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第七部・双子襲来 編
おうちで朝ご飯
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「カスミー! 久しぶり!」
身支度を整えて階下に向かうと、アロイスが抱きついてきた。
身支度と言っても着替えて顔を洗っただけで、すっぴんだ。
まだ燃え尽きた状態でされるがままになっていると、アロイスの向こうで久住と佐野が申し訳なさそうな顔で立っていた。
(あぁ、あの人たちも犠牲者なんだ……)
そう思うと不憫でならない。
双子ルールの前では、きっちりした人であればあるほど、犠牲者になってしまう。
今日も予定通り斎藤が来る事になっているが、朝食から準備をする日は決まっていて、彼女がこない時は自分たちでするか、残り物を食べる事になっている。
丁度、その日は朝から斎藤が来ない日だった。
「久住さん、佐野さん、大丈夫です。お二人はお客様として私がもてなします。外出する事があれば連絡しますので、今は離れに戻ってください」
ある程度双子の扱いに慣れているという自負はある。
護衛が一緒にいれば、彼らの自由な振る舞いを見て「止めるべきか」と余計に気を回してしまうだろう。
「大丈夫ですか?」
久住が尋ねてくる。
「ええ。悪戯が度を超す時もありますが、最後の一線は越えない人たちだと思っています。何かあったら訴えたとしても、お金に困る人たちではありませんので」
香澄がサラリと答えると、双子がケラケラ笑って「カスミひどい!」と大ウケしている。
やがて護衛が離れに戻ると、香澄はキッチンに向かった。
「じゃあ、テレビでも見て待っててください。簡単な物しか作りませんよ?」
「OK! 楽しみにしてる」
「裸エプロンしてくれるんだよね?」
「しません!」
双子がどれぐらい食べるか分からないが、とりあえず炊飯器の中には朝に佑がセットしてくれたのか、水に浸けられている米が二合あった。
なので高速炊きにセットして、炊飯器のスイッチをポンと入れる。
それから味噌汁用の鍋に昆布を放り込み、出汁が出る間に具を用意する。
「えぇと、お味噌汁の具は……と。何にしようかな」
双子は好き嫌いが激しそうなイメージがあり、ひとまず聞いてみる事にした。
「アロイスさん、クラウスさん。野菜の好き嫌いありますか?」
「ないよー! 野菜は全部大好き!」
「カスミ、僕ナットウチャレンジしたい!」
長い脚を投げ出してすっかりくつろいでいる双子が、それぞれ返事をする。
「分かりました。……うーん、もやしでいっか」
呟いてもやしを洗い、ひげをチマチマと取っていると、アロイスとクラウスがキッチンにやってきた。
「なんか手伝う?」
「あー、もやしね。ひげ取ってんの? マメだね」
朝食を作ってほしいと言っておきながら、何だかんだ手伝ってくれるのは双子のいいところかもしれない。
「じゃあ、ひげ取り任せていいですか? その間に玉子焼き作ります」
そう言った香澄は、コンロのグリルの中に塩鮭のカマを三つ入れ、点火する。
ボウルに玉子を三つ割り入れ、水溶き片栗粉、酒、みりん、減塩昆布醤油、砂糖を入れてチャカチャカ掻き混ぜる。
「カスミできたよ」
「ありがとうございます。この引き出しにお客様用のお箸があるので、好きな色を選んでください」
てきぱきとこなしつつ指示を出すと、示した引き出しを双子が開けて客用の箸を見る。
「俺、赤がいい」
「僕はこっちのイエローかな。あ、でもこのグリーンもいい色だな」
双子の会話を聞きつつ、沸騰する直前に味噌汁の鍋から昆布を出し、火を小さくしてからだしの素を入れ、もやしをザッと放り込む。
切っておいた小揚げを湯通しし、それも放り込んだ。
「あと、箸置きも季節の物がありますから、好きな物をどうぞ」
「スイカのミニチュアだ!」
「こっちはこれ……キュウリか?」
また双子がキャッキャとしだし、その間に香澄は玉子焼きを焼いてしまう。
ご飯が炊ける頃合いを見計らってグリルのボタンを押したので、上手い具合に炊きたてのご飯と焼きたての魚ができあがった。
ついでだったので、キュウリを一本薄切りにして塩もみし、しらすと一緒に和えた。
「すっげぇー。ちょ、ジャフォる」
「僕も!」
ランチョンマットの上に並んだ和食に双子は目を輝かせ、それぞれスマホを構えた。
「オーマも日本食作るけどさ、やっぱり本場の方が食材も揃ってるよね」
「そうそう。で、カスミが作ってくれたっていうのがいい」
「そういうのはいいですから。いただきます。冷めないうちにどうぞ。あと、納豆はダメだったら残していいですからね。Guten Appetit!(美味しく召し上がれ)」
胸の前で手を合わせ「いただきます」を言うと、双子も真似をする。
「Lecker!(美味しい)」
器用な手つきで箸を使う双子は、パクパクと朝食をたいらげてゆく。
身支度を整えて階下に向かうと、アロイスが抱きついてきた。
身支度と言っても着替えて顔を洗っただけで、すっぴんだ。
まだ燃え尽きた状態でされるがままになっていると、アロイスの向こうで久住と佐野が申し訳なさそうな顔で立っていた。
(あぁ、あの人たちも犠牲者なんだ……)
そう思うと不憫でならない。
双子ルールの前では、きっちりした人であればあるほど、犠牲者になってしまう。
今日も予定通り斎藤が来る事になっているが、朝食から準備をする日は決まっていて、彼女がこない時は自分たちでするか、残り物を食べる事になっている。
丁度、その日は朝から斎藤が来ない日だった。
「久住さん、佐野さん、大丈夫です。お二人はお客様として私がもてなします。外出する事があれば連絡しますので、今は離れに戻ってください」
ある程度双子の扱いに慣れているという自負はある。
護衛が一緒にいれば、彼らの自由な振る舞いを見て「止めるべきか」と余計に気を回してしまうだろう。
「大丈夫ですか?」
久住が尋ねてくる。
「ええ。悪戯が度を超す時もありますが、最後の一線は越えない人たちだと思っています。何かあったら訴えたとしても、お金に困る人たちではありませんので」
香澄がサラリと答えると、双子がケラケラ笑って「カスミひどい!」と大ウケしている。
やがて護衛が離れに戻ると、香澄はキッチンに向かった。
「じゃあ、テレビでも見て待っててください。簡単な物しか作りませんよ?」
「OK! 楽しみにしてる」
「裸エプロンしてくれるんだよね?」
「しません!」
双子がどれぐらい食べるか分からないが、とりあえず炊飯器の中には朝に佑がセットしてくれたのか、水に浸けられている米が二合あった。
なので高速炊きにセットして、炊飯器のスイッチをポンと入れる。
それから味噌汁用の鍋に昆布を放り込み、出汁が出る間に具を用意する。
「えぇと、お味噌汁の具は……と。何にしようかな」
双子は好き嫌いが激しそうなイメージがあり、ひとまず聞いてみる事にした。
「アロイスさん、クラウスさん。野菜の好き嫌いありますか?」
「ないよー! 野菜は全部大好き!」
「カスミ、僕ナットウチャレンジしたい!」
長い脚を投げ出してすっかりくつろいでいる双子が、それぞれ返事をする。
「分かりました。……うーん、もやしでいっか」
呟いてもやしを洗い、ひげをチマチマと取っていると、アロイスとクラウスがキッチンにやってきた。
「なんか手伝う?」
「あー、もやしね。ひげ取ってんの? マメだね」
朝食を作ってほしいと言っておきながら、何だかんだ手伝ってくれるのは双子のいいところかもしれない。
「じゃあ、ひげ取り任せていいですか? その間に玉子焼き作ります」
そう言った香澄は、コンロのグリルの中に塩鮭のカマを三つ入れ、点火する。
ボウルに玉子を三つ割り入れ、水溶き片栗粉、酒、みりん、減塩昆布醤油、砂糖を入れてチャカチャカ掻き混ぜる。
「カスミできたよ」
「ありがとうございます。この引き出しにお客様用のお箸があるので、好きな色を選んでください」
てきぱきとこなしつつ指示を出すと、示した引き出しを双子が開けて客用の箸を見る。
「俺、赤がいい」
「僕はこっちのイエローかな。あ、でもこのグリーンもいい色だな」
双子の会話を聞きつつ、沸騰する直前に味噌汁の鍋から昆布を出し、火を小さくしてからだしの素を入れ、もやしをザッと放り込む。
切っておいた小揚げを湯通しし、それも放り込んだ。
「あと、箸置きも季節の物がありますから、好きな物をどうぞ」
「スイカのミニチュアだ!」
「こっちはこれ……キュウリか?」
また双子がキャッキャとしだし、その間に香澄は玉子焼きを焼いてしまう。
ご飯が炊ける頃合いを見計らってグリルのボタンを押したので、上手い具合に炊きたてのご飯と焼きたての魚ができあがった。
ついでだったので、キュウリを一本薄切りにして塩もみし、しらすと一緒に和えた。
「すっげぇー。ちょ、ジャフォる」
「僕も!」
ランチョンマットの上に並んだ和食に双子は目を輝かせ、それぞれスマホを構えた。
「オーマも日本食作るけどさ、やっぱり本場の方が食材も揃ってるよね」
「そうそう。で、カスミが作ってくれたっていうのがいい」
「そういうのはいいですから。いただきます。冷めないうちにどうぞ。あと、納豆はダメだったら残していいですからね。Guten Appetit!(美味しく召し上がれ)」
胸の前で手を合わせ「いただきます」を言うと、双子も真似をする。
「Lecker!(美味しい)」
器用な手つきで箸を使う双子は、パクパクと朝食をたいらげてゆく。
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