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第七部・双子襲来 編
札幌に家買うぞ
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「……何て言ったらいいのかな。お二人って、美里さんが断らないの、大前提じゃないですか」
「そりゃあ、俺たちだし」
アロイスが自信満々に言う。
「そこ。そういう所なんです。お二人は『日本人は控えめ』って言いますよね? 逆に自信過剰すぎると敬遠されます。日本人は互いの領域を見定めて、傷付けたり不快な思いをしないように、配慮し合いながら生きています。お二人はその慮った空間を気にせず、思うがままに進もうとするじゃないですか」
「Hmm……オキモチか」
「僕ら、欲しい物は欲しい、で育ったからなぁ」
美里はひたすらカクテルシェイカーを振り、ウイスキーを水やソーダで割ってはフロアガールに渡してゆく。
「私は壁です。どうぞ会話してください」と言わんばかりのバーテンダーぶりに、香澄は申し訳なさを覚える。
「まず、彼女には彼女の生き方があり、今まで育った環境があります。毎日の仕事があり、夢や譲れないものもあります。ご家族もいらっしゃいますし、彼氏がいるかもしれません」
「いないに一千ドル」
クラウスがいきなり賭け始める。
それを無視し、香澄は続ける。
「佑さんもそうなのですが、お二人のような存在って規格外なんです。宝くじで一億当てたとか、地球に隕石が当たるぐらいな感じです」
とんでもない例えられ方に、双子は顔を見合わせ肩をすくめる。
「セレブに札幌住まいの女の子が声を掛けられても、驚くだけで本気にしません。信じてもらうには、相応の誠意が必要です。仮に一度だけベッドを共にしたら、彼女は『それだけの関係だ』と思うでしょう。お二人が本気の恋をしたいのなら、時間を掛けて美里さんに〝本気〟を伝えてください。そして何より重婚はできません。軽い体だけの付き合いならともかく、一人の女性に二人の男性というのは、〝普通〟ではないんです。だから彼女は本気になりません」
そこまで言ってチラリと美里を伺えば、彼女は「よくぞ言ってくれました」と言わんばかりに黙礼した。
双子はスツールで脚を組み、無言で酒を飲む。
オーダーに間が空いて、美里は手元を布巾で拭きながら双子に向かって微笑む。
「お二人のお気持ちは嬉しいです。お酒をこぼしてしまったミスは申し訳なく思っています。ですがそのミスを理由にお客様の言う事を聞くなんて、あってはいけません。軟派されたからすぐに男性と関係しようとも思いません。彼氏はいませんが、声を掛けられたからという理由で、有名人の関係者であるお二人と関わろうとも思いません」
きっぱりと言われ、双子は肩を落とす。
「お客様としてなら、いつでもここでお待ちしています」
ハッキリ線引きされ、クラウスはカウンターに肘をつく。
不意に、アロイスが「分かった」と自分の腿を打った。
「よし、じゃあ俺たちここに通うよ。クラ、札幌に家買うぞ」
「ん、分かった」
軽い調子で「家を買う」と決める双子に、美里の目が大きく見開かれ、零れ落ちそうになる。
香澄は溜め息をつき、美里に向かって「力になれなくてすみません」という弱々しい笑みを向ける。
「こういう人たちなんです。……あの、頑張ってください」
「は、はぁ……」
こうして「決してオチてなるものか」と思うバーテンダーと、「絶対にオトしてみせる」という双子御曹司のバトルが始まったのだった。
だがそれはまた、別の話となる。
「お帰り。遅かったな。あいつらと何かあったか?」
手洗いに行って個室に戻ると、佑は新しいハイボールのグラスを傾けていた。
「うーん……。えぇと、まぁ、色々……」
苦笑いする香澄を見て佑は眉を上げ、脚を組み直し「何があった?」と低い声で尋ねる。
だが香澄は「そうじゃないの」と笑って、双子の変化を教えた。
「お二人がね、ちょっと変わり始めたかな? って。多分、これから私にちょっかい出す事はなくなるんじゃないかな?」
「……え?」
訳が分かっていない佑に、香澄は双子を惹きつけたバーテンダーの話をする。
「それで、女性関係全部断ち切っちゃったんだって」
「…………。ほんっとうに何もかも突然だな」
聞いたら聞いたで、突拍子もなく、佑は頭を抱える。
今頃、双子のガールフレンド達は大騒ぎだろう。
メリットデメリットが合致して付き合っていたのに、突如として関係を解消された彼女たちが気の毒でもある。
完全に遊びならいいのだが、中にはセックスフレンドでもいいから双子の側にいたいと願う女性もいたはずだ。
「そりゃあ、俺たちだし」
アロイスが自信満々に言う。
「そこ。そういう所なんです。お二人は『日本人は控えめ』って言いますよね? 逆に自信過剰すぎると敬遠されます。日本人は互いの領域を見定めて、傷付けたり不快な思いをしないように、配慮し合いながら生きています。お二人はその慮った空間を気にせず、思うがままに進もうとするじゃないですか」
「Hmm……オキモチか」
「僕ら、欲しい物は欲しい、で育ったからなぁ」
美里はひたすらカクテルシェイカーを振り、ウイスキーを水やソーダで割ってはフロアガールに渡してゆく。
「私は壁です。どうぞ会話してください」と言わんばかりのバーテンダーぶりに、香澄は申し訳なさを覚える。
「まず、彼女には彼女の生き方があり、今まで育った環境があります。毎日の仕事があり、夢や譲れないものもあります。ご家族もいらっしゃいますし、彼氏がいるかもしれません」
「いないに一千ドル」
クラウスがいきなり賭け始める。
それを無視し、香澄は続ける。
「佑さんもそうなのですが、お二人のような存在って規格外なんです。宝くじで一億当てたとか、地球に隕石が当たるぐらいな感じです」
とんでもない例えられ方に、双子は顔を見合わせ肩をすくめる。
「セレブに札幌住まいの女の子が声を掛けられても、驚くだけで本気にしません。信じてもらうには、相応の誠意が必要です。仮に一度だけベッドを共にしたら、彼女は『それだけの関係だ』と思うでしょう。お二人が本気の恋をしたいのなら、時間を掛けて美里さんに〝本気〟を伝えてください。そして何より重婚はできません。軽い体だけの付き合いならともかく、一人の女性に二人の男性というのは、〝普通〟ではないんです。だから彼女は本気になりません」
そこまで言ってチラリと美里を伺えば、彼女は「よくぞ言ってくれました」と言わんばかりに黙礼した。
双子はスツールで脚を組み、無言で酒を飲む。
オーダーに間が空いて、美里は手元を布巾で拭きながら双子に向かって微笑む。
「お二人のお気持ちは嬉しいです。お酒をこぼしてしまったミスは申し訳なく思っています。ですがそのミスを理由にお客様の言う事を聞くなんて、あってはいけません。軟派されたからすぐに男性と関係しようとも思いません。彼氏はいませんが、声を掛けられたからという理由で、有名人の関係者であるお二人と関わろうとも思いません」
きっぱりと言われ、双子は肩を落とす。
「お客様としてなら、いつでもここでお待ちしています」
ハッキリ線引きされ、クラウスはカウンターに肘をつく。
不意に、アロイスが「分かった」と自分の腿を打った。
「よし、じゃあ俺たちここに通うよ。クラ、札幌に家買うぞ」
「ん、分かった」
軽い調子で「家を買う」と決める双子に、美里の目が大きく見開かれ、零れ落ちそうになる。
香澄は溜め息をつき、美里に向かって「力になれなくてすみません」という弱々しい笑みを向ける。
「こういう人たちなんです。……あの、頑張ってください」
「は、はぁ……」
こうして「決してオチてなるものか」と思うバーテンダーと、「絶対にオトしてみせる」という双子御曹司のバトルが始まったのだった。
だがそれはまた、別の話となる。
「お帰り。遅かったな。あいつらと何かあったか?」
手洗いに行って個室に戻ると、佑は新しいハイボールのグラスを傾けていた。
「うーん……。えぇと、まぁ、色々……」
苦笑いする香澄を見て佑は眉を上げ、脚を組み直し「何があった?」と低い声で尋ねる。
だが香澄は「そうじゃないの」と笑って、双子の変化を教えた。
「お二人がね、ちょっと変わり始めたかな? って。多分、これから私にちょっかい出す事はなくなるんじゃないかな?」
「……え?」
訳が分かっていない佑に、香澄は双子を惹きつけたバーテンダーの話をする。
「それで、女性関係全部断ち切っちゃったんだって」
「…………。ほんっとうに何もかも突然だな」
聞いたら聞いたで、突拍子もなく、佑は頭を抱える。
今頃、双子のガールフレンド達は大騒ぎだろう。
メリットデメリットが合致して付き合っていたのに、突如として関係を解消された彼女たちが気の毒でもある。
完全に遊びならいいのだが、中にはセックスフレンドでもいいから双子の側にいたいと願う女性もいたはずだ。
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