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第七部・双子襲来 編

女の敵

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「……何て言うか、〝御劔佑〟というブランドと寝たい女性は大勢いた。バーに行く行かないとか、ホテルに行く行かない、俺の自宅に行きたいとかで揉めて、その途中で写真を撮られた事もある」

「……わあ」

 お持ち帰りで揉める話なら、一般人でもよくある話だ。
 でもある意味誰でもしている事なのに、スクープされるというのは考えられない。

「うーん。大体は分かったけど、それで本気で付き合った人はいるの?」
「いない。その数年の間に会社はもっと大きくなったし、正直恋人どころじゃなくなっていた」

「でもちょっとは付き合って、相手は本気になったんでしょう? 佑さんは本気じゃなかったの?」

 ズワイガニのスパゲッティが出され、ほんの少しの量だが味はいいしコース全体で考えると適度な量だ。
 それをフォークで巻きながら尋ねる。

 佑はしばし黙ってスパゲッティを食べたあと、口の中の物がなくなったあとに呟いた。

「悪い事をしたとは思っている。俺は一時的に癒やされたいだけなのに、相手は全力で俺を求めてきた。そもそもの熱量が違ったんだ。向こうはすべてをかけて俺を愛してくれたかもしれないのに、俺は表面上相手をしたあと、『やっぱり恋ができない』と簡単に手放してしまった。……それは、とても悪かったと思っている」

「んー……。女の敵。……ではあるけど、佑さんの気持ちも分からないではない。何とも言えない難しい問題だね。女性からすれば、佑さんみたいに好条件の人と付き合えると思ったら、そりゃあ必死になるもん。あとから『弄ばれた』って言われても文句は言えないのかもしれない」

「……そうだな。一時は〝恋多きイケメン社長〟とか、そういう見出しをつけられた事もあった。世間的なイメージも少し悪くなったかもしれない。……反省してるよ」

 しみじみと言う彼が少し可哀想になって、香澄は溜め息をつく。

 佑だって好きで美形に生まれた訳ではないし、女性を引っかけるために有名になり、巨額の富を手にした訳ではない。
 クォーターなのも、クラウザー家の血縁なのも、生まれつきであって彼が望んだ事ではない。

 逆を言えばそれらのステータスで彼を判断し、近寄ってきた女性たち側にも、彼が本気にならなかった原因はある。

(孤独だったんだな)

 初めて会った時に恋人がいないと聞いて「嘘だ!」と思ったけれど、彼の孤独はかなり根が深い。

 メインの肉料理が出されて個室にまた二人きりになったあと、香澄は一番気になっていた事を思いきって聞いた。

「食事中にごめんなさい。とても生々しい話になるけど、女性と付き合ってなかった時は一人でシてたの?」

 佑は赤ワインを飲もうとして噴きかけ、かろうじて耐える。

(おお、我慢した)

 その姿を見て、香澄は思わず心の中で拍手をする。

 佑は少し赤面して視線を及ばせたあと、少し小さな声で答えた。

「ごめん。……その、デリヘル。……呼んでた」
「あぁー」

 香澄は納得し、何度も頷く。

 彼女が拒絶的な反応を見せずに納得したので、佑は意外そうに瞠目する。

「妬かないのか?」
「嫌だよ? すっごい嫌。でも仕方がないじゃない。昔の事なんだもん」

 深く考えると、グルグルしてしまいそうだ。
 けれど今はこうやってケロリとごまかすしか選択肢がない。

 気になってしまったとはいえ、自分から聞いて機嫌を悪くするなどできない。

「……言い訳、していいか?」

 またソロッと挙手する佑に、香澄は鷹揚に頷いてみせる。

「どうぞ、してみたまえ」

「……セックスはしてない。愛してないのに抱く事はできなかった。ただ性処理をしてもらっていただけで、仕事で疲れて半分眠っていた時もあった。あとは時間まで抱き枕とか……」

「わあ、それ失礼だね」

 冷静に聞いていようと思ったのに、どこまで平気なふりを続けられるか自分でも分からない。
 ふざけ半分で場を和ませようとしても、喧嘩を売るような言葉になってしまいすぐに反省する。

「…………」

 香澄はとうとう溜め息をつき、すっかり「美味しい」と思えなくなってしまった肉料理を口に運ぶ。
 先に食べ終えた佑が、おずおずと謝った。

「……ごめん。聞きたくなかっただろ」

 それに香澄はうまく答える事ができない。
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