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第六部・社内旅行 編
沙汰
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佑はさらに言葉を続ける。
「根性が意地汚い、ガツガツしていて泥臭い、やる事が陰険、表の顔と裏の顔の差がありすぎて、信頼できない」
「……っ、ひどい!」
飯山はショックを受けた顔をし、涙を浮かべる。
しかし佑は女性の涙を見てもまったく動揺しなかった。
「『ひどい』? なら、君が香澄にした事は〝ひどく〟ないのか? 骨折している人の松葉杖を蹴って、わざと転倒させる事がひどくない? 婚約者以外の者とはまったく関わっていない清らかな身の彼女が、他の男と関係していると根も葉もない侮辱を公衆の面前でする事は、〝ひどく〟ないのか?」
飯山は表情を強ばらせ、固まる。
「だって……」
「『だって』? 気に入らなかったから? 嫌いだから? 何もしていないのに? 自分の望む立ち位置にいて、排除したいと思うなら何をしてもいいと思った? 彼女がいなくなったら、俺が君に振り向く可能性が高くなると思ってた?」
揶揄するように言われ、飯山はワナワナと唇をわななかせる。
「~~~~っ、社長って、そんなに性格の悪い人だと思っていませんでした!」
彼女の言葉に、佑は目を細め嘲笑した。
「社長と社員として以外接していなくて、俺のプライベートを何も知らないのに、何を知ったかぶりしていたんだ? 俺が何を大切にしているか分からないくせに、勝手に理想を抱いて勝手に幻滅するな。迷惑だ」
とうとう飯山は、ポロポロと涙を零して両手が顔を覆い、嗚咽しだした。
「泣いて同情を買えると思うな。お前のした事は最低な人間がする事だ。そして大切な秘書に暴行を加えられ、俺が黙っているとも思うな」
今後の自分の仕事に関わるとようやく気づき、飯山はハッと顔を上げる。
「お願いします! どうかクビにしないでください! 私はChief Every Feminineのデザイナーで……!」
「君じゃないといけない理由はない。デザイナーはチームで、一人抜けても人員が補充される」
「そんな……」
絶望した顔の飯山に、佑は淡々と告げる。
「本当なら懲戒解雇と言いたい。だが最大限の温情を見せて、解雇予告としよう。君と益田さん、明野さんには、八月末で退社してもらう」
佑は動画に映っていた、飯山と一緒に香澄を貶めていた社員の名を口にする。
「お願いします! 社長! 私……っ」
飯山は佑に縋り付くが、彼は軽く腕を払って彼女をかわす。
「本来なら、婚約者を故意に転ばせ、大勢の前で罵ったという精神的苦痛を含めて訴えてもいい。うちの顧問弁護士の優秀さは知っているな?」
「…………っ、あぁあああ……っ」
とうとう、飯山は絶望し、声を上げて泣きだした。
マスカラが落ちようが構わず涙を流す彼女を、佑は無感動に見る。
「円満に解決できて嬉しいよ、飯山さん。このまま一生、俺と香澄の前に姿を現さないでくれ」
そのあと佑は、飯山を一度も振り返らずその場を立ち去った。
**
たっぷりと温泉に浸かって豪華なお膳を平らげたあと、香澄はぼんやりとテレビを見ていた。
スマホを弄るにも飽きてしまって、今はソファの上でごろりと横になっていた。
気がつけばウトウトとしていて、佑が部屋に入ってきたのも気付いていなかった。
佑は寝ている香澄の前に膝をつき、可愛らしい寝顔に知らずと微笑む。
飯山たちへの沙汰は、特に言わないつもりだ。
香澄が知ったら自分を責めるだろう。
時期的に彼女が復帰したあとに飯山たちが退社する事になるが、あれだけ脅せば退社まで残りの有給を使うだろう。
今でも拳が震えてしまうぐらいの怒りを抱いているが、香澄の前で怒っている姿など見せたくない。
久住からも「赤松さんに、決して言わないようにと念を押されました」と言われている。
恐らく、いじめられた自分を情けないと思い、必死に隠そうとしているのだろう。
だから香澄の気持ちを汲み、この旅行の間ぐらいは飯山たちの件に触れないでおこうと思った。
いずれ香澄も会社から飯山たちの姿がなくなった事に気付くだろう。
それはその時に説明すればいい。
何事にもタイミングがあるし、今は香澄の気持ちを尊重したい。
「一人でよく頑張ったな」
艶やかな黒髪を手で梳くと、相変わらず頑固なまでの直毛が気持ちいい。
「根性が意地汚い、ガツガツしていて泥臭い、やる事が陰険、表の顔と裏の顔の差がありすぎて、信頼できない」
「……っ、ひどい!」
飯山はショックを受けた顔をし、涙を浮かべる。
しかし佑は女性の涙を見てもまったく動揺しなかった。
「『ひどい』? なら、君が香澄にした事は〝ひどく〟ないのか? 骨折している人の松葉杖を蹴って、わざと転倒させる事がひどくない? 婚約者以外の者とはまったく関わっていない清らかな身の彼女が、他の男と関係していると根も葉もない侮辱を公衆の面前でする事は、〝ひどく〟ないのか?」
飯山は表情を強ばらせ、固まる。
「だって……」
「『だって』? 気に入らなかったから? 嫌いだから? 何もしていないのに? 自分の望む立ち位置にいて、排除したいと思うなら何をしてもいいと思った? 彼女がいなくなったら、俺が君に振り向く可能性が高くなると思ってた?」
揶揄するように言われ、飯山はワナワナと唇をわななかせる。
「~~~~っ、社長って、そんなに性格の悪い人だと思っていませんでした!」
彼女の言葉に、佑は目を細め嘲笑した。
「社長と社員として以外接していなくて、俺のプライベートを何も知らないのに、何を知ったかぶりしていたんだ? 俺が何を大切にしているか分からないくせに、勝手に理想を抱いて勝手に幻滅するな。迷惑だ」
とうとう飯山は、ポロポロと涙を零して両手が顔を覆い、嗚咽しだした。
「泣いて同情を買えると思うな。お前のした事は最低な人間がする事だ。そして大切な秘書に暴行を加えられ、俺が黙っているとも思うな」
今後の自分の仕事に関わるとようやく気づき、飯山はハッと顔を上げる。
「お願いします! どうかクビにしないでください! 私はChief Every Feminineのデザイナーで……!」
「君じゃないといけない理由はない。デザイナーはチームで、一人抜けても人員が補充される」
「そんな……」
絶望した顔の飯山に、佑は淡々と告げる。
「本当なら懲戒解雇と言いたい。だが最大限の温情を見せて、解雇予告としよう。君と益田さん、明野さんには、八月末で退社してもらう」
佑は動画に映っていた、飯山と一緒に香澄を貶めていた社員の名を口にする。
「お願いします! 社長! 私……っ」
飯山は佑に縋り付くが、彼は軽く腕を払って彼女をかわす。
「本来なら、婚約者を故意に転ばせ、大勢の前で罵ったという精神的苦痛を含めて訴えてもいい。うちの顧問弁護士の優秀さは知っているな?」
「…………っ、あぁあああ……っ」
とうとう、飯山は絶望し、声を上げて泣きだした。
マスカラが落ちようが構わず涙を流す彼女を、佑は無感動に見る。
「円満に解決できて嬉しいよ、飯山さん。このまま一生、俺と香澄の前に姿を現さないでくれ」
そのあと佑は、飯山を一度も振り返らずその場を立ち去った。
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たっぷりと温泉に浸かって豪華なお膳を平らげたあと、香澄はぼんやりとテレビを見ていた。
スマホを弄るにも飽きてしまって、今はソファの上でごろりと横になっていた。
気がつけばウトウトとしていて、佑が部屋に入ってきたのも気付いていなかった。
佑は寝ている香澄の前に膝をつき、可愛らしい寝顔に知らずと微笑む。
飯山たちへの沙汰は、特に言わないつもりだ。
香澄が知ったら自分を責めるだろう。
時期的に彼女が復帰したあとに飯山たちが退社する事になるが、あれだけ脅せば退社まで残りの有給を使うだろう。
今でも拳が震えてしまうぐらいの怒りを抱いているが、香澄の前で怒っている姿など見せたくない。
久住からも「赤松さんに、決して言わないようにと念を押されました」と言われている。
恐らく、いじめられた自分を情けないと思い、必死に隠そうとしているのだろう。
だから香澄の気持ちを汲み、この旅行の間ぐらいは飯山たちの件に触れないでおこうと思った。
いずれ香澄も会社から飯山たちの姿がなくなった事に気付くだろう。
それはその時に説明すればいい。
何事にもタイミングがあるし、今は香澄の気持ちを尊重したい。
「一人でよく頑張ったな」
艶やかな黒髪を手で梳くと、相変わらず頑固なまでの直毛が気持ちいい。
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