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第七部・双子襲来 編
お賽銭格差
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「ふぅん、不思議だね。それでオイナリサンとか、色んなカミサマがいるんだろ?」
「はい、八百万の神様と言って、それぐらい沢山の神様が日本にはいると言われています」
「日本で神社仏閣を巡るツアーとかもあるんでしょ? そういうのしてさ、カミサマとかホトケサマは怒らないの?」
随分と深い所を突くな、と思いつつ香澄は懸命に考える。
「んー……、そうですね。友人からのまた聞きとかだと、京都あたりであまり沢山回っていると、おいなりさんが憑いているとどなたか住職さんか神主さんに言われたとか、言われてないとか……」
「こっわ」
「ジャパニーズホラーだね! 夏だから丁度いいのかも」
「確かに……、平将門の首塚のたたりとかも聞きますしね。スピリチュアルな事はよく分かりませんが、だからこそ軽く見たら駄目なんだと思います。私はそれほど信じ込んでいる訳ではありませんが、そういう場所にお邪魔するからには、郷に入っては郷に従えでお作法をちゃんとしたい派です」
「なるほどねぇ! じゃあ、あそこで金投げるのも作法があるの?」
アロイスが歩き出し、香澄も本殿に向けてまた足を動かす。
「神様に向かってお金を投げつけたら、失礼ですよ? お賽銭箱の側まで行けるなら、そっと入れるんです。アロイスさんだって、お金投げつけられてお願い聞いてって言われたら、むっとしません?」
「まぁ、そりゃそうだね。〝ちゃんとしたおねだり〟のできる子が俺は大好きだし」
「僕も」
境内の写真を撮っていた佑が、ほんの少し肩を落として溜め息をつく。
香澄も「おねだりができる子」の言い方をされては、さすがにその意味する所を理解したようだ。そっと頬を染め、苦笑いをする。
本殿前まで来て、また香澄のレクチャーが始まる。
「お作法としては二礼二拍手一礼ですが、その前に軽く一礼をしてお賽銭を入れます。本来なら鈴がありますが、ここは人の出入りが激しいのでいつもない感じです。鈴の役割は、参拝者の穢れを払い、神様に『来てください』と合図をするためのものと言われています。でも諸説アリ、ですね」
言いつつ、香澄は軽く頭を下げ、手にしていた五円玉をそっと賽銭箱に入れる。
双子も真似をし、現金はそれしかないのか一万円札を躊躇いなくピラリと入れた。その向こうにいる佑も同様である。
(……ぐ。お賽銭格差)
香澄としてはいくら神様にお参りをするとしても、一万円はさすがに入れられない。
こういう時、本当に一万円という金額を高額と思わない人々に、思わず溜め息が出る。
「それから、二礼、二拍手です。柏手を打ったら、手を合わせたままお願い事を無言でしてくださいね。それが終わったら、一礼。もう一度軽く一礼です。この最初と最後の軽い一礼は、小揖(しょうゆう)と言います」
「分かった。ありがと」
それから珍しく双子は静かにお参りをし、チラリと横目で見守ってから香澄も慣れ親しんだ地元の神様にお参りをした。
心には色々と浮かぶが、何より佑とちゃんと結婚して仲良くやっていきたいという願いがある。
加えて、札幌にいる親族やクラウザー家の面々の家内安全を願った。
「俺、オミクジやりたい! 絶対大吉当てるぞ!」
「僕も!」
参拝を終えた双子は、社務所に向かってゆく。その前には幾つかおみくじの箱が置いてあり、中には外国語に対応した物もある。
「私も久しぶりに引いて行こうかな。ここ、百円の普通のおみくじと、二百円の小さな金色のお守りがついた、幸せみくじがあるんだよ。どっちにしようかな」
「香澄が大吉引きますように」
階段を下りて砂利を踏みながら、佑が静かに言って微笑む。
「ふふ、ありがとう。佑さんにも沢山の幸せがありますように」
前方で双子が「ワンコインでいいの? 太っ腹」と言っているのが聞こえ、思わず香澄はクスクス笑う。
「ごめんな? 香澄。あいつらせっかくの神社なのにうるさいだろ」
「ううん。私もこうやって自分が知っている小さな知識の中で、何かを教えられるのが嬉しいの。自分の国の事を知ってもらえる、興味を持ってもらえるって、嬉しいものだよ?」
「……まぁ、それはそうだが」
アロイスとクラウスは躊躇いなくおみくじの箱に手を突っ込み、やはり躊躇いなく直感で指先に当たった物をズボッと引き出している。
「Yes! カスミ、ダイキチ引いたよ!」
「僕も!」
双子が香澄に向かって同じタイミングで言い、お互いをパッと見ておみくじを見せ合う。
「わぁ、凄い。さすがですね。よーし、私も大吉引いちゃうんだから」
小銭入れから百円玉を出し、香澄は気合いを入れて硬貨を投入した。
穴にすぽっと腕を入れ、いつもながらこの時は迷ってしまう。
指先に当たる幾つもの紙の感触の中から、「これかな?」と思う物を探り当てるのが緊張するのだ。
「はい、八百万の神様と言って、それぐらい沢山の神様が日本にはいると言われています」
「日本で神社仏閣を巡るツアーとかもあるんでしょ? そういうのしてさ、カミサマとかホトケサマは怒らないの?」
随分と深い所を突くな、と思いつつ香澄は懸命に考える。
「んー……、そうですね。友人からのまた聞きとかだと、京都あたりであまり沢山回っていると、おいなりさんが憑いているとどなたか住職さんか神主さんに言われたとか、言われてないとか……」
「こっわ」
「ジャパニーズホラーだね! 夏だから丁度いいのかも」
「確かに……、平将門の首塚のたたりとかも聞きますしね。スピリチュアルな事はよく分かりませんが、だからこそ軽く見たら駄目なんだと思います。私はそれほど信じ込んでいる訳ではありませんが、そういう場所にお邪魔するからには、郷に入っては郷に従えでお作法をちゃんとしたい派です」
「なるほどねぇ! じゃあ、あそこで金投げるのも作法があるの?」
アロイスが歩き出し、香澄も本殿に向けてまた足を動かす。
「神様に向かってお金を投げつけたら、失礼ですよ? お賽銭箱の側まで行けるなら、そっと入れるんです。アロイスさんだって、お金投げつけられてお願い聞いてって言われたら、むっとしません?」
「まぁ、そりゃそうだね。〝ちゃんとしたおねだり〟のできる子が俺は大好きだし」
「僕も」
境内の写真を撮っていた佑が、ほんの少し肩を落として溜め息をつく。
香澄も「おねだりができる子」の言い方をされては、さすがにその意味する所を理解したようだ。そっと頬を染め、苦笑いをする。
本殿前まで来て、また香澄のレクチャーが始まる。
「お作法としては二礼二拍手一礼ですが、その前に軽く一礼をしてお賽銭を入れます。本来なら鈴がありますが、ここは人の出入りが激しいのでいつもない感じです。鈴の役割は、参拝者の穢れを払い、神様に『来てください』と合図をするためのものと言われています。でも諸説アリ、ですね」
言いつつ、香澄は軽く頭を下げ、手にしていた五円玉をそっと賽銭箱に入れる。
双子も真似をし、現金はそれしかないのか一万円札を躊躇いなくピラリと入れた。その向こうにいる佑も同様である。
(……ぐ。お賽銭格差)
香澄としてはいくら神様にお参りをするとしても、一万円はさすがに入れられない。
こういう時、本当に一万円という金額を高額と思わない人々に、思わず溜め息が出る。
「それから、二礼、二拍手です。柏手を打ったら、手を合わせたままお願い事を無言でしてくださいね。それが終わったら、一礼。もう一度軽く一礼です。この最初と最後の軽い一礼は、小揖(しょうゆう)と言います」
「分かった。ありがと」
それから珍しく双子は静かにお参りをし、チラリと横目で見守ってから香澄も慣れ親しんだ地元の神様にお参りをした。
心には色々と浮かぶが、何より佑とちゃんと結婚して仲良くやっていきたいという願いがある。
加えて、札幌にいる親族やクラウザー家の面々の家内安全を願った。
「俺、オミクジやりたい! 絶対大吉当てるぞ!」
「僕も!」
参拝を終えた双子は、社務所に向かってゆく。その前には幾つかおみくじの箱が置いてあり、中には外国語に対応した物もある。
「私も久しぶりに引いて行こうかな。ここ、百円の普通のおみくじと、二百円の小さな金色のお守りがついた、幸せみくじがあるんだよ。どっちにしようかな」
「香澄が大吉引きますように」
階段を下りて砂利を踏みながら、佑が静かに言って微笑む。
「ふふ、ありがとう。佑さんにも沢山の幸せがありますように」
前方で双子が「ワンコインでいいの? 太っ腹」と言っているのが聞こえ、思わず香澄はクスクス笑う。
「ごめんな? 香澄。あいつらせっかくの神社なのにうるさいだろ」
「ううん。私もこうやって自分が知っている小さな知識の中で、何かを教えられるのが嬉しいの。自分の国の事を知ってもらえる、興味を持ってもらえるって、嬉しいものだよ?」
「……まぁ、それはそうだが」
アロイスとクラウスは躊躇いなくおみくじの箱に手を突っ込み、やはり躊躇いなく直感で指先に当たった物をズボッと引き出している。
「Yes! カスミ、ダイキチ引いたよ!」
「僕も!」
双子が香澄に向かって同じタイミングで言い、お互いをパッと見ておみくじを見せ合う。
「わぁ、凄い。さすがですね。よーし、私も大吉引いちゃうんだから」
小銭入れから百円玉を出し、香澄は気合いを入れて硬貨を投入した。
穴にすぽっと腕を入れ、いつもながらこの時は迷ってしまう。
指先に当たる幾つもの紙の感触の中から、「これかな?」と思う物を探り当てるのが緊張するのだ。
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