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第七部・双子襲来 編
墓の話
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「あとでバーにも行こうか。飲み直そう」
「うん」
今はまだぎこちないが、最後まで食事を楽しんで、雰囲気のいいバーで美味しい酒を飲めば、きっといい夜を迎えられる。
そう思って香澄は話題を変えた。
「お墓参り、明日土曜日ね。中心部から離れた場所にあるから、毎年車で行ってるの」
「何時くらい出発?」
「いつも現地に十一時くらいには着くようにしてるかな」
「仏花とか買った方がいいんだろうか」
「うーん……。いつも皆で蝋燭とかお線香とか、それぞれ担当になって用意してるから、お花も多すぎるとギュウギュウになって入らないと思うなぁ」
会話がポンポンと進んでいるのも、二人とも意図的に先ほどの会話から離れようとしている証拠だ。
一度滞った流れは、懸命に流して流して、勢いに乗せて別の会話をしてしまうに限る。
例えそれが根本的な解決から逸れていたとしても、過去の話など今さらどうにもならないと分かっている。
大人になったのなら、自分の機嫌ぐらい自分で取らなければいけない。
香澄は平気なふりをし、佑もそれを手助けしてくれる。
上辺だけでも〝大丈夫なふり〟を続けていけば、それはやがて心に浸透していくと信じている。
「佑さん、明日お弁当だからね」
「え? 弁当?」
「うん。うちの親戚、毎回お墓参りのときにおかず作って持ち寄って、ビニールシート敷いてお墓で食べるの」
おかしそうに笑う香澄の笑顔を見て、佑も思わず表情を崩す。
「珍しいな。それだけ広いの?」
「なかなか広いよ。ひいお祖母ちゃんの命日が五月で、その頃にお墓参りに行くと桜を見ながらお弁当を食べられるの」
「そうなのか。ピクニックみたいでいいな。俺の認識では、都内の墓は寺の敷地とかにびっしりある感じだからな……。墓で弁当を広げるっていうのは、ちょっとイメージできないかもしれない」
「そうだよねぇ。私も東京に来てお墓の雰囲気を見てびっくりしちゃった。ビルのすぐ隣にお墓があって、失礼ながらちょっと怖いな……とも思ったり。札幌の感覚だと、墓地は住宅街から離れた広い所にまとまってるから、家のすぐ近くにあるイメージがないんだよね」
「そういう違い、面白いよな」
「そうそう。いつだったか国内旅行に行った時は、田んぼの中にぽつんとお墓があるのを見つけたりして、『面白いなぁ』って思ったのを覚えてる」
佑が急に、「墓か……」と真剣な顔で再度口にする。
「うちの父方の墓は狭い土地にあるんだ。できるなら香澄の所みたいに、広々とした所がいいかもな。いや、でも少子化に伴ってコンパクトにお参りできる方がいいんだろうか? よし、調べておこう」
佑が自分たちの墓問題を気にし始め、香澄は目を丸くする。
「ちょ……っ、待って? もうお墓の事を考えてるの?」
「俺は香澄と一緒の墓に入りたい。でも香澄は俺の一族の墓に入るの嫌だろう?」
「そ、そうじゃなくて……。は、早い……。あまりに早すぎる……」
話題が突拍子もない方向にいき、香澄はとりあえずティラミスを口にして「うう……」とうなる。
「ねぇ、佑さん。先々の事を考えるのはいいけど、まだ結婚もしてないのにお墓の話って……。重い……」
「重い」と言われてようやく、佑は自分が暴走しすぎていたのに気付いたようだった。
「……そうか。それもそうだな。重すぎるな。ごめん」
それから何となく二人とも黙ってしまい、「美味しいね」「ああ」程度しか会話が続かない。
食後には、大理石のプレートに正方形の生チョコレートが並んだ物が出された。
全部で六、七種類ぐらいあり、色とりどりだ。
チョコレートの味を尋ねても、トマトやゴマ、ピンクペッパーなど、聞き慣れない物ばかりで楽しくなる。
結局香澄は全種類一つずつもらう事にした。
スタッフがいなくなったあと、佑がポツリと呟く。
「……ごめんな」
その謝罪が、何の事についてなのかは主語がない。
けれど努めて明るく会話を交わしても、根本には先ほどの会話があるのを二人とも分かっている。
幾ら平気なふりをしようとしても、ぎこちないものはぎこちないのだ。
もしまだ香澄の中に誤解や疑いがあるのなら、綺麗に晴らしておきたいと思って先ほどの話を蒸し返したのかもしれない。
「うん」
今はまだぎこちないが、最後まで食事を楽しんで、雰囲気のいいバーで美味しい酒を飲めば、きっといい夜を迎えられる。
そう思って香澄は話題を変えた。
「お墓参り、明日土曜日ね。中心部から離れた場所にあるから、毎年車で行ってるの」
「何時くらい出発?」
「いつも現地に十一時くらいには着くようにしてるかな」
「仏花とか買った方がいいんだろうか」
「うーん……。いつも皆で蝋燭とかお線香とか、それぞれ担当になって用意してるから、お花も多すぎるとギュウギュウになって入らないと思うなぁ」
会話がポンポンと進んでいるのも、二人とも意図的に先ほどの会話から離れようとしている証拠だ。
一度滞った流れは、懸命に流して流して、勢いに乗せて別の会話をしてしまうに限る。
例えそれが根本的な解決から逸れていたとしても、過去の話など今さらどうにもならないと分かっている。
大人になったのなら、自分の機嫌ぐらい自分で取らなければいけない。
香澄は平気なふりをし、佑もそれを手助けしてくれる。
上辺だけでも〝大丈夫なふり〟を続けていけば、それはやがて心に浸透していくと信じている。
「佑さん、明日お弁当だからね」
「え? 弁当?」
「うん。うちの親戚、毎回お墓参りのときにおかず作って持ち寄って、ビニールシート敷いてお墓で食べるの」
おかしそうに笑う香澄の笑顔を見て、佑も思わず表情を崩す。
「珍しいな。それだけ広いの?」
「なかなか広いよ。ひいお祖母ちゃんの命日が五月で、その頃にお墓参りに行くと桜を見ながらお弁当を食べられるの」
「そうなのか。ピクニックみたいでいいな。俺の認識では、都内の墓は寺の敷地とかにびっしりある感じだからな……。墓で弁当を広げるっていうのは、ちょっとイメージできないかもしれない」
「そうだよねぇ。私も東京に来てお墓の雰囲気を見てびっくりしちゃった。ビルのすぐ隣にお墓があって、失礼ながらちょっと怖いな……とも思ったり。札幌の感覚だと、墓地は住宅街から離れた広い所にまとまってるから、家のすぐ近くにあるイメージがないんだよね」
「そういう違い、面白いよな」
「そうそう。いつだったか国内旅行に行った時は、田んぼの中にぽつんとお墓があるのを見つけたりして、『面白いなぁ』って思ったのを覚えてる」
佑が急に、「墓か……」と真剣な顔で再度口にする。
「うちの父方の墓は狭い土地にあるんだ。できるなら香澄の所みたいに、広々とした所がいいかもな。いや、でも少子化に伴ってコンパクトにお参りできる方がいいんだろうか? よし、調べておこう」
佑が自分たちの墓問題を気にし始め、香澄は目を丸くする。
「ちょ……っ、待って? もうお墓の事を考えてるの?」
「俺は香澄と一緒の墓に入りたい。でも香澄は俺の一族の墓に入るの嫌だろう?」
「そ、そうじゃなくて……。は、早い……。あまりに早すぎる……」
話題が突拍子もない方向にいき、香澄はとりあえずティラミスを口にして「うう……」とうなる。
「ねぇ、佑さん。先々の事を考えるのはいいけど、まだ結婚もしてないのにお墓の話って……。重い……」
「重い」と言われてようやく、佑は自分が暴走しすぎていたのに気付いたようだった。
「……そうか。それもそうだな。重すぎるな。ごめん」
それから何となく二人とも黙ってしまい、「美味しいね」「ああ」程度しか会話が続かない。
食後には、大理石のプレートに正方形の生チョコレートが並んだ物が出された。
全部で六、七種類ぐらいあり、色とりどりだ。
チョコレートの味を尋ねても、トマトやゴマ、ピンクペッパーなど、聞き慣れない物ばかりで楽しくなる。
結局香澄は全種類一つずつもらう事にした。
スタッフがいなくなったあと、佑がポツリと呟く。
「……ごめんな」
その謝罪が、何の事についてなのかは主語がない。
けれど努めて明るく会話を交わしても、根本には先ほどの会話があるのを二人とも分かっている。
幾ら平気なふりをしようとしても、ぎこちないものはぎこちないのだ。
もしまだ香澄の中に誤解や疑いがあるのなら、綺麗に晴らしておきたいと思って先ほどの話を蒸し返したのかもしれない。
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