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第七部・双子襲来 編

お墓でピクニック

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「お忙しいのに、はるばる東京からありがとうございます。立派なお花まで……」

「いえ。いずれ親戚となりますから、ご先祖様に挨拶をするのは当たり前です。逆に何かとお騒がせしてしまい、申し訳ございません」

 非の打ち所のない佑の態度に、祖父母含め親戚全員メロメロだ。





 全員拝み終わると、墓から少し離れた芝の上でビニールシートを広げ、各自家庭で作ってきたおかずを広げ、弁当大会となる。

「あ、美味しいですね。この玉子焼き。香澄が作るのと同じ味がします」

 栄子が作った玉子焼きを食べて佑が感想を述べると、叔母が角煮の入った保存容器をずいっと差し出してきた。

「御劔さんっ。お肉好きですか? 今回、柔らかく上手にできた気がするんです」
「頂きます。美味しそうですね」

 紙皿の上に角煮を一つ取り、佑が微笑む。それだけで叔母は少女のようにはにかんだ。
 叔母のところの長男は忙しいらしく来ていないが、妹二人はそんな母を見て苦笑している。

「御劔様。この煮物、私手伝ったんです」
「あっ! 私も! この天ぷら見張ってました!」

 張り合う姉妹に佑は苦笑し、差し出された料理を一つずつ摘まむ。

「佑さんモテモテだね。どう? お墓でピクニックもなかなかいいもんでしょ」

 屈託なく笑う香澄は、親戚に囲まれごく自然体になっていた。
 それを見た佑は「札幌に来て良かった」と思い微笑むのだった。

 昼食が終わると解散という流れになり、佑が東京から持って来た菓子折を配る。

 恐縮しきった親戚と両親に挨拶をし、佑と香澄は車に乗ってまたホテルに戻った。





 後部座席で並んで座り、二人はシートの上で手を繋いでいる。

「明日はあいつらと遊んでやらないと、拗ねるかな?」

「ふふ。札幌観光だもんね。あー……。どうしよっかなぁ。街中って言っても道庁とか時計台とか、それぐらいしか見るものがない気がするな。本州だとお城があるけど、北海道って開拓されてからの歴史が浅いから、それほど歴史的な建物がないんだよね。あっても函館の方とかかな」

「ああ。五稜郭だっけ、あの星形の」

「そうそう。五稜郭タワーもあるよ。東京タワーやスカイツリーに比べると、ずっと低いけど。五稜郭は春と秋が綺麗かな。桜と紅葉が見られるので。あとは函館だとベイエリアとかも有名だね」

「やけに詳しいな。札幌っ子なんじゃなかったのか?」

「たまに道内旅行するよ。札幌駅発着の、日帰りバスツアーとか時々行くの。前は美瑛にある青い池とか、富良野のラベンダー畑。北竜町のひまわり畑も見たかな。家族や友達と行くなら、車に乗せてもらって定山渓とか洞爺湖の温泉ホテルとか」

「……ふぅん。俺が知らない間に、随分北海道を楽しんでるんだな」

 佑の言い方に香澄は笑う。

「知らない間にって、出会う前だよ? それに道民だもん。北海道の綺麗な所は見ておかないと」
「あそこは? 小樽」

「あぁー、小樽ね。あそこもSNS映えする所だよ。どっちかって言うと外国人観光客が多い印象かな。昔は運河があったからその倉庫として使っていた赤レンガの建物を、お洒落に再利用してお店にしたり……。あとガラス工房とかオルゴール館もあるし、お寿司目的で行く人もいるね」

「ふぅん。車でどれぐらい?」

「車だとどうかな? 一時間も掛からない感じだと思うけど。でも小樽って坂が多くて土地もちょっとごちゃごちゃしてて、車で移動するよりは、交通機関で行ってじっくり歩く方が楽しめる土地かな?」

「へぇ……。寿司……と」

 佑はさっそくスマホで何かを検索している。

「行くの?」
「今回は無理だろうけど、次回のために調べておこうと思って」

「ふふ、予習ね」

 香澄はパンプスを脱いで中座席に足をかけ、そっと左脚をさする。

「痛むか?」
「ううん。それほどでも。ちょっと疲れただけ」

「明日も無理はしないでおこう。何だったら観光はあいつらだけにさせて、ホテルでスパとか受けてもいいし」
「贅沢な誘惑だなぁ。でも約束したから、ちゃんと案内しないと」

「……香澄はまじめだな」

 シートにスマホを置いた佑は、指の背でちょいちょいと香澄の顎をくすぐる。

「A型ですから」

 冗談めかして笑った香澄の手を彼が握ってくる。
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