上 下
301 / 1,549
第七部・双子襲来 編

心当たり

しおりを挟む
「……撮られてますね」

「まぁ、慣れてるから大丈夫。もしSNSにカスミの写真が載るような事があったら、俺たちからSNSの運営に削除依頼するから、そこは任せといて」

 こともなげにアロイスが言い、香澄は少し意外に思う。

「いつもそういう対処をしているんですか?」

「いや? だってカスミ、勝手に撮られて拡散されるの嫌でしょ? 僕たちは広告塔でもあるから別にいいんだけど、カスミは一般人だし」

「あ……はい。ありがとうございます」

 クラウスが常識的な事を言うので、意外に思ってしまった。

「ま、俺たちは勝手にカスミを撮るけどね!」
「そこは威張る所じゃありません」

 会話をしている間も、「すっごいイケメン双子」「あの人いいなー。逆ハーじゃん」という声が聞こえ、なんとも居たたまれない。

「ねぇ、カスミってさ。あのメールの送り主、ちょっとでも想像つく?」

 ふとそんな事を聞かれ、少し気持ちを重たくさせながらも「そうですね……」と思考を巡らせる。

 しかし考えてもきりがない。

 一番最近の出来事で言えば、飯山たちだ。
 もしかしたら香澄が仲良くしている社員伝いに、フリーメールのアドレスを教えてもらっていてもおかしくない。

 けれど、簡単に他人の個人情報を教える人と仲良くしている……とも考えたくない。
 成瀬たちについては、飯山と仲が悪いので彼女たちの可能性は除外している。

 札幌にいる友人に嫉妬された……という可能性を考えても、ここまでの行動を見せる人ではないと思う。
 学生時代何だかんだでこじれた人はいるけれど、卒業したあとは音信不通なので、向こうも興味を失っているだろう。

 そもそもにして、学生時代の香澄は地味だったので、あまり敵を作るタイプではなかったと思っている。

 八谷時代に迫ってきた客や、香澄に告白をしてきたBow tie clubの店長も、そこまで深追いする人ではないだろう。

 ドイツではクラウザー家の人以外と面識はないし、皆、アドラーが認めた事により一族総出で味方になってくれたと思っている。

 あとは、見ず知らずの人に恨まれている……としか考えられない。

「……分からないんですよね。難癖つけようとしたら全員疑わしいですが、逆に全員そこまでの動機はないと思うんです。誰かがその気になったとして、ちょっとコンピューターに詳しい人に依頼したら、ハッキングって言うんですか? ワールドガーデンのIDやパスワード、メールアドレスを知るなんて簡単そうです」

「まぁ、悪さをするならハッカーっていうかクラッカーだけど」
「クラッカー?」

 思わず香澄の頭の中に、ベージュ色のサクサクしたお菓子が浮かんだ。

「ハッカーもクラッカーも、両方コンピューター知識に長けた人間だけど、基本的にイイヤツに分類されるのはハッカーだよ。クラッカーっていう奴の方が悪者で、ワルイコトをするのをクラッキングっていうんだ」

「へええ……。知りませんでした」

「警察に協力するハッカーもいるしね。ま、特殊な存在だし、一度メディアが悪い事件に『ハッカーが……』って言ったら、そういうイメージつくんじゃないの?」

「詳しいんですね」
「別に普通だよ。っていうか、知り合いにハッカーがいるからっていうだけ」

「それも凄いですね」

 双子は歩いては歩行者の服装を見て、時々立ち止まって何やらメモをしている。
 頭に浮かんだアイデアでも書き留めているのだろうか。

「さっき僕もさ、その知り合いに頼もうかなって思ったけど、ワールドガーデンの事なら、会社内から調べた方が手っ取り早いと思って」

「そうそう。弁護士使うのは正当な手だけど、多少の我が儘が効くなら〝上〟から言ってもらって、カスミにメールを送った人を特定できそうじゃん。まー、あんまり意味はなさそうな気がするけどね。東南アジアとかインドとか、頼まれたらSNSのいいねフォロー稼ぎも、何だってする組織があるし。大元がカスミのアカウントをクラッキングして、下請けにこういう内容のメールを送ってほしいって言ったら、そこで蜥蜴の尻尾切りができる」

「その末端を調べて依頼者をゲロさせるのも、ちょっと時間かかるしね。だからカスミは基本的にオーパに任せておけばいいよ」

「……なんか、すみません。私なんかのために。嫌がらせのメールもらっている人は、他にも大勢いるのに」

 視線を落とした呟いた時、グイッと腕を引かれアロイスの腕の中に収まっていた。
 顎をしっかりと掴まれ、キスをする時のように上向かされる。

「カスミ、それダメ。日本人の悪い癖だよ。『私なんか』って」
「あ……」

 しまった、と香澄は内心顔を歪める。

 佑にも常々言われている事が、落ち込んで卑屈になったせいで、ついポロリと出てしまった。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...