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第七部・双子襲来 編
ルール
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「それから海藻も苦手でしょ? あと煮物の匂いとかも好きじゃないみたい。美味しいのにね。豆料理はめちゃくちゃ食べるくせに、甘い餡子とかは微妙らしいからそこも不思議だけど」
代わる代わる話す双子の言葉に、香澄はいちいち感心していた。
納豆が好まれないのは分かっていたが、その他にも苦手な物があるのは意外だ。
「お餅……美味しいのに」
香澄はすまし汁の雑煮が大好きだし、焼いた餅に醤油をさっと塗って海苔を巻く、磯辺焼き……の砂糖なしバージョンも大好きだ。
鍋料理に入れた餅も好きだし、麺類に入った餅も好きだ。
どちらかと言うと、甘い餅よりもしょっぱい餅の方が好きな傾向はあるが。
学生時代の冬休みには、焼いた餅にカレーをかけて試食してみたり、様々な食べ方を実験した。
それぐらい、餅好きである自覚はある。餅〝通〟ではないけれど。
「だよねー! 餅美味しいよね! 食べたくなった! 明日食べたい。ある?」
急な〝双子フリ〟がきた。
「お店に行けば売っていますから、食べられますよ」
「やったー!」
喜ぶ双子を脇に、桃とメロンの皮を剥いて一口大にカットすると、ガラスの器に入れた。
双子は香澄の手元をチラチラ見ていて、剥き終わった頃になるとキッチンにきていた。
「取り皿とかカトラリー、どれを取ったらいい?」
「あっ、いいですよ。ありがとうございます」
香澄は食器用のクローゼットから、美しいグラデーションの青い取り皿を出す。
斎藤によって磨き上げられたブランド物のフォークは、ピカピカに光っている。
それらを双子がダイニングテーブルに運び、三人で食べる事にした。
「ありがと! いただきまーす!」
「んー! あまーい!」
ご機嫌でフルーツを口に入れる双子に、香澄はおずおずと挙手して話し掛ける。
「あの……、泊まる事はもう仕方がないとして、ルールを定めます」
「ん? ルール?」
双子はそろってキョトン顔だ。
「お二人の生活圏は三階がベースで、共有スペースである一階はフリー。二階はプライベートなので、ノータッチでお願いします。お風呂や着替え、寝ている時の接触は厳禁です。もし約束を破ったら、問答無用で出て行ってもらいます」
やや強めの言い方だが、これぐらいハッキリと意思表示しなければ、双子は言う事を聞いてくれないだろう。
「んー」
「つまんねぇ」
明らかに二人はトーンダウンし、ぶー、と唇を突き出しつつもフルーツを食べる。
香澄はドキドキとしながら、メロンを口に入れ返事を待つ。
せっかくの高級フルーツなのに、何とも食べる相手と話題に難がある。
「……ま、しゃーないか。ここでカスミに嫌われたらオシマイだしね」
「〝ずーっと〟仲良くしたいから、一時の覗きぐらい我慢するよ」
「は……はは。ありがとうございます」
逆に一時の被害よりも、これから一生分の被害を保証してしまった気がする。
「私もあんまりお二人に対して警戒したり注意したりしたくないので、ご協力頂けるのなら嬉しい限りです」
「懐きすぎると、狂犬に噛まれるしなぁ」
フルーツと一緒に出したピーチティーを飲み、クラウスが呟く。
ちなみにこのピーチティーは、斎藤が仕込んで冷やしてくれた物だ。
(……狂犬?)
すぐ佑の事だと分かったが、香澄の中の佑にそんな凶暴なイメージはない。
「カスミ、まだタスクと付き合い浅いみたいだから知らないだろうけど、あいつ一回キレたらなかなかだから気を付けてね」
「……は?」
佑が本気でキレた時の話など知らず、香澄は目をまん丸にする。
「た、佑さん……暴力を振るったりしたんですか?」
その質問に双子は顔を見合わせ肩をすくめる。
「んー、大学生の時にこっち来てさ。友達と一緒にクルーザーで地中海一周しようかって話になったんだよね。そしたら女友達の一人がウザ絡みして、その子を狙ってた男がさらにタスクにウザ絡みしてさ。人種の事とか含めバカにしてきたから、タスクもついカッとなって殴っちゃった」
「一発しか殴ってないんだけどさ。あいつのパンチ重たいから、そいつ鼻血出しちゃったよね。弾みで海に落ちちゃうし、もー大変。タスクも次の港で強引に下りて……フランスだったかな。そっから一人で帰っちゃった」
「…………佑さん悪くないじゃないですか」
香澄はげっそりとしてうめく。
当時の佑の気苦労を思うと、不憫でならない。
恐らくクルージングでの旅も、双子に誘われたのだろう。
代わる代わる話す双子の言葉に、香澄はいちいち感心していた。
納豆が好まれないのは分かっていたが、その他にも苦手な物があるのは意外だ。
「お餅……美味しいのに」
香澄はすまし汁の雑煮が大好きだし、焼いた餅に醤油をさっと塗って海苔を巻く、磯辺焼き……の砂糖なしバージョンも大好きだ。
鍋料理に入れた餅も好きだし、麺類に入った餅も好きだ。
どちらかと言うと、甘い餅よりもしょっぱい餅の方が好きな傾向はあるが。
学生時代の冬休みには、焼いた餅にカレーをかけて試食してみたり、様々な食べ方を実験した。
それぐらい、餅好きである自覚はある。餅〝通〟ではないけれど。
「だよねー! 餅美味しいよね! 食べたくなった! 明日食べたい。ある?」
急な〝双子フリ〟がきた。
「お店に行けば売っていますから、食べられますよ」
「やったー!」
喜ぶ双子を脇に、桃とメロンの皮を剥いて一口大にカットすると、ガラスの器に入れた。
双子は香澄の手元をチラチラ見ていて、剥き終わった頃になるとキッチンにきていた。
「取り皿とかカトラリー、どれを取ったらいい?」
「あっ、いいですよ。ありがとうございます」
香澄は食器用のクローゼットから、美しいグラデーションの青い取り皿を出す。
斎藤によって磨き上げられたブランド物のフォークは、ピカピカに光っている。
それらを双子がダイニングテーブルに運び、三人で食べる事にした。
「ありがと! いただきまーす!」
「んー! あまーい!」
ご機嫌でフルーツを口に入れる双子に、香澄はおずおずと挙手して話し掛ける。
「あの……、泊まる事はもう仕方がないとして、ルールを定めます」
「ん? ルール?」
双子はそろってキョトン顔だ。
「お二人の生活圏は三階がベースで、共有スペースである一階はフリー。二階はプライベートなので、ノータッチでお願いします。お風呂や着替え、寝ている時の接触は厳禁です。もし約束を破ったら、問答無用で出て行ってもらいます」
やや強めの言い方だが、これぐらいハッキリと意思表示しなければ、双子は言う事を聞いてくれないだろう。
「んー」
「つまんねぇ」
明らかに二人はトーンダウンし、ぶー、と唇を突き出しつつもフルーツを食べる。
香澄はドキドキとしながら、メロンを口に入れ返事を待つ。
せっかくの高級フルーツなのに、何とも食べる相手と話題に難がある。
「……ま、しゃーないか。ここでカスミに嫌われたらオシマイだしね」
「〝ずーっと〟仲良くしたいから、一時の覗きぐらい我慢するよ」
「は……はは。ありがとうございます」
逆に一時の被害よりも、これから一生分の被害を保証してしまった気がする。
「私もあんまりお二人に対して警戒したり注意したりしたくないので、ご協力頂けるのなら嬉しい限りです」
「懐きすぎると、狂犬に噛まれるしなぁ」
フルーツと一緒に出したピーチティーを飲み、クラウスが呟く。
ちなみにこのピーチティーは、斎藤が仕込んで冷やしてくれた物だ。
(……狂犬?)
すぐ佑の事だと分かったが、香澄の中の佑にそんな凶暴なイメージはない。
「カスミ、まだタスクと付き合い浅いみたいだから知らないだろうけど、あいつ一回キレたらなかなかだから気を付けてね」
「……は?」
佑が本気でキレた時の話など知らず、香澄は目をまん丸にする。
「た、佑さん……暴力を振るったりしたんですか?」
その質問に双子は顔を見合わせ肩をすくめる。
「んー、大学生の時にこっち来てさ。友達と一緒にクルーザーで地中海一周しようかって話になったんだよね。そしたら女友達の一人がウザ絡みして、その子を狙ってた男がさらにタスクにウザ絡みしてさ。人種の事とか含めバカにしてきたから、タスクもついカッとなって殴っちゃった」
「一発しか殴ってないんだけどさ。あいつのパンチ重たいから、そいつ鼻血出しちゃったよね。弾みで海に落ちちゃうし、もー大変。タスクも次の港で強引に下りて……フランスだったかな。そっから一人で帰っちゃった」
「…………佑さん悪くないじゃないですか」
香澄はげっそりとしてうめく。
当時の佑の気苦労を思うと、不憫でならない。
恐らくクルージングでの旅も、双子に誘われたのだろう。
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