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第六部・社内旅行 編
手間暇かけた恋人
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これさえ言ってしまえば、佑は色々忘れてくれるのでは? と単純な考えからだ。
しかし単純ながら、強力な武器でもあると思っている。
ジッ……と佑のヘーゼルの瞳を見つめ緊張していると、「ふ」と佑が相好を崩した。
そのまま香澄に覆い被さった彼は、大きな背中をヒクヒク震わせる。
「……た……すくさん?」
トントンと背中を叩くと、耳元で「あー……、っかし……」と笑い交じりの声が聞こえた。
「……香澄は仕方がないな? 俺がちょっとでも怒ってると思うと、そうやって誤魔化すんだから本当に悪い女だ」
ちょいちょいと顎の下を猫のようにくすぐられ、香澄は思わず顔を仰のける。
「俺がその手に乗ると思ってるのか?」
指で顎や鼻先をツンツンとつつかれたかと思うと、上唇をくにゅ、と押し上げられる。
「だ、駄目だった……?」
「いや、実に効果的なやり方だった。さすがだな……」
真顔になった佑の手が浴衣の帯に掛かり、香澄はスルスルと脱がされてゆく。
さすがと言われ、胸の奥がちくんと痛んだ。
飯山たちに秘書業の傍ら、陰でいやらしい事をしていると言われたのが堪えているのだ。
それを見透かしたように、佑が付け加える。
「香澄は臨機応変にできる、頭のいい女性という意味だよ」
「そうかな」
微笑む表情は、弱々しい。
「言っておくけど、ただ可愛くていやらしいだけの女性なら、俺はここまで惚れていないからな?」
「ん……」
佑にそう言ってもらえると、少し自信が湧いた。
「悔しいが、双子だって香澄がうわっつらの魅力の女性なら、あそこまで興味を持たないだろう。俺が惚れるに相応しい女性だと認めたから、あそこまでしつこくするんだと思うよ」
「あはは、お二人は……」
双子が話題に出て、香澄は思わず笑う。
「俺が手助けしている面もあるけど、香澄は自分磨きをとても頑張ってるだろう? スキンケアやヘアケアとか、美容的な物だけでなく、マナーレッスンや語学の勉強も頑張ってる。君が同席した時、あとから商談相手から『感じのいい秘書さんですね』って褒められる事が多くなった。若い女性であるという事もあるんだろうけれど、品の良さや清潔感、仕事ができそうな雰囲気があるからこそ、一流の経営者が褒めるんだと思っている」
「ん……、うん。ありがとう」
褒められて香澄は頬をじんわりと染める。
確かに、努力せずに佑にぶら下がっているとは言いたくない。
本当ならお風呂に入ってサッとあがりたいところ、きちんとボディスクラブで肌をツルツにし、化粧水とボディクリームで保湿をしている。
フェイスケアだって週に二度スクラブ洗顔をし、毎回の洗顔のあとには角質ケアのジェルを使い、そのあとは導入美容液からクリームまでフルコースできちんとケアしている。
シャンプーをしている時は頭皮のマッサージのブラシを使っているし、体は全身脱毛を行い、時間のある時はきちんとマッサージや、かっさを使ってほぐしている。
寝る前はネイルクリームをつけるのを忘れないし、リップケアと日焼け止めに至っては几帳面すぎるほど気をつけている。
それで、今の香澄の外見が完成している。
それだけでなく、マナーレッスンに向かってヒールを履いた上での立ち姿、歩き方、立ち居振る舞いや話し方、テーブルマナーも勉強を欠かしていない。
秘書検定、バイリンガルセレクタリーの資格を得るためにも勉強をしている。
メイクもきちんと勉強し、オフィス用のメイクからデートメイク、カジュアル、パーティー用など履修済みだ。
愛用しているネクタリンの香水は、近づいて初めて分かる程度に品良く香らせる。
御劔邸にあるジムだってフル活用し、今は脚を怪我しているからできていないが、早朝はなるべく佑と一緒にジョギングしている。
「香澄ぐらい、中身もきちんと伴った上で、外見が魅力的な女性はいないよ。……おまけにこれは俺の男目線だけど、胸は大きいのに柔らかくて張りがあるし、お尻はぷりんぷりんだし」
「……もう、最後のはいい」
照れくさくなってペシンと彼の胸板を叩くと、佑は愛しそうに笑う。
「金がどうこうっていう訳じゃないけど、俺がここまで金と時間をかけて育成した女性は香澄以外にいないよ」
「……確かに、育成かも」
思わず微笑んだ香澄は、納得した。
ただ買い与え、食事をご馳走するぐらいなら、どんな相手にだってできるだろう。
けれど香澄には、佑と一緒に過ごして色んな事を教えてもらい、身につけさせてもらったという自負がある。
それだけ手間暇かけた存在は、確かに〝お飾り〟ではないだろう。
しかし単純ながら、強力な武器でもあると思っている。
ジッ……と佑のヘーゼルの瞳を見つめ緊張していると、「ふ」と佑が相好を崩した。
そのまま香澄に覆い被さった彼は、大きな背中をヒクヒク震わせる。
「……た……すくさん?」
トントンと背中を叩くと、耳元で「あー……、っかし……」と笑い交じりの声が聞こえた。
「……香澄は仕方がないな? 俺がちょっとでも怒ってると思うと、そうやって誤魔化すんだから本当に悪い女だ」
ちょいちょいと顎の下を猫のようにくすぐられ、香澄は思わず顔を仰のける。
「俺がその手に乗ると思ってるのか?」
指で顎や鼻先をツンツンとつつかれたかと思うと、上唇をくにゅ、と押し上げられる。
「だ、駄目だった……?」
「いや、実に効果的なやり方だった。さすがだな……」
真顔になった佑の手が浴衣の帯に掛かり、香澄はスルスルと脱がされてゆく。
さすがと言われ、胸の奥がちくんと痛んだ。
飯山たちに秘書業の傍ら、陰でいやらしい事をしていると言われたのが堪えているのだ。
それを見透かしたように、佑が付け加える。
「香澄は臨機応変にできる、頭のいい女性という意味だよ」
「そうかな」
微笑む表情は、弱々しい。
「言っておくけど、ただ可愛くていやらしいだけの女性なら、俺はここまで惚れていないからな?」
「ん……」
佑にそう言ってもらえると、少し自信が湧いた。
「悔しいが、双子だって香澄がうわっつらの魅力の女性なら、あそこまで興味を持たないだろう。俺が惚れるに相応しい女性だと認めたから、あそこまでしつこくするんだと思うよ」
「あはは、お二人は……」
双子が話題に出て、香澄は思わず笑う。
「俺が手助けしている面もあるけど、香澄は自分磨きをとても頑張ってるだろう? スキンケアやヘアケアとか、美容的な物だけでなく、マナーレッスンや語学の勉強も頑張ってる。君が同席した時、あとから商談相手から『感じのいい秘書さんですね』って褒められる事が多くなった。若い女性であるという事もあるんだろうけれど、品の良さや清潔感、仕事ができそうな雰囲気があるからこそ、一流の経営者が褒めるんだと思っている」
「ん……、うん。ありがとう」
褒められて香澄は頬をじんわりと染める。
確かに、努力せずに佑にぶら下がっているとは言いたくない。
本当ならお風呂に入ってサッとあがりたいところ、きちんとボディスクラブで肌をツルツにし、化粧水とボディクリームで保湿をしている。
フェイスケアだって週に二度スクラブ洗顔をし、毎回の洗顔のあとには角質ケアのジェルを使い、そのあとは導入美容液からクリームまでフルコースできちんとケアしている。
シャンプーをしている時は頭皮のマッサージのブラシを使っているし、体は全身脱毛を行い、時間のある時はきちんとマッサージや、かっさを使ってほぐしている。
寝る前はネイルクリームをつけるのを忘れないし、リップケアと日焼け止めに至っては几帳面すぎるほど気をつけている。
それで、今の香澄の外見が完成している。
それだけでなく、マナーレッスンに向かってヒールを履いた上での立ち姿、歩き方、立ち居振る舞いや話し方、テーブルマナーも勉強を欠かしていない。
秘書検定、バイリンガルセレクタリーの資格を得るためにも勉強をしている。
メイクもきちんと勉強し、オフィス用のメイクからデートメイク、カジュアル、パーティー用など履修済みだ。
愛用しているネクタリンの香水は、近づいて初めて分かる程度に品良く香らせる。
御劔邸にあるジムだってフル活用し、今は脚を怪我しているからできていないが、早朝はなるべく佑と一緒にジョギングしている。
「香澄ぐらい、中身もきちんと伴った上で、外見が魅力的な女性はいないよ。……おまけにこれは俺の男目線だけど、胸は大きいのに柔らかくて張りがあるし、お尻はぷりんぷりんだし」
「……もう、最後のはいい」
照れくさくなってペシンと彼の胸板を叩くと、佑は愛しそうに笑う。
「金がどうこうっていう訳じゃないけど、俺がここまで金と時間をかけて育成した女性は香澄以外にいないよ」
「……確かに、育成かも」
思わず微笑んだ香澄は、納得した。
ただ買い与え、食事をご馳走するぐらいなら、どんな相手にだってできるだろう。
けれど香澄には、佑と一緒に過ごして色んな事を教えてもらい、身につけさせてもらったという自負がある。
それだけ手間暇かけた存在は、確かに〝お飾り〟ではないだろう。
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