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第七部・双子襲来 編
栗とイカ
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「あー! んまかったね!」
「そうそう。仕上げのピーチも美味しかった」
支払いでもめそうになり、食事の終わりには男性陣が三人でじゃんけんをした。
金を払うというのにじゃんけんで勝った者が払うというルールで、結局クラウスがブラックカードで支払った。
三人とも主張は同じで、「可愛い香澄が美味しく食べた食事なら、いけすかない従兄弟が同席した食事でも、気前よく払いたい」らしい。
一方、大将は案の定大喜びで、香澄に「また皆さんで来てください」と言っていた。
「本当にごちそうさまでした」
一行は車に乗り、すぐにある円山公園に向かっている。
そこで北海道神宮に参拝し、公園内を少し散策してホテルに戻る予定だ。
予定が少し早めなのは、双子が札幌駅周辺にある百貨店を見たいと言っているからだ。
その気になればどこででも外商を通じて高価な買い物ができるのだが、現地の空気を知りたいようだ。
車は北一条宮の沢通りを西に向かい、北海道神宮の駐車場に停まる。
「わぁ、久しぶり! ここ、私のとっておきのパワースポットなんだよ」
香澄が嬉しそうに先を歩き、夏の風が彼女のスカートを揺らす。
「可愛いなぁ……」
「ホント。僕たちブルーメンブラットヴィルに戻っても、あんなにはしゃげないよね」
真顔で呟く双子を無視し、佑は香澄の隣に並んで歩く。
日差しが強くサングラスを掛けているので、すぐには御劔佑とバレないだろう。
だが異様にスタイルが良く雰囲気からして極上の男感が漂っているので、注目されるのは避けられない感じがする。
「こっちの駐車場側の鳥居は、ごく最近できたんだよ。本当は参道をまっすぐ行った鳥居があるんだけど、駐車場を利用する人も多いから作ったんじゃないかな」
「需要があってそれに応えられるというのも、恵まれているよな。さすが札幌を代表する神社だ」
二人が鳥居前で一礼したのを見て、後ろから双子も真似をしてから通る。
すぐ左手には北海道銘菓の『浜梨亭』の店舗がある。
あとで寄るとして、香澄たちはまっすぐ歩いた。
正面に参道が見えるが、そこに続く両側には杉の木が植えられ、ベンチがあって憩いの場になっている。
「あのね、佑さん。札幌に杉って珍しいんだよ。函館ぐらいまで南に行ったら生えてるっぽいけど」
「へぇ? じゃあ、杉花粉の人は助かるかもな?」
「ふふ。確かにそうかも。でもブタクサとかヨモギとかもあるし、他の花粉はあるかもね」
ひょっと佑と香澄の間にアロイスが顔を出し、二人の肩をゆっくり押して引き剥がしてくる。
「ちょ……、おい、お前ら」
佑が文句を言う間、双子は二人の間にヌルッ……と入ってきた。
それをいつもの事と思いながら、香澄は話を続ける。
「北海道って基本、杉が生えないんですよね。ここの杉は人工的に植林されたみたいなんです」
香澄は離れてゆく佑を見て苦笑いしつつ、ちゃんと地元の事を説明していた。
「他にも本州にはあってこっちにはない植物ってある?」
地元の事を聞きたがるクラウスに、香澄は嬉しそうに笑って答える。
「そうですね。まず竹林はありません。あと、椿の花も。金木犀……とかもないと思います。だから、本州の友人が手紙やメールに『そろそろ金木犀の香りがしてきた』と書いても、私いまいちピンとこないんですよね。それで羨ましいって思っちゃう」
「ふぅん? じゃあ、栗の花の匂いも嗅いだことないんだ?」
ニヤニヤしたアロイスの言葉に、香澄は小首を傾げて頷く。
「栗? そうですね。あんまり聞かないかもしれません。道南とかだとあるのかな?」
「……おい」
精液の匂いがすると噂の栗の花の香りを知っている佑は、ジト目になってアロイスを睨む。
「カスミって、イカ調理する? あれって手に匂いつくよね!」
「そうですね。にんにくとかネギ類とか、お魚さばいた時とか、結構手に匂いつきますね。でも最近テレビのお役立ち番組で知ったんですけど、水を流しながらステンレスのシンクで手を擦ると、匂いが消えるらしいんです! 私やってみたんですが、本当に匂いが消えて……」
クラウスのイカ質問に香澄は自然に返事をするが、クラウスはまだイカを引っ張る。
「イカの匂いってどう思う? 好き?」
「え? ……そう言われましても。あんまり……いい匂いじゃないですよね? 生だとちょっと……。焼いた匂いは美味しそうですが」
「……いい加減にしろよ」
佑が低い声で言い、双子は顔を見合わせて忍び笑いをする。
セクハラをされていると分かっていない香澄は、きょとんとしたままだ。
「そうそう。仕上げのピーチも美味しかった」
支払いでもめそうになり、食事の終わりには男性陣が三人でじゃんけんをした。
金を払うというのにじゃんけんで勝った者が払うというルールで、結局クラウスがブラックカードで支払った。
三人とも主張は同じで、「可愛い香澄が美味しく食べた食事なら、いけすかない従兄弟が同席した食事でも、気前よく払いたい」らしい。
一方、大将は案の定大喜びで、香澄に「また皆さんで来てください」と言っていた。
「本当にごちそうさまでした」
一行は車に乗り、すぐにある円山公園に向かっている。
そこで北海道神宮に参拝し、公園内を少し散策してホテルに戻る予定だ。
予定が少し早めなのは、双子が札幌駅周辺にある百貨店を見たいと言っているからだ。
その気になればどこででも外商を通じて高価な買い物ができるのだが、現地の空気を知りたいようだ。
車は北一条宮の沢通りを西に向かい、北海道神宮の駐車場に停まる。
「わぁ、久しぶり! ここ、私のとっておきのパワースポットなんだよ」
香澄が嬉しそうに先を歩き、夏の風が彼女のスカートを揺らす。
「可愛いなぁ……」
「ホント。僕たちブルーメンブラットヴィルに戻っても、あんなにはしゃげないよね」
真顔で呟く双子を無視し、佑は香澄の隣に並んで歩く。
日差しが強くサングラスを掛けているので、すぐには御劔佑とバレないだろう。
だが異様にスタイルが良く雰囲気からして極上の男感が漂っているので、注目されるのは避けられない感じがする。
「こっちの駐車場側の鳥居は、ごく最近できたんだよ。本当は参道をまっすぐ行った鳥居があるんだけど、駐車場を利用する人も多いから作ったんじゃないかな」
「需要があってそれに応えられるというのも、恵まれているよな。さすが札幌を代表する神社だ」
二人が鳥居前で一礼したのを見て、後ろから双子も真似をしてから通る。
すぐ左手には北海道銘菓の『浜梨亭』の店舗がある。
あとで寄るとして、香澄たちはまっすぐ歩いた。
正面に参道が見えるが、そこに続く両側には杉の木が植えられ、ベンチがあって憩いの場になっている。
「あのね、佑さん。札幌に杉って珍しいんだよ。函館ぐらいまで南に行ったら生えてるっぽいけど」
「へぇ? じゃあ、杉花粉の人は助かるかもな?」
「ふふ。確かにそうかも。でもブタクサとかヨモギとかもあるし、他の花粉はあるかもね」
ひょっと佑と香澄の間にアロイスが顔を出し、二人の肩をゆっくり押して引き剥がしてくる。
「ちょ……、おい、お前ら」
佑が文句を言う間、双子は二人の間にヌルッ……と入ってきた。
それをいつもの事と思いながら、香澄は話を続ける。
「北海道って基本、杉が生えないんですよね。ここの杉は人工的に植林されたみたいなんです」
香澄は離れてゆく佑を見て苦笑いしつつ、ちゃんと地元の事を説明していた。
「他にも本州にはあってこっちにはない植物ってある?」
地元の事を聞きたがるクラウスに、香澄は嬉しそうに笑って答える。
「そうですね。まず竹林はありません。あと、椿の花も。金木犀……とかもないと思います。だから、本州の友人が手紙やメールに『そろそろ金木犀の香りがしてきた』と書いても、私いまいちピンとこないんですよね。それで羨ましいって思っちゃう」
「ふぅん? じゃあ、栗の花の匂いも嗅いだことないんだ?」
ニヤニヤしたアロイスの言葉に、香澄は小首を傾げて頷く。
「栗? そうですね。あんまり聞かないかもしれません。道南とかだとあるのかな?」
「……おい」
精液の匂いがすると噂の栗の花の香りを知っている佑は、ジト目になってアロイスを睨む。
「カスミって、イカ調理する? あれって手に匂いつくよね!」
「そうですね。にんにくとかネギ類とか、お魚さばいた時とか、結構手に匂いつきますね。でも最近テレビのお役立ち番組で知ったんですけど、水を流しながらステンレスのシンクで手を擦ると、匂いが消えるらしいんです! 私やってみたんですが、本当に匂いが消えて……」
クラウスのイカ質問に香澄は自然に返事をするが、クラウスはまだイカを引っ張る。
「イカの匂いってどう思う? 好き?」
「え? ……そう言われましても。あんまり……いい匂いじゃないですよね? 生だとちょっと……。焼いた匂いは美味しそうですが」
「……いい加減にしろよ」
佑が低い声で言い、双子は顔を見合わせて忍び笑いをする。
セクハラをされていると分かっていない香澄は、きょとんとしたままだ。
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