澄を見つめたままだ。
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