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第七部・双子襲来 編

神様の定義

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「あと、やっぱり北海道は雪が積もるので、瓦屋根ではないです。なので本州の瓦屋根とか、日本的で素敵だなぁ……って思いますね。だから私、やっぱり京都とか憧れで大好きなんです」

 参道に着き、白い砂利を踏みながら手水舎へ向かう。

「ふぅん? やっぱりカスミ、俺たちと一緒に京都旅行いこうよ。ミサトと四人で日本的な旅館とか泊まってさ。おいっしぃ料理食べるんだ」

「ん、んー……」

 いつもなら「行きません」ときっぱり言うところだが、憧れの京都の名前を出されると香澄の心が揺らぐ。
 それを見透かし、焦った佑が口を挟んだ。

「香澄。京都ならいつでも俺が連れて行くから。織物や染め物の関係で出張にも行くし、そのとき一緒に回ろう」
「わぁ、京都出張もあるんだ」

 香澄がぱぁっと顔を明るくさせた時、双子のブーイングが入る。

「これだから仕事の話しかできない男は……」
「そうそう。ブスイだよねぇ。僕らだったら百パーセント甘ぁいデートにしてあげるのに」

「…………」

 はぁ、と溜め息をつき、佑はポケットからハンカチを出す。

「お二人とも、手水舎でのお作法は知ってますか?」
「んーん」

「手を洗って聖なる水を飲むのは知ってるけど」
「の、飲んじゃ駄目です!」

 焦った香澄は、双子に自分の真似をするよう指示をする。

「まず、柄杓を右手で持ってお水で左手を清めます。それから柄杓を左手に持ち替えて、右手を清めます」

 慣れた手つきで手を清める香澄を見て、双子が見よう見まねで真似をする。

「こう?」
「そうです。それからもう一度柄杓を右手に持って、左手にお水をちょっと溜めます。そのお水で口をゆすいで、手で口元を隠して静かにぷっ」

「……ぷっ」
「……ちょ、可愛い」

 香澄の言い方に笑った双子が真似をしたのを確認し、彼女はまじめな顔で続ける。

「左手に口がついてしまったので、左手にもう一度お水をかけて清めます。柄杓に残ったお水は、こうやって柄杓を縦にして柄の部分を清めて……終わりです」

 すべての工程を終えて香澄がタオルハンカチを取りだし、手を拭く。
 双子もさすがに何かあった時のために、ポケットにブランド物のハンカチを忍ばせてあるので、それで手と口を拭う。

「ふぅん、飲むんじゃなかったのかぁ」
「聖水飲むって、なかなかだと思ってたんだけどな」
「ちょ……っ、クラ。それさすがに連呼したらヤバイって」

 アロイスが肩を震わせ、ひいひい言いながらクラウスの肩を抱く。

「なんなら僕、カスミとミサトの聖水なら……いてっ」

 ばんっと思いきり佑に背中を叩かれ、クラウスがブーと下唇を突き出した。

「――いい加減にしろよ。しかも神社で」

 底冷えのする目で睨んでから、佑は香澄に「行こう」と促す。

「……いいの?」

 何も分かっていない香澄に、佑はいまにも頭の血管が切れそうな顔で「いいんだ」と返事をし、ズボンのポケットから小さな革製の財布を取り出した。

「私、いっつも五円なんだ。十円だと『遠縁になる』とか、五百円だと『それ以上効果(硬貨)がない』って言うのを知ってから、何だか敏感になっちゃって」

「そうか? 俺はあまり気にしないけど。むしろ神社に金を入れるという意味では、札ぐらい入れた方が助かるんじゃないかと思ってるよ」

「あぁー……。佑さんらしい」

 階段を上がって一礼をし、本殿のほうへ進んでゆく。

「アロイスさん、クラウスさん。参道の真ん中は神様が通る道なので、こうやって端っこを歩くんですよ」
「ふぅん」
「カスミ、日本人は全員こういうのを知ってるの?」

 アロイスが質問してくる。

「どうでしょうね。興味のある人が調べて知る方式なんだと思います。学校では習いませんし。日本の神道は、キリスト教のように国や毎日の生活に信仰が根付いているという訳でもありません。家に神棚があるような家庭は、お作法も知っていると思います。ですが全員ではありませんね」

「カミサマなのに、毎日お祈りしてないの?」

 パチリと青い目を瞬かせたクラウスに、香澄は曖昧に笑った。

「日本は仏教国と言っていいですが、お葬式の時ぐらいしか宗教を感じません。神社だって、来ない人は多いと思います。来ても新年の初詣とか、子供の七五三とか、イベント的な意味合いが強くて、自分の心の支え的に神社やお寺に通っている人は、少ないと思いますよ」

 参拝する前に話が長引きそうなので、香澄は一度参道の脇にある白い砂利に下りた。
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