343 / 1,559
第七部・双子襲来 編
これは、私のものです
しおりを挟む
パーティーなどで双子の取り巻きに会った事はあるが、中には確かに「この子は本気そうだな」と感じた女性はいた。
双子の見分けがつき、その片方を真剣に想っていただろうに、可哀相な話である。
しかし彼らからすれば、「好きなら好きと言わない方が悪い。自分たちは遊び仲間だと思っていたから気付かない」と主張するかもしれない。
「……まぁ、子供じゃないしな。好きな女性は自分で決めるべきだし、仮に本気なら見守るしかないか」
「修羅場にならなきゃいいけど……」
自分も修羅場に強いタイプではない香澄が、ぼんやりと呟いてラズベリーのカクテルを口にする。
香澄の言葉を聞き、佑が溜め息混じりに呟いた。
「その時は彼女の味方になってあげよう。俺はあいつらの味方にはならないが、バーテンダーさんの事は……何ていうか、気の毒だから。身内の不始末という事で」
「あはは……」
結局、双子が何をしても、佑が気を揉むのは変わらないのだった。
**
一時間ほどバーで過ごしたあと、部屋に戻る事にした。
香澄はバーを出る際、メモに自分の連絡先を書いて美里に渡した。
「お二人の事で困った時、良かったら連絡をください。力になれるかもしれません」
「ありがとうございます」
女性だからか、美里は何の警戒もなくメモを受け取ってくれた。
双子にロックオンされた彼女が、このまま無事でいられるとは思えない。
(頑張って……!)
心の中で拳を握り、香澄はいまだカウンターに座っている双子をあとに、佑と共にバーを出た。
「……俺も香澄にああいうのされたかったな」
エレベーターの中で佑がポツリと呟く。
「ん? 〝ああいうの〟って?」
「香澄に『これ、連絡先です』ってされたかった」
「もう、今さら何いってるの」
香澄はクスクス笑い、彼の腕に腕を絡ませる。
頭を寄せて甘えながらも、自分の心の奥にまだ黒いものが残っているのを自覚して、小さく息をつく。
レストランで佑の話を聞き、生まれてしまった嫉妬心はいまだ燻っている。
何とか軌道修正をして、場所を変えてバーでも普通に話せていたのに……。
せっかくアルコールで少しハイになっていたのに、これから部屋に戻るとなると気持ちが落ちてくる。
そして自分が「襲う」と宣言したのも、しっかり覚えていた。
ポン……と電子音がし、二十二階にエレベーターが到着する。
スイートルームのドア前で佑がカードキーをかざし、部屋の照明がついたのを確認してから、香澄は佑に抱きついた。
「っ……、かす、……み?」
彼の背筋に額を押しつけたあと、グリグリとさらに額を擦りつける。
「…………バカ」
佑の背中に顔を埋めたまま、呟く。
とんっと背中を拳で打ったけれど、彼は前を向いたままだった。
「……ばか」
香澄は横を向いて、右頬を押しつけたまま、もう一度呟く。
そして手を伸ばしたかと思うと、佑のスラックスの上から股間を包んだ。
「……これは、私のものです」
初歩英語のThis is a pen.のような言い方をし、香澄は手の中のモノをにぎにぎと揉む。
「俺のすべては香澄のものだよ」
背中越しに彼の低い声が伝わり、それだけで泣きそうになる。
佑の声が好きだ。
低くて艶やかで、魅力的な声だ。
会社で働いていても、社長としての威厳のある声がとても格好いい。
――この声が、自分以外の女性の名前を呼んでいたと想像するだけで、胸がどす黒い感情に支配される。
「……名前、呼んで」
「香澄」
「もっと」
「……香澄」
自分の心の狭さを情けなく思い、香澄はいつのまにか涙を零していた。
双子の見分けがつき、その片方を真剣に想っていただろうに、可哀相な話である。
しかし彼らからすれば、「好きなら好きと言わない方が悪い。自分たちは遊び仲間だと思っていたから気付かない」と主張するかもしれない。
「……まぁ、子供じゃないしな。好きな女性は自分で決めるべきだし、仮に本気なら見守るしかないか」
「修羅場にならなきゃいいけど……」
自分も修羅場に強いタイプではない香澄が、ぼんやりと呟いてラズベリーのカクテルを口にする。
香澄の言葉を聞き、佑が溜め息混じりに呟いた。
「その時は彼女の味方になってあげよう。俺はあいつらの味方にはならないが、バーテンダーさんの事は……何ていうか、気の毒だから。身内の不始末という事で」
「あはは……」
結局、双子が何をしても、佑が気を揉むのは変わらないのだった。
**
一時間ほどバーで過ごしたあと、部屋に戻る事にした。
香澄はバーを出る際、メモに自分の連絡先を書いて美里に渡した。
「お二人の事で困った時、良かったら連絡をください。力になれるかもしれません」
「ありがとうございます」
女性だからか、美里は何の警戒もなくメモを受け取ってくれた。
双子にロックオンされた彼女が、このまま無事でいられるとは思えない。
(頑張って……!)
心の中で拳を握り、香澄はいまだカウンターに座っている双子をあとに、佑と共にバーを出た。
「……俺も香澄にああいうのされたかったな」
エレベーターの中で佑がポツリと呟く。
「ん? 〝ああいうの〟って?」
「香澄に『これ、連絡先です』ってされたかった」
「もう、今さら何いってるの」
香澄はクスクス笑い、彼の腕に腕を絡ませる。
頭を寄せて甘えながらも、自分の心の奥にまだ黒いものが残っているのを自覚して、小さく息をつく。
レストランで佑の話を聞き、生まれてしまった嫉妬心はいまだ燻っている。
何とか軌道修正をして、場所を変えてバーでも普通に話せていたのに……。
せっかくアルコールで少しハイになっていたのに、これから部屋に戻るとなると気持ちが落ちてくる。
そして自分が「襲う」と宣言したのも、しっかり覚えていた。
ポン……と電子音がし、二十二階にエレベーターが到着する。
スイートルームのドア前で佑がカードキーをかざし、部屋の照明がついたのを確認してから、香澄は佑に抱きついた。
「っ……、かす、……み?」
彼の背筋に額を押しつけたあと、グリグリとさらに額を擦りつける。
「…………バカ」
佑の背中に顔を埋めたまま、呟く。
とんっと背中を拳で打ったけれど、彼は前を向いたままだった。
「……ばか」
香澄は横を向いて、右頬を押しつけたまま、もう一度呟く。
そして手を伸ばしたかと思うと、佑のスラックスの上から股間を包んだ。
「……これは、私のものです」
初歩英語のThis is a pen.のような言い方をし、香澄は手の中のモノをにぎにぎと揉む。
「俺のすべては香澄のものだよ」
背中越しに彼の低い声が伝わり、それだけで泣きそうになる。
佑の声が好きだ。
低くて艶やかで、魅力的な声だ。
会社で働いていても、社長としての威厳のある声がとても格好いい。
――この声が、自分以外の女性の名前を呼んでいたと想像するだけで、胸がどす黒い感情に支配される。
「……名前、呼んで」
「香澄」
「もっと」
「……香澄」
自分の心の狭さを情けなく思い、香澄はいつのまにか涙を零していた。
44
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。



【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる