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第七部・双子襲来 編
柳
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「そこまで美味しいんだ?」
「うん。東京の有名店と比べたらどっちが……とかは言えないけど、少なくとも私にとっての札幌のトクベツはここなの」
「いいねいいね。カスミのトクベツに行こう」
「スシスシ! コースとかあるの? 単品?」
「一応、特上寿司とか何貫で幾らというのはありますが、単品で好きな物を頼んでも、対応してくれますよ。私も給料日のあとは、トロとかウニとかイクラとか、ついつい贅沢してしまって……」
思い出しただけでじゅわりと口に唾が沸き、香澄は幸せそうな顔をする。
その頭を、クツクツと笑った佑にポンポンと撫でられた。
「よし、香澄。今日は香澄の好きな寿司を好きなだけ食べていいよ。俺が奢るから」
「ずるい! 僕らだってカスミにご馳走したい!」
「そうだよ。何のために俺らの真っ黒なカードがあると思ってるんだ。女の子を喜ばせるためだぞ」
ぶーぶーと文句を言う双子を、佑がじろりと一瞥する。
「お前らは美里さん一筋になったんじゃなかったのか? 今度彼女にご馳走すればいいじゃないか」
すると双子のブーイングがピタリと止まった。
「そうだね。タスクたまにはいいこと言う!」
「次に札幌来たら、ミサトとスシデートしよう。そのあとうまくいったらホテルだ」
「ですから……」
すぐベッドにもつれ込もうとする双子に呆れた目をやり、香澄は前方に見えてきた大通公園の緑を見て溜め息をついた。
大通公園の雰囲気を味わいテレビ塔の前でまた撮影会をしてから、四人は呼んだ車に乗り込んで円山方面に向かった。
香澄が予約した十二時半には店に着き、住宅街に紛れてぽつんと看板を出しているこぢんまりとした店に入った。
「Wow……雰囲気あるね」
店の引き戸を引くと、目の前の一畳ほどの空間に、小さな灯籠や鹿威しがあり、砂利や緑がある。
店内は音楽も掛からない静かな空間で、カウンターには四人分の用意がされてあった。
カウンターは五、六席ぐらいで、その真後ろに小上がりがあってテーブル席が二つだ。最大でも十名少しという小さな店だが、漂う雰囲気は高級そのものだ。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
奥から老齢の店主が出てきて、顔見知りらしい香澄に向かって微笑みかける。
「赤松さん、久しぶりだね。また随分垢抜けちゃって」
「大将、お久しぶりです。こちらは私の婚約者の御劔佑さん。こちらのお二人は佑さんの従兄さんのアロイスさんとクラウスさんです」
紹介された順番に会釈をし、佑は大将に向かって少し苦笑いする。
「すみません。こんな素敵な店だと分かっていたら、もっときちんとした格好をしてくるべきでした」
当初では札幌の中心部をぶらりと見る予定だったので、佑もいつものスーツ姿に比べれば私服と言っていいカジュアルさだ。
「いいんですよ。そんなかしこまって食べたら美味くないでしょう。私の寿司はリラックス食べてください」
「ありがとうございます」
大将の柔和な笑みに佑は礼を言い、勧められるがまま四人でカウンター席に座った。
目の前には寿司ネタが入ったガラスケースがあり、その向こうで大将が何やら準備をしている。
おしぼりで手を拭くと、しばらくして板前法被を着た店員が味噌汁を出してくれた。
「ここ、お味噌汁もとっても美味しいんですよ。このガリもとっても美味しいの。私、普段お寿司のガリはあまり食べないんだけど、ここのだけは別格。……じゃあ、いただきます」
割り箸を割って香澄が「いただきます」を言うと、三人もそれに倣った。
「……うん。とても美味しいです」
一口飲んで佑が大将に向かって微笑み、双子もうんうんと頷いている。
どうやら舌が肥えている三人にも好評だったようで、香澄は内心ガッツポーズをとった。
「寿司はお電話で受けた通り、特製生寿司でいいですか?」
大将の質問に佑が頷く。
「それでお願いします。一通り楽しんだあと、別途注文するかもしれません」
「大歓迎です。そちらのお二人は、生物(なまもの)ですが苦手な物はありませんか?」
外国人である双子に大将が配慮したが、双子はケロリとして首を振る。
「全然! 日本食もスシも大好き!」
「僕らのオーマ……お婆ちゃんがね、日本人なんだ。だから僕ら日本食が大好きなんだよ」
明らかに年上の大将に向かっても、やはり双子は口調を変えない。
「かしこまりました」
返事をした大将は、そのあと手元でビタン! と何かを叩きつけた。
「うん。東京の有名店と比べたらどっちが……とかは言えないけど、少なくとも私にとっての札幌のトクベツはここなの」
「いいねいいね。カスミのトクベツに行こう」
「スシスシ! コースとかあるの? 単品?」
「一応、特上寿司とか何貫で幾らというのはありますが、単品で好きな物を頼んでも、対応してくれますよ。私も給料日のあとは、トロとかウニとかイクラとか、ついつい贅沢してしまって……」
思い出しただけでじゅわりと口に唾が沸き、香澄は幸せそうな顔をする。
その頭を、クツクツと笑った佑にポンポンと撫でられた。
「よし、香澄。今日は香澄の好きな寿司を好きなだけ食べていいよ。俺が奢るから」
「ずるい! 僕らだってカスミにご馳走したい!」
「そうだよ。何のために俺らの真っ黒なカードがあると思ってるんだ。女の子を喜ばせるためだぞ」
ぶーぶーと文句を言う双子を、佑がじろりと一瞥する。
「お前らは美里さん一筋になったんじゃなかったのか? 今度彼女にご馳走すればいいじゃないか」
すると双子のブーイングがピタリと止まった。
「そうだね。タスクたまにはいいこと言う!」
「次に札幌来たら、ミサトとスシデートしよう。そのあとうまくいったらホテルだ」
「ですから……」
すぐベッドにもつれ込もうとする双子に呆れた目をやり、香澄は前方に見えてきた大通公園の緑を見て溜め息をついた。
大通公園の雰囲気を味わいテレビ塔の前でまた撮影会をしてから、四人は呼んだ車に乗り込んで円山方面に向かった。
香澄が予約した十二時半には店に着き、住宅街に紛れてぽつんと看板を出しているこぢんまりとした店に入った。
「Wow……雰囲気あるね」
店の引き戸を引くと、目の前の一畳ほどの空間に、小さな灯籠や鹿威しがあり、砂利や緑がある。
店内は音楽も掛からない静かな空間で、カウンターには四人分の用意がされてあった。
カウンターは五、六席ぐらいで、その真後ろに小上がりがあってテーブル席が二つだ。最大でも十名少しという小さな店だが、漂う雰囲気は高級そのものだ。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
奥から老齢の店主が出てきて、顔見知りらしい香澄に向かって微笑みかける。
「赤松さん、久しぶりだね。また随分垢抜けちゃって」
「大将、お久しぶりです。こちらは私の婚約者の御劔佑さん。こちらのお二人は佑さんの従兄さんのアロイスさんとクラウスさんです」
紹介された順番に会釈をし、佑は大将に向かって少し苦笑いする。
「すみません。こんな素敵な店だと分かっていたら、もっときちんとした格好をしてくるべきでした」
当初では札幌の中心部をぶらりと見る予定だったので、佑もいつものスーツ姿に比べれば私服と言っていいカジュアルさだ。
「いいんですよ。そんなかしこまって食べたら美味くないでしょう。私の寿司はリラックス食べてください」
「ありがとうございます」
大将の柔和な笑みに佑は礼を言い、勧められるがまま四人でカウンター席に座った。
目の前には寿司ネタが入ったガラスケースがあり、その向こうで大将が何やら準備をしている。
おしぼりで手を拭くと、しばらくして板前法被を着た店員が味噌汁を出してくれた。
「ここ、お味噌汁もとっても美味しいんですよ。このガリもとっても美味しいの。私、普段お寿司のガリはあまり食べないんだけど、ここのだけは別格。……じゃあ、いただきます」
割り箸を割って香澄が「いただきます」を言うと、三人もそれに倣った。
「……うん。とても美味しいです」
一口飲んで佑が大将に向かって微笑み、双子もうんうんと頷いている。
どうやら舌が肥えている三人にも好評だったようで、香澄は内心ガッツポーズをとった。
「寿司はお電話で受けた通り、特製生寿司でいいですか?」
大将の質問に佑が頷く。
「それでお願いします。一通り楽しんだあと、別途注文するかもしれません」
「大歓迎です。そちらのお二人は、生物(なまもの)ですが苦手な物はありませんか?」
外国人である双子に大将が配慮したが、双子はケロリとして首を振る。
「全然! 日本食もスシも大好き!」
「僕らのオーマ……お婆ちゃんがね、日本人なんだ。だから僕ら日本食が大好きなんだよ」
明らかに年上の大将に向かっても、やはり双子は口調を変えない。
「かしこまりました」
返事をした大将は、そのあと手元でビタン! と何かを叩きつけた。
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