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第七部・双子襲来 編
貸し
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「あ、あの。お雑煮作ろうとしてたの。そろそろお昼だし。で、お出汁をとろうと思ってたんだけど、そこに佑さんが帰ってきたから……。あれっ? 鰹節?」
「玄関に落ちてた袋なら、キッチン台に置いたよ」
「あ……」
キッチン台に鰹節のパックがあるのを確認して安心した香澄は、「こんな事言う場合じゃないかもだけど……」と思いつつ佑に尋ねる。
「反省はちゃんとするから、お雑煮作ってもいい? もうお昼だしお腹すいてない?」
あんなに手ひどい、恥ずかしいお仕置きをしたのに、香澄はとりあえず料理を作って自分と双子をもてなそうとしている。
喉元過ぎたら何とやらなのか分からないが、佑は彼女が自分の思うままにしょぼくれない事に少しガクリとする。
(……いや。お仕置きをして、言う事を聞かせようっていう方が間違えているのか)
あまりにキレてしまったとはいえ、自分も大人げない、紳士と言えないやり方を取ってしまった。
少し反省した佑は、気持ちを切り替えて頷いた。
「いいよ、皆で食べよう」
〝皆で〟という言い方に、香澄はパッと笑顔になった。
「ありがとう! すぐできるから手伝わなくていいよ。佑さんは疲れているんだから、座っててね?」
「ん、いや、すぐできるなら逆に手伝うよ」
「いいの、いいの」
そう言って香澄はキッチンに行って麦茶をグラスに注ぎ、佑に出す。
痛々しいギプスはもう外れたが、膝下から足首までのサポーターはついている。
松葉杖をついていない分、脚に負荷がかかるからかゆっくり移動して、左脚を庇う動きをしていた。
「香澄、いいから。俺がやる。脚、痛いだろう」
キッチンに向かおうとするが、香澄が両手を横に出して〝通せんぼ〟をした。
「ブッブー! 駄目ですー! 佑さんは今日パリから戻って来て疲れているので、私の方が元気なんですー。座っててくださいー」
何とも子供っぽい言い方をし、香澄は佑を両手で押して座らせたあと、キッチンに行ってしまった。
「これもリハビリの一つなんだから、甘やかしたら駄目なんだよ」
そう言われては何とも言えなくなった佑は、溜め息をついて片手を挙げた。
「あんだけキレ散らかしたタスクも、カスミの前だと形無しだなぁ」
「うるさい」
佑は溜め息をつき、麦茶を飲む。
「本当にイイ女だよねぇ。可愛いし気が利くし。やらしいし一途だし。他にいないよねぇ、あんな優良物件」
しかし褒められては悪い気はせず、思わず頷いていた。
「いい人を見つけたと思ってるよ」
とりあえず注意はしたし怒りも示したので、これ以上怒り続けていても仕方がない。
双子は従兄だからまた必ず会うし、この二人相手にいちいち怒髪天をつくように怒っていては身が持たない。
加えて香澄がこれだけもてなしていたのだから、これ以上空気を悪くすれば彼女に悪い。
ただ、貸しにはしておこうとは思っていた。
「今回の事は貸しだからな? そのうち迷惑料はちゃんと払ってもらう」
「しっかりしてるねぇ。ナニワのアキンドみたい」
「ま、カスミにも言われたし、俺らももう少しタスクとの付き合い方を改めないとかもね?」
すっかり冷めたコーヒーを飲み、アロイスはキッチンの香澄を見て肩をすくめる。
「随分殊勝だな」
佑は怪訝そうに眉を寄せる。
「カスミがさ。僕らの好意が空回りしてたんじゃないかって言ったんだよ」
「は? 好意?」
二人から〝好意〟を寄せられた覚えがなく、佑は目をまん丸に見開く。
「うん、好意だよ。確かにちょっと意地悪もしたかもだけどさ。俺らの見分けがつくし、〝一人前〟で認めてたし、『こいつスゲーな』とは思ってたよ」
アロイスの言葉を、クラウスが引き継ぐ。
「そ。でさ、僕らなりに考えたパーティーとかに誘って、楽しい時間を過ごしたかったワケ。でもタスク、必ずブスッとしてただろ。リツとショウは柔軟性あるけど。お前はまじめで融通が利かなかったよねぇ。だから『何をしたら喜ぶんだろう?』って思って、もっとハデな事をしようと思ったんだけど」
「……真逆だ」
とんでもない勘違いに、佑は片手で顔を覆いげんなりとする。
「それをさ。俺たちより付き合いの浅いカスミに言われたんだよ。誘うなら、美術館とか田舎でドライブとかの方がいいって。合ってる?」
知らない所で香澄が随分自分を理解してくれて、双子に付き合い方とやらを勧めてくれていたのには、ある意味感謝した。
「玄関に落ちてた袋なら、キッチン台に置いたよ」
「あ……」
キッチン台に鰹節のパックがあるのを確認して安心した香澄は、「こんな事言う場合じゃないかもだけど……」と思いつつ佑に尋ねる。
「反省はちゃんとするから、お雑煮作ってもいい? もうお昼だしお腹すいてない?」
あんなに手ひどい、恥ずかしいお仕置きをしたのに、香澄はとりあえず料理を作って自分と双子をもてなそうとしている。
喉元過ぎたら何とやらなのか分からないが、佑は彼女が自分の思うままにしょぼくれない事に少しガクリとする。
(……いや。お仕置きをして、言う事を聞かせようっていう方が間違えているのか)
あまりにキレてしまったとはいえ、自分も大人げない、紳士と言えないやり方を取ってしまった。
少し反省した佑は、気持ちを切り替えて頷いた。
「いいよ、皆で食べよう」
〝皆で〟という言い方に、香澄はパッと笑顔になった。
「ありがとう! すぐできるから手伝わなくていいよ。佑さんは疲れているんだから、座っててね?」
「ん、いや、すぐできるなら逆に手伝うよ」
「いいの、いいの」
そう言って香澄はキッチンに行って麦茶をグラスに注ぎ、佑に出す。
痛々しいギプスはもう外れたが、膝下から足首までのサポーターはついている。
松葉杖をついていない分、脚に負荷がかかるからかゆっくり移動して、左脚を庇う動きをしていた。
「香澄、いいから。俺がやる。脚、痛いだろう」
キッチンに向かおうとするが、香澄が両手を横に出して〝通せんぼ〟をした。
「ブッブー! 駄目ですー! 佑さんは今日パリから戻って来て疲れているので、私の方が元気なんですー。座っててくださいー」
何とも子供っぽい言い方をし、香澄は佑を両手で押して座らせたあと、キッチンに行ってしまった。
「これもリハビリの一つなんだから、甘やかしたら駄目なんだよ」
そう言われては何とも言えなくなった佑は、溜め息をついて片手を挙げた。
「あんだけキレ散らかしたタスクも、カスミの前だと形無しだなぁ」
「うるさい」
佑は溜め息をつき、麦茶を飲む。
「本当にイイ女だよねぇ。可愛いし気が利くし。やらしいし一途だし。他にいないよねぇ、あんな優良物件」
しかし褒められては悪い気はせず、思わず頷いていた。
「いい人を見つけたと思ってるよ」
とりあえず注意はしたし怒りも示したので、これ以上怒り続けていても仕方がない。
双子は従兄だからまた必ず会うし、この二人相手にいちいち怒髪天をつくように怒っていては身が持たない。
加えて香澄がこれだけもてなしていたのだから、これ以上空気を悪くすれば彼女に悪い。
ただ、貸しにはしておこうとは思っていた。
「今回の事は貸しだからな? そのうち迷惑料はちゃんと払ってもらう」
「しっかりしてるねぇ。ナニワのアキンドみたい」
「ま、カスミにも言われたし、俺らももう少しタスクとの付き合い方を改めないとかもね?」
すっかり冷めたコーヒーを飲み、アロイスはキッチンの香澄を見て肩をすくめる。
「随分殊勝だな」
佑は怪訝そうに眉を寄せる。
「カスミがさ。僕らの好意が空回りしてたんじゃないかって言ったんだよ」
「は? 好意?」
二人から〝好意〟を寄せられた覚えがなく、佑は目をまん丸に見開く。
「うん、好意だよ。確かにちょっと意地悪もしたかもだけどさ。俺らの見分けがつくし、〝一人前〟で認めてたし、『こいつスゲーな』とは思ってたよ」
アロイスの言葉を、クラウスが引き継ぐ。
「そ。でさ、僕らなりに考えたパーティーとかに誘って、楽しい時間を過ごしたかったワケ。でもタスク、必ずブスッとしてただろ。リツとショウは柔軟性あるけど。お前はまじめで融通が利かなかったよねぇ。だから『何をしたら喜ぶんだろう?』って思って、もっとハデな事をしようと思ったんだけど」
「……真逆だ」
とんでもない勘違いに、佑は片手で顔を覆いげんなりとする。
「それをさ。俺たちより付き合いの浅いカスミに言われたんだよ。誘うなら、美術館とか田舎でドライブとかの方がいいって。合ってる?」
知らない所で香澄が随分自分を理解してくれて、双子に付き合い方とやらを勧めてくれていたのには、ある意味感謝した。
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