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第七部・双子襲来 編
話し合う双子
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『この子いいよね』
『だねー。どことなくカスミを思わせる。犬で言ったら柴犬かな。キリッとして主人のために仕える感じ』
『あはは! 確かに柴犬っぽい。黒柴ね』
『そうそう。それにバーテンダーとしての腕もなかなか光るもんがあるね』
双子はいつものように会話をしながら、美里の事を冷静にジャッジしていた。
ドイツ語で会話をしているのは、美里が察したように話している内容を悟られないためだ。
少し試しに言葉を切り替えた時、美里は微かに動揺を見せた。
目の前で言語を切り替えられた動揺もあるだろうが、分からないという反応だと二人は悟った。
その上で話をするのは少し性格が悪いと自覚しているものの、美里にはあまり聞かせない方がいいと判断した上だ。
『俺さ、やっぱり日本人の方が好きだなって思うんだよね』
『奇遇だね。僕もだ』
『住んでいる国がドイツだし、普段あまりアジア人とは接しない。まあ、スタッフの中にアジア系の子はいるけど……。そんな環境だから、自分の恋愛対象は身近な人って思ってたんだよ』
『だなぁ。……でも何か、〝違う〟ってなるよね。分かるよ』
双子は同じタイミングで溜め息をつき、酒を一口飲む。
『オーマが日本人で、生まれた時からああいう繊細な気遣いとかに慣れていると、思うものがあるよね』
『そうそう。一緒にワーッと騒いで楽しいのは一番だけど、一緒にいて寛げるのって日本人なんだよね。タンテなんてあの性格だけどさ、東京に遊びに行ったら何だかんだもてなしてくれるじゃん。根っこはドイツ人だけど、今の文化感覚はすっかり日本人になってるんだよ。季節を大切にするし、こないだカスミが選ばせてくれた箸とか箸置きとかさ、ああいうの見ると、オーマを思い出してホッとするよね』
『分かるー。まぁ、日本人でもピンキリだろうけどさ、この子は何かその辺り気を遣ってそうなニオイがするよね』
双子は美里を見て、ニマァ……と笑う。
彼女は一瞬こちらを見て焦った表情をしたが、努めて冷静に仕事を続けている。
『タスクがカスミとゴールインしようとしてるじゃん? それで焦ったっていうんじゃないけどさぁ、僕らもそろそろ……とは思う』
『だなー。ま、俺たちはある程度幾つになっても親になれるけど、お嫁さんはそうじゃないじゃん。で、ジジイになるまで遊んで、若い子と結婚するとかしたくないし。身を固めるならそろそろ……だよね』
一見遊び人という双子だって、これからの自分の人生、女性関係について真剣に考えていない訳ではない。
『女の子と遊んでると気持ちいいし、何も考えなくてもチヤホヤしてくれるから楽しいんだけどねぇ。いつまでもこのまんまじゃいられないよね』
『だね。不特定多数と関係を結んでステータスにしてられるのも、若い内だよ。生涯現役って言いたいけど、タスクあたりに〝いつまでそんな事してるんだよ〟って言われたら終わりだよね。あいつ、ムカつくけど言ってる事は正論だから』
『カスミからも真剣に心配されたよねぇ』
クラウスの言葉を聞いてアロイスが笑い出し、二人でケラケラ爆笑する。
『あの子さ、チワワみたいだよね。ウルウルした目で必死に訴えかけてくんの。で、ちょっと構い過ぎたらキャンキャン怒ってさ』
『あはは! それそれ』
ひとしきり笑ったあと、双子は日本語で美里に新しい酒をオーダーし、息をつく。
『この子、カスミに似てるって言ったら失礼だけどさ。同じニオイがするから信頼できる、安心できる感じはあるよね』
『うん。最初は警戒心強いけど、心の中に入れてくれたあとは、僕らも譲歩して望む付き合いができるかもしれない。カスミと同じなんて思ってないし、ミサトにはミサトらしさ、良さ、勿論欠点もあると思う。けどそれも踏まえて、僕らが日本人と付き合っていきたいと思うなら、まず一歩を踏み出さないとね』
『だなー。ミサトからしたら、〝変なのに目をつけられた〟って思うかもだけどね。あはは、かわいそー』
『でも、僕らの勘って結構当たるよね? 人を見る目があるっていうか。人は見かけと社会的地位からくる印象だけじゃないって、誰よりも分かってるからね。それに大勢の女の子と遊んで、どんな振る舞い、言動をする子の本性がどうなってるのか分かってる』
『こないだ、カスミに噛み付いてきた女の子とか、テンプレでおもしろかったよね』
『そうそう。皆あれぐらい分かりやすかったらいいんだけど。中には〝私は控えめで常識的で、それでいて皆の人気者です〟っていうフリしといて、裏ではエグい事やってる奴とか、世の中にはごまんといるからね』
二人は視線を交わし、何か情報を共有し合う素振りをする。
そのあと自然と黙り、美里が新しく出した酒を静かに飲む。
『切るか』
不意にアロイスがいい、ポケットからスマホを出す。
『だな。まず第一歩は行動で示さないと』
同意したクラウスも、スマホを出す。
『だねー。どことなくカスミを思わせる。犬で言ったら柴犬かな。キリッとして主人のために仕える感じ』
『あはは! 確かに柴犬っぽい。黒柴ね』
『そうそう。それにバーテンダーとしての腕もなかなか光るもんがあるね』
双子はいつものように会話をしながら、美里の事を冷静にジャッジしていた。
ドイツ語で会話をしているのは、美里が察したように話している内容を悟られないためだ。
少し試しに言葉を切り替えた時、美里は微かに動揺を見せた。
目の前で言語を切り替えられた動揺もあるだろうが、分からないという反応だと二人は悟った。
その上で話をするのは少し性格が悪いと自覚しているものの、美里にはあまり聞かせない方がいいと判断した上だ。
『俺さ、やっぱり日本人の方が好きだなって思うんだよね』
『奇遇だね。僕もだ』
『住んでいる国がドイツだし、普段あまりアジア人とは接しない。まあ、スタッフの中にアジア系の子はいるけど……。そんな環境だから、自分の恋愛対象は身近な人って思ってたんだよ』
『だなぁ。……でも何か、〝違う〟ってなるよね。分かるよ』
双子は同じタイミングで溜め息をつき、酒を一口飲む。
『オーマが日本人で、生まれた時からああいう繊細な気遣いとかに慣れていると、思うものがあるよね』
『そうそう。一緒にワーッと騒いで楽しいのは一番だけど、一緒にいて寛げるのって日本人なんだよね。タンテなんてあの性格だけどさ、東京に遊びに行ったら何だかんだもてなしてくれるじゃん。根っこはドイツ人だけど、今の文化感覚はすっかり日本人になってるんだよ。季節を大切にするし、こないだカスミが選ばせてくれた箸とか箸置きとかさ、ああいうの見ると、オーマを思い出してホッとするよね』
『分かるー。まぁ、日本人でもピンキリだろうけどさ、この子は何かその辺り気を遣ってそうなニオイがするよね』
双子は美里を見て、ニマァ……と笑う。
彼女は一瞬こちらを見て焦った表情をしたが、努めて冷静に仕事を続けている。
『タスクがカスミとゴールインしようとしてるじゃん? それで焦ったっていうんじゃないけどさぁ、僕らもそろそろ……とは思う』
『だなー。ま、俺たちはある程度幾つになっても親になれるけど、お嫁さんはそうじゃないじゃん。で、ジジイになるまで遊んで、若い子と結婚するとかしたくないし。身を固めるならそろそろ……だよね』
一見遊び人という双子だって、これからの自分の人生、女性関係について真剣に考えていない訳ではない。
『女の子と遊んでると気持ちいいし、何も考えなくてもチヤホヤしてくれるから楽しいんだけどねぇ。いつまでもこのまんまじゃいられないよね』
『だね。不特定多数と関係を結んでステータスにしてられるのも、若い内だよ。生涯現役って言いたいけど、タスクあたりに〝いつまでそんな事してるんだよ〟って言われたら終わりだよね。あいつ、ムカつくけど言ってる事は正論だから』
『カスミからも真剣に心配されたよねぇ』
クラウスの言葉を聞いてアロイスが笑い出し、二人でケラケラ爆笑する。
『あの子さ、チワワみたいだよね。ウルウルした目で必死に訴えかけてくんの。で、ちょっと構い過ぎたらキャンキャン怒ってさ』
『あはは! それそれ』
ひとしきり笑ったあと、双子は日本語で美里に新しい酒をオーダーし、息をつく。
『この子、カスミに似てるって言ったら失礼だけどさ。同じニオイがするから信頼できる、安心できる感じはあるよね』
『うん。最初は警戒心強いけど、心の中に入れてくれたあとは、僕らも譲歩して望む付き合いができるかもしれない。カスミと同じなんて思ってないし、ミサトにはミサトらしさ、良さ、勿論欠点もあると思う。けどそれも踏まえて、僕らが日本人と付き合っていきたいと思うなら、まず一歩を踏み出さないとね』
『だなー。ミサトからしたら、〝変なのに目をつけられた〟って思うかもだけどね。あはは、かわいそー』
『でも、僕らの勘って結構当たるよね? 人を見る目があるっていうか。人は見かけと社会的地位からくる印象だけじゃないって、誰よりも分かってるからね。それに大勢の女の子と遊んで、どんな振る舞い、言動をする子の本性がどうなってるのか分かってる』
『こないだ、カスミに噛み付いてきた女の子とか、テンプレでおもしろかったよね』
『そうそう。皆あれぐらい分かりやすかったらいいんだけど。中には〝私は控えめで常識的で、それでいて皆の人気者です〟っていうフリしといて、裏ではエグい事やってる奴とか、世の中にはごまんといるからね』
二人は視線を交わし、何か情報を共有し合う素振りをする。
そのあと自然と黙り、美里が新しく出した酒を静かに飲む。
『切るか』
不意にアロイスがいい、ポケットからスマホを出す。
『だな。まず第一歩は行動で示さないと』
同意したクラウスも、スマホを出す。
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