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第七部・双子襲来 編
婚約者か秘書か
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そこでアロイスが「コーヒー飲もうか」と言って一本指を上げる。
これはドイツ人ならではの双子の癖だ。
ドイツではヒトラーの影響もあり、日本のように挙手をする事をタブーとされている。
あちらでは店員を呼ぶ場合、指を一本立てるのが一般的だ。
香澄は「日本で通じるのかな?」と一瞬思ったが、さすが東京の店員は外国人に慣れているようで、困惑せずやって来る。
「ホットコーヒー三つお願い。あとパンケーキにフルーツプラスで。それとチーズケーキ三つ」
アロイスがスラスラと注文し、香澄が驚く。
「そ、そんなに食べるんですか?」
「パンケーキはシェアすればいいし、チーズケーキもそんなに大きい訳じゃないからいけるでしょ? ここの美味しいみたいだよ」
「僕たち肉食だけど、甘い物も好きなんだよね」
「はぁ……」
頑張ろう、と香澄は心の中で拳を握る。
佑と付き合いだしてから、胃が少し大きくなった気がする。
以前の生活のままなら確実に太ってただろうが、今は佑と一緒にトレーニングできているので一応セーフだ。
彼が雇ったトレーナーのお陰で香澄のスタイルは磨かれ、贅沢な食事を取ってもすぐ運動する癖がついていた。
もっとも今は脚の怪我があるので、あまり食べ過ぎないようにしているのだが。
――と、スマホがピコンと鳴る。
「あ、佑さんだ」
「えっ? マジ?」
佑はパリに行っていて、現在あちらは早朝のはずだ。
コネクターナウを開くと、夜のシャンゼリゼ通りの写真がある。
「わぁ……、綺麗」
美しい街並みに頬を緩めていると、佑からメッセージが入った。
『おはよう。昨晩いいワインに出会ったから、持って帰るよ。今はランチかな? 一人で過ごさせてごめん』
(あー……)
何と言うか、ここで双子の事を言わないととても佑に悪い気がする。
「あの……。佑さんに言ったら駄目ですか?」
「サプライズしよーよぉ」
アロイスが甘ったれた声を出し、ぶー、と唇を尖らせる。
「うーんと……。じゃあ、『お客様が来ています』ならどうですか?」
「絶対あいつ『誰だ?』って聞いてくるでしょ」
「んー……」
香澄はできるだけ冷静に考えてみる。
佑が一番望むのは、知らせる、知らせないのどちらだろう? と。
(当然、知らせた方がいいのは分かってる。佑さん、お二人を何かと警戒しているし)
彼の身になってみれば、香澄が双子と一緒にいるというだけで、何も手に付かないほど心が乱されるだろう。
自分だって逆の立場ならそう思う。
(でも今は出張中なんだよね。お仕事で出掛けているのであって、煩わせるような事があったらいけない)
それも強く懸念している。
要するに、婚約者である自分をとるか、秘書である自分をとるか、だ。
だとしたら、迷わない。
気持ちを整理して、香澄は佑にメッセージを返す。
『おはよう。綺麗な景色をありがとう。ワイン楽しみにしています。私はいつかモン・サン=ミッシェルに行って有名なオムレツが食べたいな』
双子の事は言わない。
けれど、一人でランチをとっていると嘘もつかない。
『食いしん坊、可愛いよ(笑)。木曜日の昼には戻るから、待っていて。今日は下着ブランドの社長と会って、色々話してきます』
『上手くいくよう祈っています、社長』
微笑んでメッセージを打ち、じっと画面を見ていると佑が少し間を空ける。
何か言いたそうな雰囲気のあと、『がんばります』というスタンプが送られてきた。
(ごめんね、佑さん。私から〝社長〟なんて出されると、プライベートの方に戻しづらいよね。本当にごめんね)
心の中で謝り、香澄も『ファイト!』というスタンプを送った。
「はぁ……」
溜め息をついてスマホを閉じ顔を上げると、双子が興味津々という顔で香澄を見ている。
「な、なんですか」
「いやぁ、悩める乙女の顔って可愛いなぁ……って」
「僕らの周りに香澄みたいな子っていないからさ。だから気になるんだよね。ほんとピュア。やっぱり二十代ってまだ若いよね」
これはドイツ人ならではの双子の癖だ。
ドイツではヒトラーの影響もあり、日本のように挙手をする事をタブーとされている。
あちらでは店員を呼ぶ場合、指を一本立てるのが一般的だ。
香澄は「日本で通じるのかな?」と一瞬思ったが、さすが東京の店員は外国人に慣れているようで、困惑せずやって来る。
「ホットコーヒー三つお願い。あとパンケーキにフルーツプラスで。それとチーズケーキ三つ」
アロイスがスラスラと注文し、香澄が驚く。
「そ、そんなに食べるんですか?」
「パンケーキはシェアすればいいし、チーズケーキもそんなに大きい訳じゃないからいけるでしょ? ここの美味しいみたいだよ」
「僕たち肉食だけど、甘い物も好きなんだよね」
「はぁ……」
頑張ろう、と香澄は心の中で拳を握る。
佑と付き合いだしてから、胃が少し大きくなった気がする。
以前の生活のままなら確実に太ってただろうが、今は佑と一緒にトレーニングできているので一応セーフだ。
彼が雇ったトレーナーのお陰で香澄のスタイルは磨かれ、贅沢な食事を取ってもすぐ運動する癖がついていた。
もっとも今は脚の怪我があるので、あまり食べ過ぎないようにしているのだが。
――と、スマホがピコンと鳴る。
「あ、佑さんだ」
「えっ? マジ?」
佑はパリに行っていて、現在あちらは早朝のはずだ。
コネクターナウを開くと、夜のシャンゼリゼ通りの写真がある。
「わぁ……、綺麗」
美しい街並みに頬を緩めていると、佑からメッセージが入った。
『おはよう。昨晩いいワインに出会ったから、持って帰るよ。今はランチかな? 一人で過ごさせてごめん』
(あー……)
何と言うか、ここで双子の事を言わないととても佑に悪い気がする。
「あの……。佑さんに言ったら駄目ですか?」
「サプライズしよーよぉ」
アロイスが甘ったれた声を出し、ぶー、と唇を尖らせる。
「うーんと……。じゃあ、『お客様が来ています』ならどうですか?」
「絶対あいつ『誰だ?』って聞いてくるでしょ」
「んー……」
香澄はできるだけ冷静に考えてみる。
佑が一番望むのは、知らせる、知らせないのどちらだろう? と。
(当然、知らせた方がいいのは分かってる。佑さん、お二人を何かと警戒しているし)
彼の身になってみれば、香澄が双子と一緒にいるというだけで、何も手に付かないほど心が乱されるだろう。
自分だって逆の立場ならそう思う。
(でも今は出張中なんだよね。お仕事で出掛けているのであって、煩わせるような事があったらいけない)
それも強く懸念している。
要するに、婚約者である自分をとるか、秘書である自分をとるか、だ。
だとしたら、迷わない。
気持ちを整理して、香澄は佑にメッセージを返す。
『おはよう。綺麗な景色をありがとう。ワイン楽しみにしています。私はいつかモン・サン=ミッシェルに行って有名なオムレツが食べたいな』
双子の事は言わない。
けれど、一人でランチをとっていると嘘もつかない。
『食いしん坊、可愛いよ(笑)。木曜日の昼には戻るから、待っていて。今日は下着ブランドの社長と会って、色々話してきます』
『上手くいくよう祈っています、社長』
微笑んでメッセージを打ち、じっと画面を見ていると佑が少し間を空ける。
何か言いたそうな雰囲気のあと、『がんばります』というスタンプが送られてきた。
(ごめんね、佑さん。私から〝社長〟なんて出されると、プライベートの方に戻しづらいよね。本当にごめんね)
心の中で謝り、香澄も『ファイト!』というスタンプを送った。
「はぁ……」
溜め息をついてスマホを閉じ顔を上げると、双子が興味津々という顔で香澄を見ている。
「な、なんですか」
「いやぁ、悩める乙女の顔って可愛いなぁ……って」
「僕らの周りに香澄みたいな子っていないからさ。だから気になるんだよね。ほんとピュア。やっぱり二十代ってまだ若いよね」
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