上 下
341 / 1,548
第七部・双子襲来 編

普通の口説き方を知らない二人

しおりを挟む
「あ、カスミだ」

 クラウスが香澄に気づき、手を挙げる。
 香澄は二人に近づき、話しかける。

「あまり飲み過ぎたら駄目ですよ?」
「分かってるよ」

 バーテンダーの女性が香澄を見て微笑みかけ、会釈をしてくれたので、香澄も会釈を返す。

「カスミ、この子はミサト。可愛いでしょ」

 アロイスがバーテンダーの女の子を紹介してくれ、香澄は「もう名前を聞き出したのか。さすがだな」と思いながらもう一度会釈をする。

「ミサト、この子はカスミ。ミツルギタスクの婚約者。で、俺らはタスクの従兄だよ」
「へ……っ?」

 恐らく美里と書くだろう彼女はかなり驚いたらしく、カクテルをマドラーで掻き混ぜていた手が止まる。

(美形の双子とは思っていただろうけど、まさか佑さんの従兄とは思わないようね……)

 驚いただろう彼女に少し同情し、香澄は少し助け船を出す。

「美里さん、このお二人は悪い人ではありません。多少うるさいと思いますが、その時はどうぞ遠慮なくお店から放り出してください」

「カスミ、酷いなぁ」

 クラウスがケタケタと笑う。

「ねぇ、カスミ。俺たちこの子を好きになってみようって思ったんだ」

 アロイスにいきなりな事を言われ、さすがに香澄と美里の口から「え!?」という声が漏れた。

「さっき、今まで関係のあった女の子たち全員と手を切ったんだ。会うのは仕事だけ。僕たちもタスクみたいにきちんとした恋人がほしいから」

「そんな……、思いつきみたいじゃないですか」

「Nein(ううん)思いつきじゃないよ。俺ら、本気になれる子がほしいって思っていたのは本当なんだ。それに結婚するなら日本人の女の子がいいって思ってたし」

「突然ですね!?」

 カウンターの奥から美里が突っ込み、香澄も心の中で「その通り!」と頷く。

「でもさ。僕ら、人を見る目はあるつもりなの。この子を見て話してみて、ビビッときたんだよね。だから本気になってみようかって思ったんだ」

(うわああ……)

 美里に憐憫の目を向けると、彼女は顔を引き攣らせて固まっている。
 その手だけは動いて、シェイカーの中に次のカクテルの材料を入れているので、大したものだ。

「私の意思は無視ですか?」

 美里の問いに、クラウスは逆に質問する。

「僕らの事、嫌? 生理的にムリ? 恋人にしたくない?」

 その「選ばれないはずがない」という口調に、美里は黙り込む。
 堪らず香澄は口を挟んだ。

「あの、こういうお二人なんです。天上天下唯我独尊というか……。非常にマイペースで、私は〝双子ルール〟と呼んでいます」

「カスミ、それ初耳」

 双子がケタケタと笑い、両手を胸の前で打つほど大ウケしている。

「まぁ、僕たちも今までが今までだったし、信用されなくても仕方ないよ。ミサトだって初対面だし、いきなり『付き合おう』って言われてもびびるのは分かる」

 譲歩したクラウスの言葉に、やや我に返ったらしい美里が返事をする。

「本当に初対面ですね。それにお客様とのお付き合いは御法度ですので」

 努めて営業スマイルを浮かべる美里に、アロイスが「同じの」とウィスキーのグラスを差した。

「でも、服を汚したオワビをしてくれるんでしょ?」

 クラウスの言葉に、美里がビキッと固まる。

(あ……、そんなミスを……)

 香澄はいよいよ頭が痛くなり、手洗いどころではなくなった。

「お二人とも。幾ら美里さんを気に入ったからといって、弱みにつけ込むのは卑怯です。それぐらい分かっていますよね?」

 ぴし、と人差し指を立てて諫めたが、ちっとも意味をなさない。

「分かってるけどさ。ワンチャン、ミサトが嫌じゃないならチャンスがほしい」
「そうそう」

 諦めない双子に、香澄は溜め息をつく。

「普通に働いていたのに、いきなり初対面の人に『付き合おう』って言われる女性の身にもなってください」

 そう言うと、双子は子供のように唇を突き出して膨れた。

「Boo……難しいな。じゃあ、カスミが口説き方を教えて? 日本人の女の子って、何をしたら喜ぶの? 僕たちが常識知らずなら、カスミたちの常識を教えてよ」

「……あの」

 疲れを覚えた香澄は、一旦クラウスの隣のスツールに腰掛けた。
しおりを挟む
感想 555

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

処理中です...