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第七部・双子襲来 編
幻滅しないかのテスト
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「はい。発言をどうぞ、そこのイケメン」
「……はぁ。いつもありがとうございます。株式会社Chief every代表御劔佑です」
香澄のフリに佑がノってくれ、彼女はクスクス笑う。
それを苦笑いして見たあと、彼は困った様な表情で口を開く。
「……何て言えばいいのかな」
しかし言いづらいらしく、またシャンパンを一口飲んでから、窓の外の夜景を見る。
「何でもどうぞ。私はもう過去の事だって分かってるし、特に嫉妬しないから。多分」
「んー……」
物わかりの良さを見せる香澄に苦笑し、佑は髪を掻き上げる。
ふ……と真顔になると、とつとつと過去の事を話し出した。
「美智瑠と別れてから三十歳になるまでの数年、少しフラフラしてたっていうのは言ったっけ?」
「うん、ちょっとだけ」
「遊んでたという訳じゃないけど、胸にぽっかり穴が空いた感じになって、誰でもいいから恋人が欲しかった時期だ」
「あ……」
思っていた答えと違い、香澄は失敗したと内心天を仰ぐ。
予想していた回答では、「あれは友達」とかそういう軽いノリを想像していたのだ。
まさか佑の〝一番言いたくなかった時期〟とは思わなかった。
「あの、ごめんなさい。そういう事だと思わなくて……。言いたくなかったらいいの。無理に聞きたい訳じゃないし」
フルフルと首を横に振る香澄に、佑は自嘲めいた笑みを浮かべる。
「嫌じゃなかったら聞いてほしい。香澄は俺を〝嫌な所のないスーパーマン〟みたいに思ってるかもしれないけど、割と普通なんだ。そういう面はこれからも見るかもしれないし、幻滅しないかどうか、テストしてほしい」
「う……うん……」
運ばれてきたアサリ貝を使った前菜を食べてから、彼は話し始めた。
「好かれたかった……っていうのが近いのかな。恋人がほしくて、俺を好きになってくれて、無理をしたら心配してくれる、甘えさせてくれる恋人がほしかった。学生時代なら当たり前にできたかもしれない。学生の頃はまだ、ただの〝御劔くん〟だったから。でも社会人になって有名になると、自分を純粋に好いてくれる人と出会うのが難しくなる」
〝御劔佑の闇〟に触れ始め、香澄はすべてを受け入れようと思い、自分も食事を始める。
佑の話なら何でも聞きたい。
けれど女性に関わる事だと少し勇気がいる。
本妻の余裕みたいなものを佑には見せたが、自分がそんな器ではないのは分かっている。
何かしながらだと少し気が紛れるので、食事の時だったのが逆にありがたかった。
「仕事で出会った女の子で、『性格が良さそうだな』と思ったら、誘いとかを断らないようにしていた。一緒にディナーをとって、さらに『良さそうだな』と思ったらバーに行く事もあった。そこから先は、下手をすると身を滅ぼすから慎重に見極めた」
過去の女性関係を聞くと、やはり気分のいいものではない。
だが香澄だって何度も健二の話をして、佑に嫉妬させてしまったし、おあいこだ。
今は自分がきっかけになって話が始まったので、きちんと聞くのが〝今の彼女〟の役割だと思った。
女神のような広い心で、すべてを受け入れ許す――などできないのは分かっている。
けれど佑のような極上な男に、女性の影がまったくないなど思っていない。
だから話を聞くだけ聞いて、あとは自然の摂理に任せていこうと思った。
お互いの過去に蓋をして、ままごとみたいに綺麗な結婚などできない。
彼とこれからの人生を共に歩むと思ったなら、香澄だってある程度の覚悟を示さなければいけない。
「最後までした相手もいるの?」
「……ほんの数人」
「関わったのは全部で何人ぐらい?」
「……付き合いの浅い深いを考慮しなければ、十……数人は」
リコッタチーズと生ハムの前菜を食べながら、佑は溜め息混じりに言う。
「ふぅん。思ったより少ない」
少し茶化すと、佑は笑いながら突っ込む。
「…………。俺を何だと思ってるんだ」
マグロと香草のカルパッチョを食べ、佑は笑う。
そして白ワインを飲んで、続きを話した。
「大体は食事をしている段階で、大体の性格は分かった。話し方や仕草の他にも、店員への態度や食べ方とか、色んな所から分かるものがある。会話内容も、自分主体になって同業者への悪口がメインになる人も大勢いる。華やかな業界にいると、妬み嫉みや足の引っ張り合いがあるしな。ひどい事をされたから愚痴を言いたいのは分かるし、俺もたまにしてしまう。でも相手が何もしていないのに、根も葉もない悪い噂を広める女性は御免だ。誰でもいいと思うほど俺は飢えていない」
「うん。一理あるね」
実に佑らしい選び方だとは思った。
同時に、彼が厳選した女性はいるのだろうな、と思うと少し寂しくなる。
「……はぁ。いつもありがとうございます。株式会社Chief every代表御劔佑です」
香澄のフリに佑がノってくれ、彼女はクスクス笑う。
それを苦笑いして見たあと、彼は困った様な表情で口を開く。
「……何て言えばいいのかな」
しかし言いづらいらしく、またシャンパンを一口飲んでから、窓の外の夜景を見る。
「何でもどうぞ。私はもう過去の事だって分かってるし、特に嫉妬しないから。多分」
「んー……」
物わかりの良さを見せる香澄に苦笑し、佑は髪を掻き上げる。
ふ……と真顔になると、とつとつと過去の事を話し出した。
「美智瑠と別れてから三十歳になるまでの数年、少しフラフラしてたっていうのは言ったっけ?」
「うん、ちょっとだけ」
「遊んでたという訳じゃないけど、胸にぽっかり穴が空いた感じになって、誰でもいいから恋人が欲しかった時期だ」
「あ……」
思っていた答えと違い、香澄は失敗したと内心天を仰ぐ。
予想していた回答では、「あれは友達」とかそういう軽いノリを想像していたのだ。
まさか佑の〝一番言いたくなかった時期〟とは思わなかった。
「あの、ごめんなさい。そういう事だと思わなくて……。言いたくなかったらいいの。無理に聞きたい訳じゃないし」
フルフルと首を横に振る香澄に、佑は自嘲めいた笑みを浮かべる。
「嫌じゃなかったら聞いてほしい。香澄は俺を〝嫌な所のないスーパーマン〟みたいに思ってるかもしれないけど、割と普通なんだ。そういう面はこれからも見るかもしれないし、幻滅しないかどうか、テストしてほしい」
「う……うん……」
運ばれてきたアサリ貝を使った前菜を食べてから、彼は話し始めた。
「好かれたかった……っていうのが近いのかな。恋人がほしくて、俺を好きになってくれて、無理をしたら心配してくれる、甘えさせてくれる恋人がほしかった。学生時代なら当たり前にできたかもしれない。学生の頃はまだ、ただの〝御劔くん〟だったから。でも社会人になって有名になると、自分を純粋に好いてくれる人と出会うのが難しくなる」
〝御劔佑の闇〟に触れ始め、香澄はすべてを受け入れようと思い、自分も食事を始める。
佑の話なら何でも聞きたい。
けれど女性に関わる事だと少し勇気がいる。
本妻の余裕みたいなものを佑には見せたが、自分がそんな器ではないのは分かっている。
何かしながらだと少し気が紛れるので、食事の時だったのが逆にありがたかった。
「仕事で出会った女の子で、『性格が良さそうだな』と思ったら、誘いとかを断らないようにしていた。一緒にディナーをとって、さらに『良さそうだな』と思ったらバーに行く事もあった。そこから先は、下手をすると身を滅ぼすから慎重に見極めた」
過去の女性関係を聞くと、やはり気分のいいものではない。
だが香澄だって何度も健二の話をして、佑に嫉妬させてしまったし、おあいこだ。
今は自分がきっかけになって話が始まったので、きちんと聞くのが〝今の彼女〟の役割だと思った。
女神のような広い心で、すべてを受け入れ許す――などできないのは分かっている。
けれど佑のような極上な男に、女性の影がまったくないなど思っていない。
だから話を聞くだけ聞いて、あとは自然の摂理に任せていこうと思った。
お互いの過去に蓋をして、ままごとみたいに綺麗な結婚などできない。
彼とこれからの人生を共に歩むと思ったなら、香澄だってある程度の覚悟を示さなければいけない。
「最後までした相手もいるの?」
「……ほんの数人」
「関わったのは全部で何人ぐらい?」
「……付き合いの浅い深いを考慮しなければ、十……数人は」
リコッタチーズと生ハムの前菜を食べながら、佑は溜め息混じりに言う。
「ふぅん。思ったより少ない」
少し茶化すと、佑は笑いながら突っ込む。
「…………。俺を何だと思ってるんだ」
マグロと香草のカルパッチョを食べ、佑は笑う。
そして白ワインを飲んで、続きを話した。
「大体は食事をしている段階で、大体の性格は分かった。話し方や仕草の他にも、店員への態度や食べ方とか、色んな所から分かるものがある。会話内容も、自分主体になって同業者への悪口がメインになる人も大勢いる。華やかな業界にいると、妬み嫉みや足の引っ張り合いがあるしな。ひどい事をされたから愚痴を言いたいのは分かるし、俺もたまにしてしまう。でも相手が何もしていないのに、根も葉もない悪い噂を広める女性は御免だ。誰でもいいと思うほど俺は飢えていない」
「うん。一理あるね」
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同時に、彼が厳選した女性はいるのだろうな、と思うと少し寂しくなる。
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