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第七部・双子襲来 編

双子の推理

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「えぇと……。良くも悪くも普通の男性ですよ」

 健二にはひどい事をされたとはいえ、あとになってから本人のいない場所で悪口を言いたくない。

 トラウマを思い出した時は、佑という今の恋人が側にいたので、克服すべき過去として彼に話した。
 親友の麻衣や、場合によっては家族にも話す事はあるかもしれない。

 けれどそれ以外の人については、元彼の事を知られても大して意味がないし、悪口になってしまいそうで気が進まない。

 言葉を濁され、双子は顔を見合わせたあと、にんまりと笑った。

「当ててあげようか。カスミがあんまり言いたくないのは分かったから、俺たちが勝手に予想するね」

 そう言われては断る理由がなく、香澄は「う……」となりながら双子の言葉を待つ。

「『良くも悪くも普通』っていう事は、タスクに比べてすっごい一般的な欠点が目立つ感じだよね。まず財力なさそうだし、人間としての器も小さそう。そうじゃないとカスミみたいなお人好しが見放すはずがないんだよ」

 ズバリと言われて、香澄はドキッと心臓を高鳴らせる。
 図星だ。

「そうそう。そこに視点を当てていこうか。カスミってちょっとやそっとの事じゃ怒らないでしょ? で、基本的に優しいからよっぽどの事をしない限り、人を見放さない。それから言うと……。すっごい俺様? 勿論、言ってる事とやってる事に伴わない感じ。で、カスミがかいがいしく世話を焼いても、ちっとも感謝しなさそう。その上で我が儘をどんどん言いそう」

「ウウ……」

 健二の事を見てきたかのように言い当てられ、香澄はうめく。

 佑は半分呆れ、半分は放置という体で黙っていた。
 彼自身、健二にはまだ収まりきらない怒りがあるので、彼が悪く言われても何とも思わないのだろう。

「カスミみたいに繊細で我慢するタイプの子ってさぁ、我慢する時はずーっとニコニコ笑って『何でもないよー』って言ってるけど、いざ限界を超えたら全部シャットアウトするよね。相手を追い詰めてる、我慢させてるって分かんないぐらい、鈍感で自己中な男なんだよ」

 言われる通りなので、何とも言い様がない。

「きっとすっごいケチだろうね。カスミにはプレゼントとか求めておいて、自分では『忘れてた』とか言いそう。誕生日も覚えてないんじゃない?」

「た、誕生日は覚えていました」

 フォローするつもりはなかったが、つい口を挟んでしまう。
 それを聞き、双子がニヤァ……と笑った。

「誕生日〝は〟っていう事は、プレゼントは二の次だったんだね? それで多分、他の色んな事もおろそかになってた」

「ウウ……」

 双子は顔を見合わせ、満足そうに笑う。
 それから、アロイスが少し真剣な表情になって言った。

「カスミさぁ。そいつと別れて正解だよ。女にケチな男って、他の事にもケチで器が小さいから、出世もできないんじゃない? 世の中、サービス精神だよ。相手に気を遣って喜ぶ事をしてあげたいって思うと、それがどんどんリターンされていく」

 確かに、それは一理あるのかもしれない。

 一方的に貢いで、片方が一方的に受け取って、それだけの関係で両者が発展していくと思えない。
 あるとすればアイドル的な形だが、それはビジネスであり、アイドルはファンに個人的に振り向く事はない。

「僕らドイツ人って、物を大事にして、修理して使い回す〝ケチ〟だけど、その反面バカンスとかにドカッと使ってるからねぇ。なんつーか、ケチの度合いが違うって思ってる」

 自国民の特性を少し気にしたのか、クラウスが健二のケチとの差別化を図る。
 そのあとアロイスがまた口を開く。

「会った事もないし会いたくもないけどさ、カスミの元彼ってジコチューな匂いがプンプンするね。自分さえ良ければ、あとは二の次っていう感じがするんだ。実際は分かんないけどね? 元彼を悪く言って悪いけど、付き合ってる女の子一人満足させられないで、顧客が満足すると思えないんだよね。圧倒的にサービス精神が足りない」

 人生の楽しみの半分は、金を使って女性たちとパーティーを開くイメージのある双子は、「理解できない」というように首を振る。
 香澄は最後に健二と会った時の事を思い出し、微かにざわめいた心を宥める。

「……佑さんやお二人は規格外です。それでも普通の枠組みの中で、もっといい男性はいたのかもしれませんよね」

 つくづく、自分は最初に付き合った彼氏の男運がなかった。
 それだけに尽きる。

 その分、今は佑という最高の相手と一緒にいられるので、プラマイゼロを通り越して、プラスに吹っ切れているが。
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