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第七部・双子襲来 編
家族の重み
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「見せて。いまチラッと見えた。ごめん。でも見せて」
「…………」
固まっている香澄の手から、アロイスがやんわりとスマホを取り上げた。
「ごめんね、カスミ。このメールだけ開くよ」
真面目なトーンで告げて、アロイスは香澄のスマホを操作する。
アロイスはジッとスマホの液晶画面を見つめ、青い目を細めた。
「アロ、僕にも見せて。っていうか、転送して」
「カスミ、いい?」
「あの……。お願いです。騒ぎにしてほしくないんです」
「なんで?」
アロイスは今や欠片も笑っていなかった。
むしろ冷酷さすら感じさせる表情に、香澄は初めて双子に対する畏怖を覚える。
「佑さんが弁護士さんに情報開示請求をしてくれました。他にもアドラーさんに相談をしてくれました。そちらで動いてくださっているので、これ以上何かしなくても……と思います」
すると反対側でクラウスが自分のスマホを取り出した。
一瞬見えた電話のコール画面には、Opaと書かれてある。
瞬時にして、香澄は頭の中でドイツの時間を計算して首を左右に振った。
「あちらはいま真夜中です。アドラーさんもご就寝中ですから……」
「ちょっと黙ってて」
クラウスの指が香澄の唇をふにゅっと押す。
一瞬たじろいだ香澄を脇に、彼はハンズフリーでアドラーが出るのを待つ。
「クラは俺より短気だから、黙って見守ってあげて」
その間も、アロイスはクラウスのスマホに件のメールを転送してしまった。
十秒ほどコール音が鳴ったあと、『……もしもし』と不機嫌そうなアドラーの声がする。
クラウスは悪びれもせず、ドイツ語で会話を始めた。
『もしもし、オーパ? 僕。タスクからカスミに変なメールがきた件で、依頼を受けたって?』
『……なんだ、どこから知った』
『今カスミと一緒にいるんだけど、クソなタイミングでクソなメールがまたきたんだ』
『なんだと?』
寝ぼけ半分だったアドラーの声に、しっかりとした力が入る。
『オーパさぁ、ワールドガーデンの会長と友達でしょ? 直接聞かないの? オーパらしくない。カスミが前のメール受け取った時期から、もう数週間経ってるよ?』
『……佑に表沙汰にするなと言われた。香澄さんも望んでいないと』
『そんな手ぬるい事やってるから、〝次〟がくるんだよ』
クラウスがアドラーを責める。
孫に手厳しい言葉を言われ、アドラーは少し沈黙した。
やがて溜め息をついたあと、『分かった』と返事をする。
香澄は正直、双子の思ってもみない面を見て萎縮していた。
双子はいつもふざけていて、本心なのか悪戯なのか分からない人たちととっていた。
人の迷惑と自分の娯楽を量りにかけ、いつでも自分たちを択ってしまう困った人たちだと思っていたのだ。
だが香澄の事で怒ってくれている二人は、とても頼もしい。
自分に近しい者に害なす者を決して許さないという、確固たる姿勢を見せている。
普段はどうであれ、双子が香澄を大事に思い、守ろうとしてくれているのは確かだ。
『明日の午前中にでも、会長に電話をしよう。ただ手間を取らせる分、何を要求されるかは分からない。私は佑からの要求には佑にリターンを求める。だがお前たちからの要求には、お前たちにリターンを求めるぞ。結婚についてつつかれても知らないからな』
『OK。カスミを守るためなら何だっていいよ。ただ、まだ結婚したくないから、それを言われたら断る方法を考えるけどね』
クラウスはアロイスの方を見、アロイスもそれに頷いてみせる。
焦った香澄は、クラウスの手首を掴みスマホに向かって声をかけた。
『あの、アドラーさんこんばんは。お久しぶりです、香澄です』
するとアドラーの声がパッと明るくなる。
『おお、香澄さんか。あなたも難儀な事になっているな』
『いえ。それよりもお手を煩わせてしまってすみません。本当に大した事はないので、どうか……』
『香澄さん』
大事にしないでほしいと言いかけ、アドラーに言葉を止められる。
『は、はい?』
『私は以前に言ったね? 私が認め、クラウザー家の一員になるのなら、全員があなたを守るだろうと。私たち一族は、家族を何より重んじている。遠い日本にいる佑も、その妻になる香澄さんも、私たちの中では等しく家族なのだよ』
『…………っ』
不安になっていた所に温かな言葉をかけられ、ぐっときてしまう。
「…………」
固まっている香澄の手から、アロイスがやんわりとスマホを取り上げた。
「ごめんね、カスミ。このメールだけ開くよ」
真面目なトーンで告げて、アロイスは香澄のスマホを操作する。
アロイスはジッとスマホの液晶画面を見つめ、青い目を細めた。
「アロ、僕にも見せて。っていうか、転送して」
「カスミ、いい?」
「あの……。お願いです。騒ぎにしてほしくないんです」
「なんで?」
アロイスは今や欠片も笑っていなかった。
むしろ冷酷さすら感じさせる表情に、香澄は初めて双子に対する畏怖を覚える。
「佑さんが弁護士さんに情報開示請求をしてくれました。他にもアドラーさんに相談をしてくれました。そちらで動いてくださっているので、これ以上何かしなくても……と思います」
すると反対側でクラウスが自分のスマホを取り出した。
一瞬見えた電話のコール画面には、Opaと書かれてある。
瞬時にして、香澄は頭の中でドイツの時間を計算して首を左右に振った。
「あちらはいま真夜中です。アドラーさんもご就寝中ですから……」
「ちょっと黙ってて」
クラウスの指が香澄の唇をふにゅっと押す。
一瞬たじろいだ香澄を脇に、彼はハンズフリーでアドラーが出るのを待つ。
「クラは俺より短気だから、黙って見守ってあげて」
その間も、アロイスはクラウスのスマホに件のメールを転送してしまった。
十秒ほどコール音が鳴ったあと、『……もしもし』と不機嫌そうなアドラーの声がする。
クラウスは悪びれもせず、ドイツ語で会話を始めた。
『もしもし、オーパ? 僕。タスクからカスミに変なメールがきた件で、依頼を受けたって?』
『……なんだ、どこから知った』
『今カスミと一緒にいるんだけど、クソなタイミングでクソなメールがまたきたんだ』
『なんだと?』
寝ぼけ半分だったアドラーの声に、しっかりとした力が入る。
『オーパさぁ、ワールドガーデンの会長と友達でしょ? 直接聞かないの? オーパらしくない。カスミが前のメール受け取った時期から、もう数週間経ってるよ?』
『……佑に表沙汰にするなと言われた。香澄さんも望んでいないと』
『そんな手ぬるい事やってるから、〝次〟がくるんだよ』
クラウスがアドラーを責める。
孫に手厳しい言葉を言われ、アドラーは少し沈黙した。
やがて溜め息をついたあと、『分かった』と返事をする。
香澄は正直、双子の思ってもみない面を見て萎縮していた。
双子はいつもふざけていて、本心なのか悪戯なのか分からない人たちととっていた。
人の迷惑と自分の娯楽を量りにかけ、いつでも自分たちを択ってしまう困った人たちだと思っていたのだ。
だが香澄の事で怒ってくれている二人は、とても頼もしい。
自分に近しい者に害なす者を決して許さないという、確固たる姿勢を見せている。
普段はどうであれ、双子が香澄を大事に思い、守ろうとしてくれているのは確かだ。
『明日の午前中にでも、会長に電話をしよう。ただ手間を取らせる分、何を要求されるかは分からない。私は佑からの要求には佑にリターンを求める。だがお前たちからの要求には、お前たちにリターンを求めるぞ。結婚についてつつかれても知らないからな』
『OK。カスミを守るためなら何だっていいよ。ただ、まだ結婚したくないから、それを言われたら断る方法を考えるけどね』
クラウスはアロイスの方を見、アロイスもそれに頷いてみせる。
焦った香澄は、クラウスの手首を掴みスマホに向かって声をかけた。
『あの、アドラーさんこんばんは。お久しぶりです、香澄です』
するとアドラーの声がパッと明るくなる。
『おお、香澄さんか。あなたも難儀な事になっているな』
『いえ。それよりもお手を煩わせてしまってすみません。本当に大した事はないので、どうか……』
『香澄さん』
大事にしないでほしいと言いかけ、アドラーに言葉を止められる。
『は、はい?』
『私は以前に言ったね? 私が認め、クラウザー家の一員になるのなら、全員があなたを守るだろうと。私たち一族は、家族を何より重んじている。遠い日本にいる佑も、その妻になる香澄さんも、私たちの中では等しく家族なのだよ』
『…………っ』
不安になっていた所に温かな言葉をかけられ、ぐっときてしまう。
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