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第七部・双子襲来 編

表参道のカフェ

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「僕たちの前で、二度とそういうこと言ったらダメだからね?」

 背後からクラウスが香澄の頭を撫で、顔を覗き込んでくる。
 いきなり始まった双子とのラブシーンもどきに、周囲がざわついた。

「じゃなかったら、今ここでキスするからね? 腰抜かすぐらい濃厚な奴」
「い、言いません! 二度と言いません!」

 プルプルと頭を左右に振り、焦ってアロイスの胸板を押し返すと、双子がケタケタと笑う。

「あ、あそこ。行きたかった店。丁度ストリート沿いにあっていいでしょ?」

 クラウスが指差す先には、ケヤキ並木に面したガラス張りの店がある。

「当初はオープンテラスがいいなって思ったんだけど、クソ暑いしさ。屋内でもいっか。って思って」

 香澄は佑と一緒にデートする際、こういう若者が行くようなカフェやレストランに行った事がない。
 いつもプライバシーが守られるホテルの個室がメインだ。

 なのでどことなく、気持ちが浮き立つ。

(佑さんも一緒なら良かったのにな。……こんなこと思ったら、お二人に失礼か)

「ちょっと早いけどさ、あそこでのんびりランチしよ。基本イタリアンなのか洋食なのかって感じだけど、パンケーキもあるみたいだよ」

「あ、あれ? ラーメンなんじゃなかったんです? 行列……」
「それは今度でいいよ」

 コロコロと変わる双子の気分に、香澄は苦笑いする。

 店に入ると冷房が効いていて心地いい。
 予約していたのか、双子がスタッフに名前を告げると席に案内された。

 吹き抜けになった二階の席の窓側は、眺めも良く特等席だ。

「はい、カスミ。好きな物頼んで」

 メニューを押しやられ、香澄は押し返そうとする。

「いえ。お客様なんですから、お先にどうぞ」
「Nein(ダメ)。レディファースト。あと、朝は香澄が作ってくれたでしょ。ご馳走するから好きなもの頼んで」

「う、うー……。あ、ありがとうございます……」

 値段を見ると、佑といつも行く高級レストランよりずっと庶民的だ。
 安堵してメニューを見ていると、アロイスがとんでもない事を言う。

「ディナーはもうちょっとムーディーな所に行くから、一度帰ってドレスアップするからね? その時用にお腹も空けておいて」

「……い、家でおそうめんとか食べません?」

「あ、ソウメン! いいね。僕好きだよ。明日の朝それにしよう! でも今日のディナーはもう予約しちゃったから従って?」

(ひええ……!)

 高級攻めは佑だけでお腹一杯だが、双子に任せたら星付きのどこかへ連れて行かれそうだ。

「日本のビーフって柔らかくていいよねぇ」

(しかもステーキですか! いや、すき焼き?)

 会話をしながらも香澄はメニューを見て、色々な物が少しずつ入っているランチセットにした。
 双子もそれぞれオーダーし、「これも美味しそう」とパスタも頼んだ。

 さらにしつこくパンケーキを勧めてくるので、「食べ終わって余裕があったら……」と懸命に対応した。

 運ばれてくる間、双子はトートバッグから小さめのスケッチブックを取り出し、雑談しながら鉛筆を走らせている。

(こういう所は、佑さんと似てるんだよなぁ)

 性格そのものはまったく違うとは言え、佑も双子もファッション界に身を置いている。
 どこにでもアンテナを伸ばし、隙あらばデザインのインスピレーションにする。
 思いついたら鉛筆を走らせ、描き留める。

 そうしているうちにランチセットが運ばれてきた。

「美味しそう! いただきます」

 仕切りのついたプレートには、肉料理やコロッケなどのおかずの他、野菜を使った物など、洋風と名のつくおかずなら何でも……という感じの物が少しずつ並んでいる。
 別の小鉢には、フルーツのコンポートもついていた。

 思わず写真を撮ると、焦った調子でアロイスが声を掛けてくる。

「カスミ、くれぐれもタスクにはナイショでね」
「はい、分かってます」

 双子と一緒に楽しいランチを過ごしたあと、「どうしてもパンケーキを前にしたカスミが撮りたい」としつこく言われてしまう。

 断り切れず、お腹がこなれるまで少しお喋りをして過ごす事にした。

 見目麗しい双子はこの上なく目立ち、周囲からの視線が熱い。

 それでもスマホを向ける者がいないのは、屋内だと目立つ行動をすると誰かに咎められるという気持ちが働くからかもしれない。
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