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第七部・双子襲来 編

佑の帰宅

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 双子が襲来して二日目は御劔邸で大人しく過ごし、三日目はまた車を出して都内で観光やショッピングに付き合った。

 双子は若者文化に触れたがり、独特な着こなしを見てはインスピレーションを得ているようだった。

 ランチとディナーは高級イタリアンと料亭に連れて行かれ、夜はとろけるような牛肉のすき焼きを堪能した。





 そして香澄が待ちに待った、――恐れてもいた木曜日の朝。

 先ほど佑から『羽田に着いたよ』とメッセージがあり、香澄はスマホを手にしたまま、唇を尖らせ小首を傾げる。

 目の前には、我が家のように寛いでいる双子がいる。
 食後のコーヒーをテーブルの上に、スケッチブックを広げて鉛筆を走らせてはあれこれ相談していた。

「あ……の。佑さんが空港に着いたそうです」

 香澄はおずおずと双子に話しかけた。
 ずっと佑に秘密にしていた事でキリキリと胃が痛んでいるが、二人はお構いなしだ。

「あ、ホント? あいつどんな顔するかなぁ」
「フリーズしたりして」

 本当は以前のように空港に迎えに行きたかったのだが、双子に「この家でサプライズしたい」と言われ、家で待機する事になる。

 メッセージがあった時間から考えると、間もなく御劔邸に到着してもおかしくない。

「カスミ、お昼またゾウニ作って」
「あ、はい……」

 それなのに双子は相変わらずマイペースで、香澄は気が気でない。

(何もしてないより気持ちがラクかな。とりあえずお出汁の準備だけしておこう)

 キッチンに立って水を張った鍋に昆布を入れ、鰹節のパックを手に取ったところで、玄関から物音がした。

「ひゃいっ」

 あまりに驚いてキッチンで飛び上がり、呼ばれてもいないのに返事をする。
 鰹節のパックを手放す命令を、脳が下してくれなかった。

 双子は目配せし合い、「シー」と唇の前で指を立てている。

「た……佑さん?」

 パックを抱えたまま恐る恐る玄関に向かうと、そこには「あつ……」と髪を掻き上げつつ靴を脱いでいる佑がいる。
 その姿を見ただけで、双子が中にいるという事がポーンと飛んでいった。

「佑さん……っ」

 香澄が佑に抱きつき、玄関にパフッと鰹節のパックが落ちる。

「香澄、ただいま」

 嗅ぎ慣れた香りが香澄を包み、彼がそこにいる実感に酔いしれる。
 大きな手が香澄の背中とお尻を撫でたあと、後頭部を押さえてキスをされた。

「ん……」

 頭の中からはすっかり双子の存在が消え、香澄の脳内は佑一色に染められる。

「んぅ、ん……」

 自分からも積極的に唇を押しつけ、香澄は佑の舌を求めた。
 すぐに力強い舌が応え、頭の芯がボゥッとするまで濃厚なキスが交わされる。
 やがてチュ……と唇が離れ、佑が愛しげな目で見つめてくる。

「いい子で留守番してたか? 脚は? 無理してないか?」
「うん、脚は大丈……」

「Warum bist du da!?(何でそこにいる!?)」

 突然、佑がドイツ語で大きな声を出した。

「あっ!」と思って振り向くと、リビングに通じるドアの陰から双子がニヤニヤ顔を覗かせている。

「Warum!?(何で!?)」

 佑はどうやらとっさの時にドイツ語が出るようだ。
 混乱したまま双子に向かってさらに言い、香澄を見てくる。

「えっと……あの」
「香澄! もしかしてずっとこいつらと一緒にいたのか!?」

 両肩を掴まれ目を覗き込まれ、冷や汗が浮かぶ。

「いつからいた!?」

(ヤバイ……。これは、思った以上にヤバかった……)

 それでも、自分に拒否権はなかった気がする。

 心の中で言い訳をし、香澄は何か言おうとするが、その前にクラウスが口を開いた。

「えっとね、月曜日の朝からいるよ! カスミがまだ寝てる間に入っちゃった」

 クラウスが悪びれもせず答え、香澄は「やめてえええええ!!」と内心絶叫する。
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