333 / 1,548
第七部・双子襲来 編
私は、佑さんを心配させてはいけない
しおりを挟む
佑も香澄に尋ねられた時、正直どこまで話したものかと悩んだ。
しかし彼女はぼんやりしているようできちんと〝女性〟で、〝女の勘〟も兼ね揃えている。
佑もある程度自分という男のスペックや需要を分かっているつもりだし、「何もない」と誤魔化す事の愚かさを分かっている。
いつもの感じで彼女を甘やかして「愛している」と言って誤魔化しても、香澄の中で疑惑と不安は膨らんでいくだろう。
それなら結婚相手としての香澄を信じて、一か八かですべてを打ち明けた方がいいのではないか。
思い切って話してみての今なのだが……。
彼女は怒って席を立つような真似はしない。
しかし気分を害しているのは目に見えて分かる。
せっかく香澄の帰省に付き合い、墓参りも一緒に……と札幌に来たのに、どうしてこうなったのか。
香澄は窓の外を見て、何かを考えながら時折瞬きをしている。
「……怒ったか?」
佑は溜め息を隠し、彼女に尋ねる。
機嫌を損なったのなら、どんな事をしてでも仲直りしたい。
香澄にはどんなみっともない手段を使ってでも、手放したくないと思える価値がある。
自分の暗黒期をきちんと話した上で、許してもらえたら……とずるい事を考えている自分がいた。
男の性欲や、佑の「誰でもいいから寂しさを満たしてほしい」という独りよがりな想いを、彼女のような綺麗な人に理解してもらいたいとは思っていない。
「俺はこんなにつらかったんだ」と主張して彼女の同情を引くのは、いけない事だ。
だからどんな罰でも受け入れる気持ちで、佑はただ彼女の機嫌を窺った。
佑の問いを聞き、香澄は瞬きをしてから視線を遠くから近くに戻す。
窓ガラスには自分が映っていて、少し怒ったような顔をしている。
(可愛くない顔してる。せっかく思い出のホテルに来て、ディナーなのに。これじゃ駄目だ。すぐ気持ちを切り替えよう)
そう思うのだが、佑が自分以外の誰かを抱き、気持ちがなくても口淫をさせ手で出してもらっていたと思うと、胸の奥がムカムカする。
――でも。
(仕方ないんだ。私だって健二くんとしてしまった。佑さんだって健康な男性だもん。今はもう三十二歳だよ? 子供がいてもおかしくない年齢なのに、女性関係が何もなくてクリーンな方がおかしいでしょ。逆にこの年齢で童貞の方が、〝訳アリ〟なんだなって思っちゃう)
自分に言い聞かせ、心の中にいる「やだやだ」と我が儘を言う自分を往復ビンタする。
「――うん」
息を吸って吐き、頷く。
ひとまず即興的だが気持ちの切り替えはできた。
佑を見ると、「怒ったか?」と尋ねたあとだったので、香澄の反応を見て不安げな表情をしている。
(こんな顔をさせちゃ駄目だ。私は、佑さんを心配させてはいけない)
香澄は顔を上げ、佑を真正面から見つめた。
その視線に彼はたじろぎ、怯えの色すらその目に宿す。
(私が怒って『別れる』って言うとでも思ってるのかな)
そう思うと、彼には悪いけれどちょっとだけ愉快になり、気持ちが明るくなる。
そして自然と笑顔になると、冗談めかして言った。
「佑さん。この先一生、そこの……ズボンの下に隠れているモノを、私以外の女性に使ったら駄目ですよ?」
「あ、ああ。当然だ」
彼は一旦の許しを得て、あからさまに安堵した表情をしている。
「今日、お部屋に帰ったら私が一番いいんだって事、教え込んでやるんだから」
香澄は少し悪戯っぽく笑い、ヒールのつま先でトンと彼の靴を蹴った。
佑はゆっくりと、けれどまだぎこちなく微笑む。
「それは……、許してくれたって事か?」
「過去の佑さんは私のものじゃない。でも、これからの佑さんは、全部私のものだっていう事です」
彼女の言葉に、佑は甘やかに微笑む。
「その通りだ。俺の体も、心も、財産もすべて香澄に捧げる」
「財産とかはいいの!」
相変わらずな彼に溜め息をつき、香澄は赤ワインをクーッと呷る。
「おいし。……ごめんね。私が変な事を聞いたから、こういう話になったんだよね。それは本当にごめんなさい。今さらだけど、美味しく食べようね」
タイミング良くそこでデザートのティラミスが運ばれてきた。
しかし彼女はぼんやりしているようできちんと〝女性〟で、〝女の勘〟も兼ね揃えている。
佑もある程度自分という男のスペックや需要を分かっているつもりだし、「何もない」と誤魔化す事の愚かさを分かっている。
いつもの感じで彼女を甘やかして「愛している」と言って誤魔化しても、香澄の中で疑惑と不安は膨らんでいくだろう。
それなら結婚相手としての香澄を信じて、一か八かですべてを打ち明けた方がいいのではないか。
思い切って話してみての今なのだが……。
彼女は怒って席を立つような真似はしない。
しかし気分を害しているのは目に見えて分かる。
せっかく香澄の帰省に付き合い、墓参りも一緒に……と札幌に来たのに、どうしてこうなったのか。
香澄は窓の外を見て、何かを考えながら時折瞬きをしている。
「……怒ったか?」
佑は溜め息を隠し、彼女に尋ねる。
機嫌を損なったのなら、どんな事をしてでも仲直りしたい。
香澄にはどんなみっともない手段を使ってでも、手放したくないと思える価値がある。
自分の暗黒期をきちんと話した上で、許してもらえたら……とずるい事を考えている自分がいた。
男の性欲や、佑の「誰でもいいから寂しさを満たしてほしい」という独りよがりな想いを、彼女のような綺麗な人に理解してもらいたいとは思っていない。
「俺はこんなにつらかったんだ」と主張して彼女の同情を引くのは、いけない事だ。
だからどんな罰でも受け入れる気持ちで、佑はただ彼女の機嫌を窺った。
佑の問いを聞き、香澄は瞬きをしてから視線を遠くから近くに戻す。
窓ガラスには自分が映っていて、少し怒ったような顔をしている。
(可愛くない顔してる。せっかく思い出のホテルに来て、ディナーなのに。これじゃ駄目だ。すぐ気持ちを切り替えよう)
そう思うのだが、佑が自分以外の誰かを抱き、気持ちがなくても口淫をさせ手で出してもらっていたと思うと、胸の奥がムカムカする。
――でも。
(仕方ないんだ。私だって健二くんとしてしまった。佑さんだって健康な男性だもん。今はもう三十二歳だよ? 子供がいてもおかしくない年齢なのに、女性関係が何もなくてクリーンな方がおかしいでしょ。逆にこの年齢で童貞の方が、〝訳アリ〟なんだなって思っちゃう)
自分に言い聞かせ、心の中にいる「やだやだ」と我が儘を言う自分を往復ビンタする。
「――うん」
息を吸って吐き、頷く。
ひとまず即興的だが気持ちの切り替えはできた。
佑を見ると、「怒ったか?」と尋ねたあとだったので、香澄の反応を見て不安げな表情をしている。
(こんな顔をさせちゃ駄目だ。私は、佑さんを心配させてはいけない)
香澄は顔を上げ、佑を真正面から見つめた。
その視線に彼はたじろぎ、怯えの色すらその目に宿す。
(私が怒って『別れる』って言うとでも思ってるのかな)
そう思うと、彼には悪いけれどちょっとだけ愉快になり、気持ちが明るくなる。
そして自然と笑顔になると、冗談めかして言った。
「佑さん。この先一生、そこの……ズボンの下に隠れているモノを、私以外の女性に使ったら駄目ですよ?」
「あ、ああ。当然だ」
彼は一旦の許しを得て、あからさまに安堵した表情をしている。
「今日、お部屋に帰ったら私が一番いいんだって事、教え込んでやるんだから」
香澄は少し悪戯っぽく笑い、ヒールのつま先でトンと彼の靴を蹴った。
佑はゆっくりと、けれどまだぎこちなく微笑む。
「それは……、許してくれたって事か?」
「過去の佑さんは私のものじゃない。でも、これからの佑さんは、全部私のものだっていう事です」
彼女の言葉に、佑は甘やかに微笑む。
「その通りだ。俺の体も、心も、財産もすべて香澄に捧げる」
「財産とかはいいの!」
相変わらずな彼に溜め息をつき、香澄は赤ワインをクーッと呷る。
「おいし。……ごめんね。私が変な事を聞いたから、こういう話になったんだよね。それは本当にごめんなさい。今さらだけど、美味しく食べようね」
タイミング良くそこでデザートのティラミスが運ばれてきた。
45
お気に入りに追加
2,541
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる