上 下
269 / 1,549
第六部・社内旅行 編

たかがブラホック外し、されどブラホック外し

しおりを挟む
 佑はチラリと室内にある乱れ箱を見て、そこに浴衣が用意されてあるのを確認する。

「おいで。脱がせてあげる」
「大丈夫だよ、一人で……あん、もう」

 抵抗しようにもデニムワンピースを脱がされ、香澄は黒いTシャツ一枚になってしまう。

「はい、バンザイ」
「え……ちょ。せめて浴衣羽織らせて」

 目の前に立った佑がTシャツまでも奪い取ろうとするので、香澄は四つ這いで移動し浴衣を目指した。

「あ……。香澄のお尻がプリプリ動いてるの可愛い……。やばい、無理」

 手と膝で赤ちゃんのようにハイハイした香澄の後ろ姿に、もれなく佑が欲情した。

「やだっ! お尻見ないでよ! 佑さんが脱がせたくせに……っ」

 佑がどこを見ているのか察した香澄は、座り込んで浴衣を広げる。
 バサッと広げて羽織ってしまうと、その陰でTシャツを脱ぎ始めた。

「なんだよ。隠れて着替えるなんて無粋だな」
「残念ながら、まだ恥じらいというものがあるんですー」

 べ、と振り向きざまに舌を出した瞬間、パシャッと音がして写真を撮られた。

「な……っ」
「記念。一緒に温泉っていうのもなかなかレアだし、温泉での香澄のあれこれを収めておこうと思って」

「もー。あとで佑さんが浴衣姿になったら、私だって写真撮るんだから」

 無事Tシャツを脱いで浴衣の前を合わせようとした時、背後に迫った佑が手を潜り込ませてきた。

「きゃ……っ、ちょ、なに、まっ……」
「やっぱりブラつけてる。浴衣の下はブラなしが鉄則だろ」

 言いながら、佑は香澄の背中で浴衣越しにブラジャーのホックを外してしまった。

「なに!? 浴衣の上から!? どんな技使ったの!?」
「技って言われても……」

 佑としては別に手慣れている訳ではない。
 ブラジャーのホックの形状はアパレルブランドの社長として分かっているし、その間に布が一枚挟まっただけだ。

 それだけの問題なのだが、香澄は何かを疑う眼差しで佑を見る。

「……なに、その目」
「……別に」

 きゅう、と唇を尖らせた香澄は、仕方なくブラジャーを外す。
 浴衣の前を掻き合わせ、ブラジャーを畳んだTシャツの下に隠した。

「香澄。何か不満か? 今の、がっついているみたいで嫌だった?」

 背後から佑が香澄を抱きすくめ、耳元で機嫌を窺う。

「……別に、がっついてるとかじゃなくて……」

 どうやらブラホック外し一つにしても、自分と佑との間には認識の差があるようだ。

 佑が今の行動で自覚しているのは「がっついている」のみだ。
 香澄は彼がブラジャーのホックを外し慣れている=沢山の女性と関係を結んだ過去がある、と疑ってしまっていて、そんな自分に嫌気が差す。

 佑の過去の女性関係は、深く聞かないと決めたはずだった。
 けれど指先で行われる行動一つで、こんなにも心が乱される。

(……私、心が狭いな)

 もう一度溜め息をつき、香澄はなんとか自力で立ち上がろうとする。
 松葉杖はテーブルの反対側にあり、できれば畳のある場所で杖を使いたくない。

「香澄?」
「温泉、一緒に入るんでしょう?」

 振り向くと、どこか心配そうな顔をしている佑がいる。
 香澄の機嫌が少し悪くなっただけで、この完璧な社長は忠犬のように心配して纏わり付こうとする。

(私はもう少し、佑さんを信頼しないと駄目だなぁ。……ううん、自分に自信を持たないと)

 たかがブラホック外し。
 それだけで機嫌が悪くなるだなんて、あまりに狭量すぎる。

「……じゃあ、ギプスカバーつけないとな。ギプスはもう少しで取れるんだっけ?」

 佑が香澄の鞄を持って来てくれたので、その中からギプスカバーを取り出す。

「うん。来週の通院で、半分外す感じになるって。レントゲンを撮って状態を確認してから、昼間は固定するけどお風呂と寝る時は外してもいいようになるでしょう、って。その次の週には完全に取れて、サポーターで過ごせるんだって」

「ふぅん。じゃあ、ギプスが取れた初夜に脚にキスさせて」

 佑は香澄の脚にカバーをつけつつ、そんな事を言う。

「ギプス初夜! ……新しい概念」

 思わずツッコミを入れたあと、香澄は首を左右に振ってキスを遠慮する。

「ずっと脚を洗えてなくて臭いから、キスはいや」

 ギプスカバーをつけてくれたあと、佑は服を脱いだ。

 残っていた香澄のレースのパンティも脱がし、浴衣も取り払った。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...