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第六部・社内旅行 編

社長に色目使ってないよね? ★

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「……それは、社長秘書室の中で決める事ですから」
「やだぁ、怒った? ごめんねぇ? 私たちはただ、第三者的に思った事を言っただけだからぁ」

 飯山がわざとらしいトーンで謝ってくる。
 それに、自分が言ったのに主語を「私たち」にしてくるところに、同調圧力を感じた。

「デザイナーの方にもご心配をおかけして、誠に申し訳ございません。早めに直して職場復帰し、皆さんにご迷惑をおかけしないよう努力致します」

 香澄はグッと笑顔を保ち、何も関係のない彼女たちに謝罪する。

 こういう風に一人で彼女たちの相手をしていると、成瀬たちが如何に本気で〝忠告〟をしていたのかが分かる。
 けれど「あの人には気をつけて」と言われていても、気がついたら攻撃されている場合が多いので、どうやって気をつけたらいいのか分からない。

(旅館に籠もっていたら良かったのかな? せっかくの観光地だけど、部屋に籠もって外に出なければ良かった?)

 そう思うものの、主張のおかしい人たちを避けるために、自分の楽しみを奪われるなど変な話だ。

「まぁ、でも松葉杖ついてでも懇親会に来たかったんでしょ? ホテルは私たちと一緒なんでしょ? 部屋番号は?」

「い、いえ。休暇を頂いているのに、同じホテルで過ごすとか図々しいと思って……」

「やだぁ! 図々しいなんてちょっとしか思ってないよ? あ、じゃあ社長の取り計らいで一人だけ高級旅館に泊まってるとか? うっそぉ!? そっちの方が図々しくない? 社長秘書ってそこまでなんだ! すっごぉーい」

 飯山たちの声を聞きつつ、香澄は半分現実ではないところに魂を置いていた。

 こんな風に、人から直接悪意をぶつけられるのは初めてだ。

 学生時代はいじめとは無関係で、のびのび育った。
 大学を出て八谷に入っても、上司は男性ばかりで違う圧力はあったが、それでも社会人として成長するに必要なものだと思っていた。

 酔っ払った客をいなすのも、セクハラを受けたのも、お客様だから我慢できた。
 最初は店長から始まり、エリアマネージャーまで昇格できたのは自分の努力もあると思っている。

 だから香澄は、一般的なOLの世界を知らない。

 ドラマを見て〝地獄の給湯室〟とか、〝社内いじめ〟とかの存在は知っていたが、本当にあるのか疑わしく思っていた。
 だが友人から話を聞けばそういう世界は普通にあり、友人も色々と苦労をしていたようだ。

 別世界の出来事と思っていたのに、オフィスではない場所でこうやって陰湿ないじめを受けている。

(佑さんがいないと、私って〝こう〟なんだなぁ)

 簡単に攻撃してもいい、軽んじられた存在だと思われている。
 自分としては今まで接してきた友達や八谷関係の人たち、それに佑や松井も、皆きちんと香澄に一人の人間としての経緯を示してくれた。

 それが好きな男性にくっついている邪魔な秘書というだけで、彼女たちには何もしていないのに簡単に悪意をぶつけられる。

(ある意味、凄いパワーだなぁ)

 香澄だってクレームを言う事はあるが、店で買った商品が不良品だったとか、その日に買った食材なのに鮮度が悪かったなどの場合だ。
 それもきちんと伝えて対処してもらったあとは、特に店員に対して愚痴を言うでもない。

 なので、何もしていない人にここまで文句をつけられる飯山たちに、ある種の感動すら覚えている。

 ぼんやりしている香澄が、つらそうな顔をしておらず、自分たちの言葉が効いていないと思ったのか、さらにえぐるような言葉を掛けられた。

「赤松さんってさ、社長に色目使ってないよね?」
「えっ?」

 さすがにその言葉にはギョッとして、香澄は我に返る。

「松井さんが席を外す時だってあるんでしょ? その時に社長と二人きりになって、迫ったりしてないの? 意外と赤松さんみたいに地味そうな人の方が、裏ではめちゃくちゃ遊んでて男関係にルーズってあるからね」

「そんな……、してません!」

(ドラマじゃあるまいし!)

 一昔前のドラマではセクシーな女性秘書が社長の性的な世話も……というイメージがあったが、佑はきちんと公私を分けてくれている。

 何より香澄がきちんと仕事をしたいと意思表示したから、彼の本心ではいつでもイチャつきたいと思っているかもしれないが、我慢してくれている。
 その辺りは、自分と佑の誇りでもある。

 それを下卑た想像で汚され、香澄はムッとしている。

 けれど彼女たちはお構いなしに話を想像で膨らませた。

「いるよねぇ、そういう子! 学校では地味で目立たないのに、まっさきに妊娠してたりとか!」
「そうそう! 私の知ってる子も、いきなり3Pしたとかいう噂を聞いてびっくりしたもん」

 彼女たちは楽しそうに会話を弾ませるが、残念ながら香澄はどれにも当てはまらない。
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