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第七部・双子襲来 編

自撮りの送り合い

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(会いたいなぁ。ちょっと出張で会えないぐらいで〝こう〟だなんて、駄目だな私。こんな女だなんて、思いもしなかった)

 香澄としては仕事と恋愛はきちんと分けて、何事も納得した上で過ごせるつもりだった。
 彼の仕事関係でどんな事があっても、秘書としての自分をわきまえ、恋人である自分はもっと奥に引っ込ませて、彼に不満を持たないようにできる……つもりだった。

 けれど蓋を開けてみれば、怪我をして同じ職場で働けないフラストレーションがあるとはいえ、自宅で「佑さん、佑さん」ばかり。

 目を閉じると、佑の香りに包まれて手でポンポンと頭を撫でられる想像をする。

(佑さんの香水、こっそりつけちゃおうかな。それで私のネクタリンと重ねたら……、ちょっと元気出るかも)

 そんな事を考え、自分の〝恋する乙女脳〟に思わず笑ってしまう。

「……佑さん……。好き……」

 彼の子供時代や大学生時代の事を双子から聞いたが、もっと彼を好きになり、さらに「知りたい」と思うようになった。

「お二人の様子だと、エミリアさんとは本当に何でもないようだし……。もっと佑さんを信じないと」

 そのためには、自分に自信を持てるようになりたい。

 そう考えながら、気分を変えるためにバスオイルに手を伸ばし、キャップ一杯のスイートペアーをトロリと垂らした。



**



 ありがたい事に夜は何も起こらなかった。

 翌朝、香澄は覚醒したあとにソロォ……と目を開き、そちらを見る前に手探りをして、側に誰も寝ていない事を確認した。

「……よし」

 起床と共に〝確認〟が必要というのも、なかなか緊張感がある。
 それでも、〝ルール〟をきちんと守ってくれた二人への好感度と信頼が、抜群に上がった。

「なんだ、もっと信頼してもいいじゃない」

 一気に気持ちが楽になったあと、香澄は楽なワンピースに着替え、洗面所に向かう。
 身支度を整えて廊下に出ると一階も三階もシンとしている。

(まだ寝てるか。時差もきついもんね。ゆっくり寝かせてあげよう)

 時計を見ればまだ七時台で、香澄はリビングまで下りるとボリュームを小さくしてテレビをつけた。
 いつものようにマグカップに白湯を入れて飲み息をつく。
 佑がとっている新聞はすべて電子版なので、朝にポストまで行くという習慣はない。

(ゴミ出しも今日はなし、と)

 ソファに座ってのんびりしていると、佑からメッセージがあった。

『眠い。飲まされた』

 珍しく弱音を吐く彼に、香澄はクスッと笑う。

『早く寝てください』
『香澄の自撮りが見たい。いまそっち朝だろ? 香澄の可愛いすっぴん見せて』

「もー……」

 すっぴんが可愛いと言われても、微妙な気持ちだ。

 それでも香澄はスマホをインカメラにすると、努めて笑って自撮りをした。
 カシャッと音がして確認してみると、ごくごく普通の自分の顔がある。

「……相変わらず写真写り悪いな」

 そう言いながら、香澄は加工アプリを開いてサッサッと加工していく。

 特に、美白やメイク効果のあるアプリを使っている訳ではないが、食べ物や風景の写真を撮る時に使っている物だ。
 明るさや彩度などの調整、それに少しこなれた写真に見えるよう、ぼかしやグロー効果ぐらいなら、使いこなせるようになっている。

 それで健康的な表情に見えるよう、明るさを調節したあと、佑にポンと送った。
 するとすぐに返事がくる。

『可愛い。無理。抱きたい』

(あー……。語彙が少なくなってる。本当に疲れてるんだなぁ)

 彼の反応に、思わず笑う。

『送りましたから、早く寝てください。あ、でも私の写真送ったんだから、佑さんの自撮りもほしい』

 佑の写真なら、何枚だってほしい。
 欲を込めてメッセージを打つと、十秒もかからず画像が送られてきた。

「……んーっ」

 それを見た瞬間、香澄は思わずうなっていた。

 送られてきた写真は、ホテルの部屋にいる佑がソファに座っている姿だ。
 くつろいでいるのか、上半身裸で逞しい胸板も見えている。
 間接照明に照らされた室内で、佑の美貌と引き締まった体に陰影ができ、鼻血が噴き出そうなセクシーさだ。

「やだあああ……格好いい……無理。格好いい……」

 香澄はスマホを抱えてもだもだと体を揺すり、また写真を見ては天井を見上げてキュンキュンとときめく。
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