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第七部・双子襲来 編
双子から聞く佑の子供時代
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「エミの写真は見た?」
「あ、はい。……綺麗な人ですね」
佑から見せられた写真を思い出し、胸の奥がモヤッとする。
ゴージャスな金髪に青い目を持つ美女。
平均的な日本人の容姿を持つ香澄からすれば、女神のような美女だ。
「エミはカスミと同い年で、僕らとは幼馴染みだ。タスクは子供の時からちょくちょくドイツに来ていた。僕らとタスクの初対面は、タスクが四歳の時だね。本当は生まれて間もなく、飛行機に乗れるようになってからオーパたちに顔を見せにきてたみたい。ただ、物心ついてタスクが『ドイツに行った』って自覚したのは、それぐらいの年齢かな」
クラウスの言葉に、アロイスが相槌を打つ。
「そのとき俺たちは五歳。まー、ヤンチャだったらしいから、遊びに誘って怪我もしたね。城の敷地内でカートぶっぱなしたり」
「もぉ……」
城持ちの貴族ならではの遊戯に、気が遠くなる。
「本当はオーパ、タンテが日本に行くって決めた時は、相当怒ってモメたらしいよ。愛妻の母国であっても、やっぱりドイツを離れるのは心配だったんでしょ。それでもタンテがタスクを連れてきて、随分と関係が改善されたみたいだ。あの爺さん、子供に弱いから」
クラウスが笑って肩をすくめると、アロイスも相槌を打つ。
「そうだね。タンテは長女だから初めての女の子っていう事で、オーパも大事にしてたんだろうねぇ」
「そういうところは、日本も海外も同じなんですね」
思わず微笑み、香澄はワインを口にする。
あのアンネもかつては少女で、ドイツで娘時代を過ごしていたのだ。
衛との出会いは、衛が旅行でドイツを訪れた際、ひょんなきっかけでアンネと話す事になり、彼女が一目惚れをしたのだと言う。
そこからアンネの心は日本に染まったらしい。
アンネが日本へ来た直後、節子の実家――大手車企業の竹本家で、随分と世話になったそうだ。
アンネから見れば祖父母の家なので、慣れない日本に来ての強力なサポートはありがたかっただろう。
しかしおんぶにだっこは申し訳ないと、投資で儲けた金を元手に池田山に家を構え、本格的に日本での生活を送っていたようだ。
投資家として稼ぐ傍ら、竹本家の家族に招かれて日本国内の要人ネットワークを築いていった。
日本の富裕層としても、あのクラウザー家の令嬢とお近づきになれるのなら「喜んで」と言っただろう。
ちなみに佑が不可抗力でお見合いをしてしまった小野瀬家は、その頃にアンネが竹本家づたいに紹介してもらったらしい。
「それで、タスクがドイツに来た時につまんなさそうにしてたから、僕たちの幼馴染みのエミを紹介したんだ」
(何してくれてるんですか)
思わず心の中で突っ込んだが、仕方のない事なのだろう。
当時の佑はきっと問題なくドイツ語を話せていただろうが、日本人気質の彼がパリピ双子とすぐ仲良くなれたのかは疑問でしかない。
様々な人と交流して、その中で本当に仲良くできる人を見つけるのが基本だが、当時の佑にまず接するのは〝ドイツの親戚〟しかいなかった。
その中で同い年ぐらいの友達を作るには、年齢の近い双子の知り合いか、アドラー達に紹介されるぐらいしかとっかかりがない。
佑がもっと年上だったなら、自分で色んな人に話しかけていっただろう。
しかしその時の佑はまだ四歳で、親の言う事を素直に聞く年齢だった。
「繋がりは理解しましたが、男女として意識し合ったりとかは、……なかったんですか?」
気になっている事を尋ねると、アロイスが肩をすくめる。
「少なくともタスクはなかったんじゃないかな? 異文化に放り込まれてドイツ人を好きになるより、住み慣れた日本で見慣れた日本人を好きになる方が普通でしょ」
「そう……ですね……」
香澄はユラユラとワイングラスを揺らす。
「こう言うと可哀相だけど、ある程度大きくなったあと、エミはちょっとタスクに気があったみたいだけどね? タスクって基本的に女の子に優しかったからね。日本人なのも珍しかったんじゃない? 一緒に遊んだ女の子たちも何人か、タスクの事を『いい』って言ってた」
「んー…………」
ワイングラスを置き、香澄は溜め息をつく。
「カスミ、ごめんね? 分かってるだろうけど、今のタスクは呆れるぐらいカスミ一筋だよ。当時の女の子たちも、〝昔会った事のなる男の子〟ぐらいしか思ってないよ? もしかしたら覚えてないかもだし」
珍しくクラウスがフォローしてくれる。
「分かりました。ありがとうございます。何か、面倒くさい事を聞いてごめんなさい」
「あはは! ホントに面倒だね」
明るく切り捨てられ、「うっ」となるものの、笑い飛ばしてもらえてありがたい。
「あ、はい。……綺麗な人ですね」
佑から見せられた写真を思い出し、胸の奥がモヤッとする。
ゴージャスな金髪に青い目を持つ美女。
平均的な日本人の容姿を持つ香澄からすれば、女神のような美女だ。
「エミはカスミと同い年で、僕らとは幼馴染みだ。タスクは子供の時からちょくちょくドイツに来ていた。僕らとタスクの初対面は、タスクが四歳の時だね。本当は生まれて間もなく、飛行機に乗れるようになってからオーパたちに顔を見せにきてたみたい。ただ、物心ついてタスクが『ドイツに行った』って自覚したのは、それぐらいの年齢かな」
クラウスの言葉に、アロイスが相槌を打つ。
「そのとき俺たちは五歳。まー、ヤンチャだったらしいから、遊びに誘って怪我もしたね。城の敷地内でカートぶっぱなしたり」
「もぉ……」
城持ちの貴族ならではの遊戯に、気が遠くなる。
「本当はオーパ、タンテが日本に行くって決めた時は、相当怒ってモメたらしいよ。愛妻の母国であっても、やっぱりドイツを離れるのは心配だったんでしょ。それでもタンテがタスクを連れてきて、随分と関係が改善されたみたいだ。あの爺さん、子供に弱いから」
クラウスが笑って肩をすくめると、アロイスも相槌を打つ。
「そうだね。タンテは長女だから初めての女の子っていう事で、オーパも大事にしてたんだろうねぇ」
「そういうところは、日本も海外も同じなんですね」
思わず微笑み、香澄はワインを口にする。
あのアンネもかつては少女で、ドイツで娘時代を過ごしていたのだ。
衛との出会いは、衛が旅行でドイツを訪れた際、ひょんなきっかけでアンネと話す事になり、彼女が一目惚れをしたのだと言う。
そこからアンネの心は日本に染まったらしい。
アンネが日本へ来た直後、節子の実家――大手車企業の竹本家で、随分と世話になったそうだ。
アンネから見れば祖父母の家なので、慣れない日本に来ての強力なサポートはありがたかっただろう。
しかしおんぶにだっこは申し訳ないと、投資で儲けた金を元手に池田山に家を構え、本格的に日本での生活を送っていたようだ。
投資家として稼ぐ傍ら、竹本家の家族に招かれて日本国内の要人ネットワークを築いていった。
日本の富裕層としても、あのクラウザー家の令嬢とお近づきになれるのなら「喜んで」と言っただろう。
ちなみに佑が不可抗力でお見合いをしてしまった小野瀬家は、その頃にアンネが竹本家づたいに紹介してもらったらしい。
「それで、タスクがドイツに来た時につまんなさそうにしてたから、僕たちの幼馴染みのエミを紹介したんだ」
(何してくれてるんですか)
思わず心の中で突っ込んだが、仕方のない事なのだろう。
当時の佑はきっと問題なくドイツ語を話せていただろうが、日本人気質の彼がパリピ双子とすぐ仲良くなれたのかは疑問でしかない。
様々な人と交流して、その中で本当に仲良くできる人を見つけるのが基本だが、当時の佑にまず接するのは〝ドイツの親戚〟しかいなかった。
その中で同い年ぐらいの友達を作るには、年齢の近い双子の知り合いか、アドラー達に紹介されるぐらいしかとっかかりがない。
佑がもっと年上だったなら、自分で色んな人に話しかけていっただろう。
しかしその時の佑はまだ四歳で、親の言う事を素直に聞く年齢だった。
「繋がりは理解しましたが、男女として意識し合ったりとかは、……なかったんですか?」
気になっている事を尋ねると、アロイスが肩をすくめる。
「少なくともタスクはなかったんじゃないかな? 異文化に放り込まれてドイツ人を好きになるより、住み慣れた日本で見慣れた日本人を好きになる方が普通でしょ」
「そう……ですね……」
香澄はユラユラとワイングラスを揺らす。
「こう言うと可哀相だけど、ある程度大きくなったあと、エミはちょっとタスクに気があったみたいだけどね? タスクって基本的に女の子に優しかったからね。日本人なのも珍しかったんじゃない? 一緒に遊んだ女の子たちも何人か、タスクの事を『いい』って言ってた」
「んー…………」
ワイングラスを置き、香澄は溜め息をつく。
「カスミ、ごめんね? 分かってるだろうけど、今のタスクは呆れるぐらいカスミ一筋だよ。当時の女の子たちも、〝昔会った事のなる男の子〟ぐらいしか思ってないよ? もしかしたら覚えてないかもだし」
珍しくクラウスがフォローしてくれる。
「分かりました。ありがとうございます。何か、面倒くさい事を聞いてごめんなさい」
「あはは! ホントに面倒だね」
明るく切り捨てられ、「うっ」となるものの、笑い飛ばしてもらえてありがたい。
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