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第七部・双子襲来 編
ポロリと
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そういう香澄は、あまり流行には詳しくない。
「じゃあ、話題作りに食べてく?」
「いいね。でも僕、せっかく日本来たからラーメン食べたいな」
「あ、いいね」
双子は次々にやりたい事を決めてゆく。
(きっと仕事でもこういう風に、ポンポン言い合ってアイデアとか出していくんだろうなぁ)
コーヒーを飲みつつぼんやりしていると、「じゃ、そういう事ね!」とアロイスに言われる。
「へっ? すみません、聞いていませんでした」
我に返ると、双子が笑う。
「俺たちの話『聞いてない』って言うのも、カスミぐらいだよねー」
「そうそう。こういう塩対応が堪らないっていうか。でね、僕たちしばらくここに泊まるから」
「へぁっ!?」
声がひっくり返ったあと、香澄の頭からすべての思考が吹っ飛んだ。
「今、荷物はいつものホテルにあるんだけど、タスクの家って使ってない部屋いっぱいあるでしょ」
「そうそう。タスクが帰って来ても、広いからセックスしても声聞こえないよ?」
「しません!!」
反射的に大声を出したあと、香澄は弱り切って頭を抱える。
「え? えぇ? ちょ……待ってください。もうちょっとしたらお盆休みに帰省する予定で、佑さんと札幌で楽しい思い出作ったりして、そのあと仕事に復帰して……」
「なにそれ、全部面白そう」
「札幌って北の地方都市だよね? 行った事ないから行ってみたい! キセイって何?」
「き、帰省は故郷に帰る事……ですけど」
「カスミが生まれた所!? 絶対見たい!」
「東京の八月って地獄って言うから、北に行ったら丁度いいんじゃない?」
(墓穴掘った……)
香澄は心の中で、佑が無言で絶対零度のオーラを噴き出している姿を容易に思い浮かべた。
(ごめんなさい……佑さん……。お二人で帰ったら何でも言う事聞きます……)
海より深く反省し、香澄は双子に逆らうのを諦めるのであった。
**
店が開く時間帯には、双子は秘書に連絡をして、ホテルからスーツケースを持ってこさせていた。
その間に香澄は出掛ける支度を済ませていたのだが、いまだに悩んでいる。
佑がいない間双子をもてなすのはいいが、やっぱり気が重たい。
彼が戻るまで、何事も起きずに済むだろうかと思うと胃が痛くなる。
「うん。カスミはやっぱりビタミンカラーも似合うね。夏はハッキリした色の方が元気に見えるよ」
「そうそう。パーソナルカラーとかもあるけど、レッドの中でも色々グラデーションがあるからね。夏は燃えるようなパッションを押し出していかないと」
例によって双子が香澄のワードローブを見たがり、あれやこれやとアイテムを引っ張り出してはしまい、香澄が今日着る物が決まった。
ややピンクがかった赤のワンピースだ。
髪は双子が器用に纏めてくれ、玄関先には服に合わせた靴まで置かれてある。
「本当はもっとミニ丈だったり、体にフィットしたのも着せたいけどね」
「まぁ、今は脚の事もあるし、しゃーないか」
たまに、割と常識的なところを覗かせるので嫌いになれない。
香澄の耳にはパールのイヤリングが揺れ、アロイスがご機嫌にそれを指で弾く。
「カスミって今その状態でどんだけ歩けるの?」
「無理をしなければ、普通に歩けますよ」
本来ならヒールを用意したかったのだろうが、用意されたサンダルは歩きやすさ重視のローヒールの物だった。
玄関で双子は顔を見合わせ、無言で何か相談し合う。
「長距離歩くのはやめとこっか。可哀相だしね」
「百メートル以上かかる所は、車使おう」
「そ、そんなに気を遣わなくていいですってば」
「運転手も連れて来てるし、仕事させないと彼も困るでしょ」
「う、うー」
〝仕事〟と言われると弱く、香澄は口ごもる。
「それにしても、カスミのワードローブは実にタスクの好みが出てるね。フェミニンメインにガーリー。セレカジにリゾート系も揃ってて。あいつの頭の中身が透けて見える」
「えっ? に、似合ってませんか?」
双子も世界的に有名なファッションブランドのデザイナー兼社長なので、思わずギクリとする。
「じゃあ、話題作りに食べてく?」
「いいね。でも僕、せっかく日本来たからラーメン食べたいな」
「あ、いいね」
双子は次々にやりたい事を決めてゆく。
(きっと仕事でもこういう風に、ポンポン言い合ってアイデアとか出していくんだろうなぁ)
コーヒーを飲みつつぼんやりしていると、「じゃ、そういう事ね!」とアロイスに言われる。
「へっ? すみません、聞いていませんでした」
我に返ると、双子が笑う。
「俺たちの話『聞いてない』って言うのも、カスミぐらいだよねー」
「そうそう。こういう塩対応が堪らないっていうか。でね、僕たちしばらくここに泊まるから」
「へぁっ!?」
声がひっくり返ったあと、香澄の頭からすべての思考が吹っ飛んだ。
「今、荷物はいつものホテルにあるんだけど、タスクの家って使ってない部屋いっぱいあるでしょ」
「そうそう。タスクが帰って来ても、広いからセックスしても声聞こえないよ?」
「しません!!」
反射的に大声を出したあと、香澄は弱り切って頭を抱える。
「え? えぇ? ちょ……待ってください。もうちょっとしたらお盆休みに帰省する予定で、佑さんと札幌で楽しい思い出作ったりして、そのあと仕事に復帰して……」
「なにそれ、全部面白そう」
「札幌って北の地方都市だよね? 行った事ないから行ってみたい! キセイって何?」
「き、帰省は故郷に帰る事……ですけど」
「カスミが生まれた所!? 絶対見たい!」
「東京の八月って地獄って言うから、北に行ったら丁度いいんじゃない?」
(墓穴掘った……)
香澄は心の中で、佑が無言で絶対零度のオーラを噴き出している姿を容易に思い浮かべた。
(ごめんなさい……佑さん……。お二人で帰ったら何でも言う事聞きます……)
海より深く反省し、香澄は双子に逆らうのを諦めるのであった。
**
店が開く時間帯には、双子は秘書に連絡をして、ホテルからスーツケースを持ってこさせていた。
その間に香澄は出掛ける支度を済ませていたのだが、いまだに悩んでいる。
佑がいない間双子をもてなすのはいいが、やっぱり気が重たい。
彼が戻るまで、何事も起きずに済むだろうかと思うと胃が痛くなる。
「うん。カスミはやっぱりビタミンカラーも似合うね。夏はハッキリした色の方が元気に見えるよ」
「そうそう。パーソナルカラーとかもあるけど、レッドの中でも色々グラデーションがあるからね。夏は燃えるようなパッションを押し出していかないと」
例によって双子が香澄のワードローブを見たがり、あれやこれやとアイテムを引っ張り出してはしまい、香澄が今日着る物が決まった。
ややピンクがかった赤のワンピースだ。
髪は双子が器用に纏めてくれ、玄関先には服に合わせた靴まで置かれてある。
「本当はもっとミニ丈だったり、体にフィットしたのも着せたいけどね」
「まぁ、今は脚の事もあるし、しゃーないか」
たまに、割と常識的なところを覗かせるので嫌いになれない。
香澄の耳にはパールのイヤリングが揺れ、アロイスがご機嫌にそれを指で弾く。
「カスミって今その状態でどんだけ歩けるの?」
「無理をしなければ、普通に歩けますよ」
本来ならヒールを用意したかったのだろうが、用意されたサンダルは歩きやすさ重視のローヒールの物だった。
玄関で双子は顔を見合わせ、無言で何か相談し合う。
「長距離歩くのはやめとこっか。可哀相だしね」
「百メートル以上かかる所は、車使おう」
「そ、そんなに気を遣わなくていいですってば」
「運転手も連れて来てるし、仕事させないと彼も困るでしょ」
「う、うー」
〝仕事〟と言われると弱く、香澄は口ごもる。
「それにしても、カスミのワードローブは実にタスクの好みが出てるね。フェミニンメインにガーリー。セレカジにリゾート系も揃ってて。あいつの頭の中身が透けて見える」
「えっ? に、似合ってませんか?」
双子も世界的に有名なファッションブランドのデザイナー兼社長なので、思わずギクリとする。
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