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第六部・社内旅行 編
悔しい!
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そんな彼は営業成績も良く、営業部のムードメーカーだ。
イベント事なども彼が発起人になる事も多く、皆「生島が言うなら」という感じでついてくる。
彼も味方にできたように思え、佑は内心「よしよし」と頷いていた。
まだ佑と社員たちの会話が続いている間、成瀬が荒野と水木に囁く。
「飯山たち、意外と社長の部屋に押しかけなかったね。私たちが虫除けのために来なくても、他の人たちが来たし。懇親会中、飯山たちから社長の事守りきれそう」
「うんうん。このまま何事もなく終えられたらいいね」
「本当に赤松さん、遠慮しないで草津来ちゃえば良かったのになぁ」
「ねぇー」
三人組が飯山たちから佑を守ろうとしている間、当の香澄は飯山たちから直接攻撃を食らってしまっていた。
しかし三人組がそれに気づけないのも、仕方がない。
人の行動など、予想した通りにいくはずがない。
まして隠して守ろうとする者と、暴いて攻撃しようとする者とは、絶対的に相性が悪く、考え方も正反対なのだ。
**
宿に戻った香澄は、護衛に「絶対に佑さんに言わないでください」と念を押してから部屋に閉じこもった。
ついさっきまで佑との甘い時間が流れていた部屋に、一人で立ち尽くす。
ベッドまで歩いてボフッと倒れ込むと、涙がこみ上げてきた。
「――――っ、悔しい……っ!」
くぐもった声で叫び、思いきり拳をベッドに振り下ろした。
ボスッと鈍い音がし、衝撃は上質なマットレスに吸収されてゆく。
「どうして……っ、あんなこと言われないとならないのっ!」
何度も何度も、拳を振り下ろした。
呼吸がおかしくなるほど嗚咽し、目の前が涙で見えなくなった。
「好きな人と一緒にいたいって思うの、そんなに悪いのっ!? 忙しい人なんだもんっ、たまに温泉行ったっていいじゃないっ!」
ヒステリックな声を出して、この場にいない飯山たちに文句を言う。
けれど、声を出せば出すほど自分が情けなくて堪らなくなる。
――悪かったのは、あの場で言い返せなかった自分の弱さだ。
――言い返さなかったのも、佑に迷惑を掛けたくないと自分で判断したからだ。
――全部、自分の責任だ。
――けど、
「……悔しい……っ」
もう一度言ったあと、両手で顔を覆って肩を震わせた。
「――――っ、ぁ……、あぁあああぁっ!」
大人になってから、初めて声を上げて泣いた。
こんな悔しい思い、できるなら味わいたくない。
人間なら当たり前だ。
それでも香澄は、これは自分が選んだ道なのだと感じていた。
札幌で佑に見つけられ、彼の手を取った瞬間から、自分は人から妬まれる存在になった。
〝その他大勢〟の一般人から、〝世界の御劔の婚約者〟に大抜擢されたのだ。
子供の頃に見ていたアニメにだって、悪魔を召喚して願いを叶えてもらうなら、相応の代償が必要だと描かれてあった。
何事にも、犠牲のない成功などありえない。
それでも、佑の手だけは絶対に手放したくない。
彼に必要ないと言われるまで、側にいたい。
「……堪えて、……みせるもの」
ズッと鼻を啜り、香澄は両手で涙を拭う。
「佑さんが望んでくれる限り、私はどれだけだって嫌な女になってやる。嫉妬されてもニッコリ笑っていやみを言い返せるぐらい、したたかな女になるんだから」
自分自身に言い聞かせたあと、香澄は仰向けになって天井を見つめる。
どれぐらいぶりになるか分からないぐらい大泣きして、ストレスも解消された気がした。
「……お風呂、入ろう」
モソリと起き上がり、髪がくしゃくしゃなのも構わず浴室に向かう。
「……負けない」
脱衣所でポイポイと服を脱いで、ギプスカバーをつける。
「せっかくの温泉だし!」
ザプンッと音をたてて露天風呂に入った香澄は、「バンバンババンバンバンッ」とおなじみのフレーズを歌い始めた。
**
イベント事なども彼が発起人になる事も多く、皆「生島が言うなら」という感じでついてくる。
彼も味方にできたように思え、佑は内心「よしよし」と頷いていた。
まだ佑と社員たちの会話が続いている間、成瀬が荒野と水木に囁く。
「飯山たち、意外と社長の部屋に押しかけなかったね。私たちが虫除けのために来なくても、他の人たちが来たし。懇親会中、飯山たちから社長の事守りきれそう」
「うんうん。このまま何事もなく終えられたらいいね」
「本当に赤松さん、遠慮しないで草津来ちゃえば良かったのになぁ」
「ねぇー」
三人組が飯山たちから佑を守ろうとしている間、当の香澄は飯山たちから直接攻撃を食らってしまっていた。
しかし三人組がそれに気づけないのも、仕方がない。
人の行動など、予想した通りにいくはずがない。
まして隠して守ろうとする者と、暴いて攻撃しようとする者とは、絶対的に相性が悪く、考え方も正反対なのだ。
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宿に戻った香澄は、護衛に「絶対に佑さんに言わないでください」と念を押してから部屋に閉じこもった。
ついさっきまで佑との甘い時間が流れていた部屋に、一人で立ち尽くす。
ベッドまで歩いてボフッと倒れ込むと、涙がこみ上げてきた。
「――――っ、悔しい……っ!」
くぐもった声で叫び、思いきり拳をベッドに振り下ろした。
ボスッと鈍い音がし、衝撃は上質なマットレスに吸収されてゆく。
「どうして……っ、あんなこと言われないとならないのっ!」
何度も何度も、拳を振り下ろした。
呼吸がおかしくなるほど嗚咽し、目の前が涙で見えなくなった。
「好きな人と一緒にいたいって思うの、そんなに悪いのっ!? 忙しい人なんだもんっ、たまに温泉行ったっていいじゃないっ!」
ヒステリックな声を出して、この場にいない飯山たちに文句を言う。
けれど、声を出せば出すほど自分が情けなくて堪らなくなる。
――悪かったのは、あの場で言い返せなかった自分の弱さだ。
――言い返さなかったのも、佑に迷惑を掛けたくないと自分で判断したからだ。
――全部、自分の責任だ。
――けど、
「……悔しい……っ」
もう一度言ったあと、両手で顔を覆って肩を震わせた。
「――――っ、ぁ……、あぁあああぁっ!」
大人になってから、初めて声を上げて泣いた。
こんな悔しい思い、できるなら味わいたくない。
人間なら当たり前だ。
それでも香澄は、これは自分が選んだ道なのだと感じていた。
札幌で佑に見つけられ、彼の手を取った瞬間から、自分は人から妬まれる存在になった。
〝その他大勢〟の一般人から、〝世界の御劔の婚約者〟に大抜擢されたのだ。
子供の頃に見ていたアニメにだって、悪魔を召喚して願いを叶えてもらうなら、相応の代償が必要だと描かれてあった。
何事にも、犠牲のない成功などありえない。
それでも、佑の手だけは絶対に手放したくない。
彼に必要ないと言われるまで、側にいたい。
「……堪えて、……みせるもの」
ズッと鼻を啜り、香澄は両手で涙を拭う。
「佑さんが望んでくれる限り、私はどれだけだって嫌な女になってやる。嫉妬されてもニッコリ笑っていやみを言い返せるぐらい、したたかな女になるんだから」
自分自身に言い聞かせたあと、香澄は仰向けになって天井を見つめる。
どれぐらいぶりになるか分からないぐらい大泣きして、ストレスも解消された気がした。
「……お風呂、入ろう」
モソリと起き上がり、髪がくしゃくしゃなのも構わず浴室に向かう。
「……負けない」
脱衣所でポイポイと服を脱いで、ギプスカバーをつける。
「せっかくの温泉だし!」
ザプンッと音をたてて露天風呂に入った香澄は、「バンバンババンバンバンッ」とおなじみのフレーズを歌い始めた。
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