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第七部・双子襲来 編

寿司

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「タイショウ? 何してんの?」

 興味津々という様子で尋ねたアロイスに、大将が答える。

「これからホッキ貝をお出ししますが、こうして叩くと柔らかくなるんですよ」
「大将。香澄とはいつ頃からのお付き合いなのですか?」

 佑の質問に、大将はよどみなく手を動かして話す。

「初めていらっしゃったのは、香澄さんが初任給をもらった時でしたっけ。ご両親を連れて『初めてのご馳走なんです』と言っていて……。いやぁ、初々しかったですね」

 新鮮なホッキは叩きつけられてキューッと身が締まり動いていたが、大将の手によって鮮やかに切られシャリの上に載せられる。

「ここで初めて、お醤油をつけなくても食べられるお寿司があるって知ったの。もう、大感動だったなぁ」
「さあ、赤松さんどうぞ。すみませんね。レディファーストです」

 香澄の目の前の皿にホッキの握りが置かれ、冗談を言った大将はすぐに次の握りに取り掛かる。

「わあ……。大将のお寿司久しぶり」
「カスミ、僕らに気にせず先に食べていいからね。スシは鮮度が命だから」
「ありがとうございます。じゃあ、頂きます」

 香澄は断りを入れてから、ぱくんと一貫を一口で食べてしまった。

「んぅ~……っ」

 もぐもぐと口を動かしてすぐ香澄がうなり、じたばたと暴れたいのを必死に我慢する。

「あぁー……。美味そうに食べるなぁ」
「いいよね。ご馳走するもんを美味そうに食べてくれる女の子って」

 佑と双子の前にもホッキの握りが出され、「いただきます」と三人が寿司を口に入れた。

「ね、どう? どう? 美味しいでしょ?」

 自分の贔屓している店を三人に紹介できるのが、嬉しくて仕方がない香澄は、隣にいる佑をじぃっと見る。

 その純粋な感情に、佑はホッキ寿司を味わう間もなくあまりの愛しさに笑い出していた。
 口元を押さえて寿司を食べてしまい、堪らないというように香澄に言う。

「さすが香澄が選んだ店だな。最高に美味いよ」
「んふふー」

 香澄は自分の事のように喜び、次に出てきた数の子の握りに手を出す。
 コリコリとした食感に鰹節の香りがふんわりと漂い、この上なく美味しい。

 それから次から次へと、プリプリとしていながらねっとりとした甘みのある車エビ。刷毛で柚子醤油をさっと塗られたヒラメは口腔で香りを広げる。そして口の中であっというまに無くなってしまう、トロも絶品だ。

 口の中に入れると、存在をこれでもかと香りで主張してくるカニ。脂の乗りが絶妙なカンパチ。あまりになめらかでクリーミーとすら思ってしまうホタテ。そして香澄の大好きなイクラの軍艦巻き。最後はとろけるウニで締めくくりだ。

「んうぅ……。幸せ……」

 全十貫を食べ終わったあと、香澄は両手で頬を包んでニマニマしている。

「終わったら季節の果物をお出ししていますが、その前に何かご注文はありますか?」

 大将がにこやかに尋ねた途端、双子が勢いよくハモった。

「「俺(僕)、トロとウニ三つずつにホタテと車エビ二つずつ!」」

 完璧なハモりに大将は目を丸くし、相好を崩した。

「かしこまりました。赤松さんと御劔さんは?」

 尋ねられ、香澄はチラッと佑を見る。

「俺はヒラメとカニ、あとイカはありますか? 香澄も好きなのを頼んでいいよ」
「じゃ、じゃあトロとイクラとウニを……」
「まいど」

 ニコッと笑い、大将は次々に寿司を握ってゆく。

「あぁー……、嬉しい。大好きなお店に佑さんたちと来られて、本当に良かった」

 追加の寿司をもぐもぐと食べつつも、香澄は内心〝札幌接待〟と思っているものが無事に終わりそうで安堵している。

「明日にはまた東京戻って、仕事復帰するからしっかり栄養取らないとな?」
「うんっ」

 ふと仕事を思い出し、香澄は気合いを入れる。

 飯山たちの事は確かにショックだったし傷付いた。
 しかし彼女たちは佑が沙汰を言い渡したそうだし、確かにもう心配しなくていいのかもしれない。

 親しくしている成瀬たちはともかく、他の社員たちの中にだって口に出さないが香澄の存在を快く思っていない者もいる可能性がある。

 これから香澄は、「浮ついてばかりいません。ちゃんと働きます」という気持ちを、仕事で見せなければいけない。

 特に、第三秘書として入った河野にはしっかりと。

 もぐもぐと一口一口をしっかり噛みしめ、香澄は仕事に復帰してからの事に心を燃えさせていた。
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