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第七部・双子襲来 編

ケヤキ並木

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『そこにいるアロクラも、日本にいるあいだ上手に使ってあげなさい。チャラついて見えるがキックボクシングの大会で優勝していて、かなり優秀な護衛になる。スキンシップに困っているかもしれないが、嫌な時は嫌とハッキリ言えば伝わるだろう』

『は……はい……』

 前半は頼もしい限りだが、後半は何度も試みているのに結果がついてきていない。
 スピーカーの向こう側から欠伸を噛み殺す音が聞こえ、香澄は慌ててアドラーに寝るよう促した。

『遅い時間に本当にすみません。もう大丈夫ですから、お休みください。また改めて時間が合う時にご連絡します』
『ああ、分かった。アロ、クラ。ちゃんと香澄さんを守りなさい』

 そこで電話が切れ、車内に一瞬沈黙が落ちる。

「……まぁ、オーパもああ言っていたし、近日中に犯人分かるだろ!」

 急に言葉を日本語に切り替えたアロイスが、脚を組み直し明るい調子で言った。

「カスミ、悪いけどさっきのメール削除しておいたから」
「えぇっ?」

 アロイスからスマホを返され慌てて受信メールを見れば、あの不審なメールがなくなっている。
 ちなみに弁護士に依頼するために、PC版のメールからPDFなどは保存してある。

「わざわざ傷つくようなメール、見なくてもいいじゃん。僕たちで何とかしておくからさ、カスミはいっつも可愛い顔して笑ってればいいんだよ」

(不器用だなぁ)

 香澄は初めて、双子に対してそんな感想を持った。

 彼らの破天荒な〝いつも〟を知っているから、こういう風にまじめに守られると戸惑いを感じてしまう。
 だが彼らの〝本気〟を知り、ついおかしくなると同時に〝不器用〟と思うのだ。

 いつもこのようにまじめにしていれば、もっと女性受けもいいだろうし、勘違いされる事も少なくなるだろう。

 なのに双子は、常に自分に正直というスタンスを崩さないのだ。
 勘違いされる事があっても、それを含めた人間関係の中で彼らなりの〝本当の人間関係〟を築こうとしているのかもしれない。
 香澄が知らない場所で、双子の表と裏を知る本当の親友がいる可能性だってある。

「……ありがとうございます。お二人とも、いつもそれぐらいまじめだったらいいんですけどね?」

 クスッと笑うと、「Oh mein gott!(なんてこった!)」と二人が天井を仰ぐ。

「俺たちいつでもまじめだけどね? 仕事だって女の子口説く時だって、全力だよ?」
「そうそう。ガールフレンド達も、そういう所がいいって言ってくれるんだけどね?」

 丁度そのタイミングで車が表参道に着いた。

『後で連絡するから、適当に待機してて』

 クラウスが先に車を降り、香澄に手を差し出した。

「あ、ありがとうございます」

 彼の手を借りて降車すれば、高級外車から現れた、見るも麗しい金髪碧眼の外国人男性にエスコートされた香澄を、周囲の人たちが注目していた。

(ひえええ……!!)

 一気に恥ずかしくなったところ、同じ顔をしたアロイスが出てきて注目度が倍になる。

 あちこちで「モデル?」「いや、俳優でしょ」という声が聞こえ、恥ずかしくて堪らない。
 というか、この美形双子と一緒にいるのが自分で申し訳ない。

(サングラスでも持ってこれば良かった……!)

「あの女性もきっとどこかのセレブなんでしょ?」

 そんな声が聞こえ、アスファルトを全力で掘って埋まりたくなった。

「ねぇ、カスミ。このケヤキ並木? をさ、ちょっと歩いても大丈夫? 十分もかからないんだけど」

 双子は周囲の視線などまったく介さず、香澄に尋ねてくる。

「あ、はい。表参道ヒルズとか行きたいんですか?」
「や。ちょっと都合つけてもらった所あるから、そこに向けてゆっくり歩くだけ」
「はい、分かりました」

 車は走り去り、香澄は左右を双子に固められたまま歩き出す。
 周囲からの視線が痛いけれど、こうなっては観念するしかない。

 八月の日差しは厳しいが、生い茂ったケヤキ並木の木陰は少し涼しい気がする。
 双子は表参道を歩く人々のファッションをチェックし、それぞれ口元で何事かを言っている。
 歩幅も香澄に合わせてくれ、無理なく進む事ができた。

 今朝、御劔邸に突撃してきた時は、フライトからそのままだったのかラフな格好だったが、今は別の服に着替えている。
 均整の取れた体に細身のパンツを穿き、デザインTシャツを着ているので、ファッションモデルがそのまま歩いているようだ。

 しかもそのTシャツも彼らのブランドの物だ。

 それだけで彼らが何者か理解した通行人もいるようで、遠巻きにスマホを向ける者までいる。
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