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第六部・社内旅行 編

ぎゅってして ☆

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 彼女は争いを望まない。
 報復なんてもっと望まない。

 だから飯山たちへの処遇を佑が独断で決めたのは、ある意味正解だと思っている。
 その上で、「香澄に何をしたら彼女の心をケアできるのだろう?」と考える。

「今、何してほしい?」

 こうして尋ねても、香澄が我が儘を言って甘えてくれた事などない。
 彼女はいつも、我が儘と言えないレベルのほんの些細な事しか望まない。

 欲しいものがあれば何でも買うし、行きたい場所があればどこにでもつれて行くのに。

「ぎゅってして。佑さんが側にいてくれるって思えたら、それでいい」
「――あぁ、もう」

 ――だから、香澄なんだ。

 無欲な彼女に溢れるほどの愛しさを感じながら、佑はTシャツを脱ぎ、彼女を抱き締めた。





 あれほどささくれ立っていた心が、佑の顔を見ただけで穏やかになってゆく。
 悔しいという気持ちも、脚の痛みへのストレスも、「自分は佑に愛されている」と思うだけで解消されていく。

 目の前で美しい雄が、自分を見て欲情してくれている。

 ――嬉しい。

 素直にそう思うと同時に、飯山たちに対する優越感が芽生える。

(こうやって佑さんに求められるのは、私だけなんだから)

 せめてもの仕返しに、と心の中で勝ち誇ってみる。
 が、すぐに落ち込む。

(……私、なんて嫌な人間なんだろう)

 そんな自分の気持ちに泣きそうになり、香澄は半裸の佑を抱き締めた。

「ねぇ、好き。……好きだよ」

 心からの愛を囁きながら、香澄は「こんな私でごめんね」と心の中で涙を流していた。

 佑に相応しい女性になりたいのに、二十七歳にもなって社内いじめに遭っただなんて絶対に言えない。
 あまりに情けなくて、自分でも「それで社長秘書なの?」と思ってしまう。

 あんな風に馬鹿にされたのは、自分に弱さがあり隙があるからだ。
 佑に釣り合っていないと思われたから、攻撃された。

 それだけのシンプルな理由だ。

 ならばもっともっと努力して、誰にも文句を言わせない完璧な秘書、兼婚約者にならなければ。
 誰もが憧れる二人と思われるような、そんな理想の姿になってみせる。

 だから今は――。

 努力する前の今は、ほんの少しだけ慰めてほしい。
 甘えさせてほしい。

 そう思い、香澄は自分から佑の両頬を包みそっとキスをした。

 佑は唇の傷を気にしてくれたのか、きつく唇を吸い返さない。
 唇を柔らかく押しつけては、舌先で唇の内側や前歯の裏側を探ってくる。

「ふ……、ぅ……ん、……ン」

 佑のキスはいけない薬のようだ。
 彼のキスに囚われると、すぐに何も考えられなくなって、気持ちがフワフワする。

 気がつけば香澄は腿で佑の胴を挟み、彼の首をしっかりと掻き抱いて深いキスに耽溺していた。

 ――気持ちいい。
 ――もっと。

 優しい舌の感触にうっとりとしていると、佑が濡れた吐息をついて唇を離し、頬、耳、顎と移動させてゆく。

 熱い唇を押しつけられたかと思うと、その合間に切ない息づかいが聞こえる。
 微かに喉を鳴らして唾を嚥下する音までする。

 ――あぁ、佑さんが私に興奮してくれている。

 胸の奥で、とろりとした優越感が香澄を満たしていく。

「香澄……」

 佑が熱っぽく囁いて、香澄の胸に吸い付いてきた。
 大きな手でやんわりと乳房を捏ねまわし、親指の腹で乳首を転がす。
 反対側はちゅうちゅうと吸われたかと思うと、彼の舌がひらめいて乳首を弾かれた。

「ン……ぁ、あ……」

 佑に愛撫されただけで、すぐお腹の奥がじんわりと疼く。
 蜜が零れるのを自覚し、香澄は微かに腰を揺らした。

(ピル……飲んでるから、今日は大丈夫かな)

 先日婦人科に行ったあと、タイミングよく生理がきた。

 そのあと、生理一日目から飲み始めるDAY1スタートタイプの、二十八日服用タイプのピルを飲み始めた。
 飲み始めて一週間ほどで避妊効果が出てくるというので、二週間経った今回の旅行はすでに避妊効果があるのではと思っている。
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