上 下
311 / 1,544
第七部・双子襲来 編

お風呂上がりのフルーツ

しおりを挟む
「スッキリした? 逆にモヤモヤした?」
「んー……。スッキリ……はしてないかもです。でも、自分で訊きたいと思ったので、後悔はしてません。エミリアさんに直接お会いした事はありませんが、素敵な方なら私も頑張らないとな……って」

「カスミだよ~……」
「あぁー、カスミだぁ~……。可愛い、可愛い、可愛い……」

「えっ? ちょっと……、お二人とも……」

 スッと自然に沸き起こった気持ちを口に出しただけなのに、さも特別な事を言ったかのようにされ、香澄は首を傾げる。



 その後もチーズやナッツをおつまみにワインを楽しんでいたが、遅くなる前に御劔邸に戻る事にした。



**



(なるほど、……そういう問題があったか)

 白金の御劔邸に戻ったあと、寝る前にやる事を思い浮かべた香澄は、ワインで高揚した気持ちを落ち着かせてゆく。
 むしろここからが本番だ。

「カスミー、シャワー浴びたい」
「あ、待ってください。お風呂確認しますね」

 三階建ての御劔邸には、各フロアに規模の差はあれど洗面所とバスルームがある。

 昼間にカフェに向かった時、香澄は斎藤と島谷に向けてメモを書いておいた。
 佑の従兄である双子が来ているので、可能だったら三階の客室を整えておいてもらえたら……という旨だ。

 斎藤たちは香澄よりも佑と付き合いが長いので、勿論双子の事も知っているだろう。
 御劔邸の事ならベテランの彼女たちに……と思ってお願いしてみたが、帰って来たら客室も何もかも整えられていて、思わず拝んだほどだ。

 本当は一緒に双子に対応してくれるとありがたいのだが、そこは「お客様がいらっしゃっているなら、私たちは姿を現すのを控えます」というスタンスなのだろう。

 双子と一緒にエレベーターで三階まで上がったあと、香澄はそれぞれの客室にあるバスルームを見て、お湯が張られてあるのをチェックした。

「せっかくですから、お風呂にゆっくり浸かってくださいね。フライトの疲れがとれますよ」
「ありがと! カスミも歩いて足疲れたでしょ。マッサージしてあげようか?」

 いきなりクラウスがTシャツを脱ぎ、分厚い胸板にたくましく割れた腹筋が現れ、香澄は悲鳴を上げる。

「っきゃあああ! び、びびび、びっくりしたぁ!」
「ちょっともー、これぐらいで恥ずかしいの? 可愛いなぁー」
「俺にも恥じらうカスミ見せて」

 アロイスまでも脱ぎ始め、香澄はもう悲鳴すら上げられず階下へ退散してゆく。

「お風呂上がったら、フルーツ用意してますから! 一階です!」

 負け惜しみのように大きな声で告げ、香澄は顔の火照りを押さえる。

 そして自分も着替えてメイクを落とす事にした。




 男性の入浴は早いもので、二人が一階に下りてきたのは十分もかからないうちだ。

「は、早いですね?」

 テレビのニュースを見ていた香澄は立ち上がり、キッチンに向かう。

「先日、夕張メロンを頂いたんです。あと、桃もあるので用意しますね」
「両方大好き!」

「僕ら、野菜もフルーツも好き嫌いないよ」
「分かりました。逆に何か苦手な食べ物ってあるんですか?」

 冷蔵庫で冷やしていた果物を出し、香澄は包丁を出し切ってゆく。

「んーとね。何せオーマがバチバチの日本人だから、一般的にドイツ人が苦手とする物でもほとんどいけるよ。でもアレ。梅干し。あの酸っぱさは慣れないかな」

 何度かトライした事があるのか、思い出しただけでアロイスが唇をすぼませる。

「僕らもさ、ドイツで友達に『美味しいしヘルシーだよ』って日本食勧めたんだよ。でもまずあいつら、納豆ダメだね」

 自分たちは食べられるからか、クラウスが勝ち誇っている。

「そうそう。あとは餅は食感が駄目みたい。うっそーって思ったね。餅あんなに美味しいのに!」
「箸は大分グローバルになってきたけど、焼き魚の骨とか、チマチマした物を取り除くのは苦手そうかな。ヌードルなら普通に食べてるけどね。焼き魚は、ほぐしてあげたら『味はいい』って言うよ。僕らのいる南部だと、海が遠いから魚に慣れてない奴は結構いそうだなぁ。フライなら食べてそうだけどね。うちの一族が街を挙げて日本食を勧めていても、皆が皆、サシミとか寿司、日本的な魚料理を食べる訳じゃないしね」

 言われて、ドイツでの日本料理や魚料理の扱いが何となく分かってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...