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第七部・双子襲来 編

双子旋風

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「カスミ、米おかわりしていい?」
「どうぞ。お茶碗ください」
「や、自分でやる」

 すぐに白米を食べきってしまったクラウスが、空になった茶碗片手にキッチンに向かう。

「カスミ、今日の予定は?」

 アロイスに尋ねられ、香澄は思わず溜め息をつきかけた。

「……観光とかお付き合いすればいいんですよね?」
「さっすが話が分かるね!」

 納豆チャレンジと言っていたが、双子はどちらも納豆が大丈夫なようだ。
 というより、普通にブルーメンブラットヴィルの日本食ストアにあるだろう。

「どこに行きたいんです? 私もそれほど東京に詳しいという訳では……」
「タスクの会社」

 ダイニングに戻ってきたクラウスが、とんでもない事を言う。

「駄目です! 遊びに行く所じゃありません」
「Boo! 香澄のケチ」

 佑が不在の時に会社に行きたいだなんて、許せるはずもない。
 真面目に働いている社員をからかうような事があれば、後で彼らに申し訳が立たない。

「もし見学に行きたいなら、正式に会社にメールをください」
「まぁ、それは半分冗談として」
「……半分本気だったんですか……」

 ポリポリとキュウリを囓り、香澄はうなだれる。

「Es war sehr Lecker!(とっても美味しかったよ!)」
「Danke für das Essen!(ごちそうさまでした!)」

 同じタイミングで双子が朝食を終えた時、香澄は仕上げに柴漬けを囓っていた。

「タスクに香澄の手料理食べたって自慢しよっか」
「バカ、ダメだって。あいつが戻って来たら僕たちがいるっていうサプライズがいいんじゃないか」

 先ほど撮った写真を確認し、双子が悪巧みをする。

「カスミも協力してね。あいつが帰るまでメッセージしないで」
「……クラウスさんがさっきの事を黙ってくれるなら」
「さっきの事って?」

 事情を知らないアロイスがきょとんとする。
 クラウスは一人でニヤニヤし、腕組みをして香澄を見てくる。

「どうしよっかなぁ。取り引きにしちゃ割に合わないよね?」
「なぁ、クラ。カスミと秘密作るなんてズルイ」

 アロイスがつまらなさそうに、向かいに座っているクラウスの足を蹴る。
 クラウスはプルプル震えている香澄を見てにんまり笑ってから、片割れに彼女の痴態を教えてしまう。

「僕がベッドルーム行ったらカスミが全裸で寝ててさ。隣に潜り込んだらタスクと間違えてスリスリして、僕のちん○扱いてきたんだ」

「ずるい!!」

 クラウスの言葉を聞いた瞬間、アロイスが吠えてクラウスの足を本気で蹴った。

「…………」

 悟りを開ききった香澄は、表情を失ったまま食器を片付け出す。

「マジで? 出したの?」
「途中で悲鳴上げて蹴り落とされたから、未遂だよ。めっちゃ欲求不満」

 大きな声を上げたというのに、双子は何事もなかったかのように会話を続け、ついでに食器を下げてくれる。

「――――」

 香澄は手に残るクラウスの感触を思い出し、真っ赤になりながら食洗機の準備を始めた。

「あ、カスミ。皿洗いならやるよ。作ってくれたから俺がやる」
「じゃあ僕もやる」
「……お任せします。私はコーヒーの支度しますから」

(ダメだ……。もうこの時点で疲れてきた……)

 泣きそうになりながら、香澄は「佑さんが帰ってくるまで」とグッと堪えるのだった。





「でさー。観光って言っても浅草とかスカイツリーとか、皇居とかそういうメジャーな所はもう行ってるんだよね」
「はぁ……」

 コーヒーを飲みつつ、双子が持ってきたイタリアのビスコッティをコリコリと囓る。
 やはり本場の物は美味しい。

「僕ら、今回はマニアックなところ攻めたくて」
「……と言いますと?」

「前に言ってたじゃん。自動販売機とかコンビニオニギリとか、あと行列に並んでみたい。東京っていま何の食べ物流行ってるの?」

「……溶岩パスタ?」

 流行に疎い香澄は、小首を傾げながら情報バラエティ番組に出ていた食べ物を言う。
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