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第六部・社内旅行 編
苦し紛れのどや顔
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前髪を掻き上げて額に口づけた時、香澄が「ん……」とうめいて睫毛を震わせた。
それでも構わず香澄の手を取って口づけていると、きゅう、と手が握り返される。
「……たすくさん、だぁ」
ぽやんと寝ぼけた声がし、目の前で愛しい婚約者が力の抜けた笑みを浮かべた。
「――あぁ、もう。無理。可愛い」
ガバッと抱きつくと、佑はスハーッスハーッと香澄の香りを嗅ぎまくった。
我ながら変態である。
ジョン・アルクールのネクタリンの香りがし、鼻腔いっぱいにほんのり甘い桃が香る。
その唇の甘さは……、と唇を重ねると、香澄が「むぅ」とうめいた。
「ん……、んむ、……ぅ、……うぅ」
キスをしたまま浴衣姿の香澄を抱き上げ、そのままベッドへ運ぶ。
優しく横たえた上に馬乗りになると、両手でグッと胸板を押し返された。
「いた……ぃ」
「え?」
痛いと言われ、佑はギクッとして彼女の脚を見る。
だがギプスに包まれた脚はベッドの上に投げ出されたままで、特に負担が掛かっているようには思えない。
けれど今運んだ弾みで痛みを伴ったのかもしれないと思い、佑は青くなって謝罪した。
「すまない! 安静にしておこう」
そう言って彼女の上からどこうとしたが、今度は服を両手でキュッと掴まれて留められた。
「そう、じゃないの。脚じゃない」
逆に彼女は驚いた表情になっていて、キョトンとしつつもクビを横に振る。
「脚……じゃない?」
佑も訳が分からず、目を瞬かせる。
(すると……)
考えを巡らせ、佑は別の意味で冷や汗を掻いた。
(まさか、俺のキスが下手だった? 歯が当たったとか……)
そう考えていると、香澄が指で自分の下唇を気にし、皮を剥くような仕草を見せた。
「……ちょ、……っと待って」
思わず佑は香澄の手を取り、しげしげと彼女のぷっくりとした唇を凝視する。
今はキスをしたくて半ば我を失っていたが、確かにそこには血が固まったような跡があった。
「これ……どうしたんだ?」
頭の中に飯山の顔がよぎった。
彼女が香澄に何か危害――平手などをして唇を切ったのだろうかと思うと、体中の血が沸騰したような怒りを覚えた。
しかし香澄は、もぞもぞと下手な言い訳をする。
「や……あの。だ、段差があって転んだの。その時に唇噛んじゃって……」
「転んだ?」
言われて、佑の頭には松葉杖を蹴られて転倒した香澄の姿が蘇る。
その時に噛んで切ったのなら、立派に傷害罪だ。
佑が凍り付いたような目をしていたからか、香澄が焦った声を出す。
「そんな怖い顔しないで? 本当に自分で転んで作った傷だから。ホラ、前歯の跡あるし」
チロリと舌先を覗かせ、香澄は唇の傷を確かめる。
だがその時にピリッと痛んだのか、僅かに顔を歪めた。
「本当に自分で噛んだ? 香澄が誰かのせいで血を流したなら、俺は目撃者全員に確認しなければいけない」
「そ……っ」
香澄は目をまん丸にして仰天した。
「ほ、本当だよ! 久住さんも知ってるから久住さんに確認して? 私が自分で転んだって知ってるから!」
言い終わったあと、香澄は微妙にどや顔をする。
その顔を見て笑いそうになった佑は、半分ぐらいは呆れながら怒っている。
(あくまでもシラを切ろうっていうんだな?)
「ふぅん……。じゃあ、久住に何があったのか詳細を聞くか」
「!」
ギクッと体を強張らせた香澄は、キョロキョロと目を泳がせる。
(ど、どうしよう……! 佑さんが久住さんたちに圧を掛けて聞いたら、何もかもバレちゃう……!)
今さらながらな事に思い当たり、香澄は必死に考えを巡らせる。
(えっと……えっと……)
必死になって考えたあと、香澄は、自分でもよく分からない事を口走っていた。
「佑さん、セックスしたい!」
「…………」
佑が微かに瞠目した姿を見て、香澄は内心「どうだ!」と思ってまたどや顔をする。
それでも構わず香澄の手を取って口づけていると、きゅう、と手が握り返される。
「……たすくさん、だぁ」
ぽやんと寝ぼけた声がし、目の前で愛しい婚約者が力の抜けた笑みを浮かべた。
「――あぁ、もう。無理。可愛い」
ガバッと抱きつくと、佑はスハーッスハーッと香澄の香りを嗅ぎまくった。
我ながら変態である。
ジョン・アルクールのネクタリンの香りがし、鼻腔いっぱいにほんのり甘い桃が香る。
その唇の甘さは……、と唇を重ねると、香澄が「むぅ」とうめいた。
「ん……、んむ、……ぅ、……うぅ」
キスをしたまま浴衣姿の香澄を抱き上げ、そのままベッドへ運ぶ。
優しく横たえた上に馬乗りになると、両手でグッと胸板を押し返された。
「いた……ぃ」
「え?」
痛いと言われ、佑はギクッとして彼女の脚を見る。
だがギプスに包まれた脚はベッドの上に投げ出されたままで、特に負担が掛かっているようには思えない。
けれど今運んだ弾みで痛みを伴ったのかもしれないと思い、佑は青くなって謝罪した。
「すまない! 安静にしておこう」
そう言って彼女の上からどこうとしたが、今度は服を両手でキュッと掴まれて留められた。
「そう、じゃないの。脚じゃない」
逆に彼女は驚いた表情になっていて、キョトンとしつつもクビを横に振る。
「脚……じゃない?」
佑も訳が分からず、目を瞬かせる。
(すると……)
考えを巡らせ、佑は別の意味で冷や汗を掻いた。
(まさか、俺のキスが下手だった? 歯が当たったとか……)
そう考えていると、香澄が指で自分の下唇を気にし、皮を剥くような仕草を見せた。
「……ちょ、……っと待って」
思わず佑は香澄の手を取り、しげしげと彼女のぷっくりとした唇を凝視する。
今はキスをしたくて半ば我を失っていたが、確かにそこには血が固まったような跡があった。
「これ……どうしたんだ?」
頭の中に飯山の顔がよぎった。
彼女が香澄に何か危害――平手などをして唇を切ったのだろうかと思うと、体中の血が沸騰したような怒りを覚えた。
しかし香澄は、もぞもぞと下手な言い訳をする。
「や……あの。だ、段差があって転んだの。その時に唇噛んじゃって……」
「転んだ?」
言われて、佑の頭には松葉杖を蹴られて転倒した香澄の姿が蘇る。
その時に噛んで切ったのなら、立派に傷害罪だ。
佑が凍り付いたような目をしていたからか、香澄が焦った声を出す。
「そんな怖い顔しないで? 本当に自分で転んで作った傷だから。ホラ、前歯の跡あるし」
チロリと舌先を覗かせ、香澄は唇の傷を確かめる。
だがその時にピリッと痛んだのか、僅かに顔を歪めた。
「本当に自分で噛んだ? 香澄が誰かのせいで血を流したなら、俺は目撃者全員に確認しなければいけない」
「そ……っ」
香澄は目をまん丸にして仰天した。
「ほ、本当だよ! 久住さんも知ってるから久住さんに確認して? 私が自分で転んだって知ってるから!」
言い終わったあと、香澄は微妙にどや顔をする。
その顔を見て笑いそうになった佑は、半分ぐらいは呆れながら怒っている。
(あくまでもシラを切ろうっていうんだな?)
「ふぅん……。じゃあ、久住に何があったのか詳細を聞くか」
「!」
ギクッと体を強張らせた香澄は、キョロキョロと目を泳がせる。
(ど、どうしよう……! 佑さんが久住さんたちに圧を掛けて聞いたら、何もかもバレちゃう……!)
今さらながらな事に思い当たり、香澄は必死に考えを巡らせる。
(えっと……えっと……)
必死になって考えたあと、香澄は、自分でもよく分からない事を口走っていた。
「佑さん、セックスしたい!」
「…………」
佑が微かに瞠目した姿を見て、香澄は内心「どうだ!」と思ってまたどや顔をする。
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