268 / 1,549
第六部・社内旅行 編
おあずけ
しおりを挟む
「こちらは椅子でお食事ができるようになっております」
女将に案内されてさらに別の洋室を覗くと、ダイニングテーブルがある。
途中で見えた部屋は書斎らしく、デスクとプレジデントチェアがあり、マッサージ機まで置かれてあった。
「こちらにベッドルームがありますが、もしお布団の方が宜しければ、内線でお知らせください」
寝室にはゆったりとした大きさのベッドが二つ並んでいる。
間接照明で照らされた、温もりのあるウッド調の内装が気持ちをほっこりさせた。
「こちらが洗面所とお風呂です」
ガラス張りの引き戸の向こうは、大理石のボウルが二台ある洗面所になっていた。
鏡も大きく、ピカピカに磨き上げられている。
シャワーブースがある向こうには、ガラスのドアがあり源泉掛け流しの露天風呂があった。
露天風呂からは整えられた庭が一望できる上、プライバシーもしっかり守られている。
「はぁ……、贅沢……」
思わず溜め息を漏らした香澄を見て佑が微笑する。
部屋を案内し終えた女将は、「お茶をご用意しますのでどうぞ」と座るよう勧めてきた。
豪華な宿に感心したまま掘りごたつの座椅子に座ると、他の仲居が持ってきたお茶道具で女将が抹茶を点ててくれる。
一緒に可愛らしい和菓子も出され、香澄は笑顔が止まらない。
作法については、以前に箱根を訪れた時の事を思いだし、つたないながらもきちんとできたと思っている。
「それでは、ごゆっくりどうぞ。何か分からない事がございましたら、受話器をとってゼロ番でフロントに繋がります」
「ありがとうござます」
女将と仲居が立ち去ったあと、部屋には二人だけになる。
「……お抹茶美味しいね」
甘いお菓子を食べたあとに抹茶を飲むと、口の中で甘みが苦みによって打ち消されてゆく。
けれど舌を刺すような苦みではなく、まろやかで優しい苦みだ。
舌の上でその味わいを楽しみつつ、香澄はうっとりと目を閉じる。
頬杖を突いて何とはなしに庭を眺めていると、手をそっと握られた。
「……ん?」
「……風呂、入らないか?」
静かに、けれど熱のこもった目が訴えてくる。
その視線だけで落ち着かなくなった香澄は、目線をさまよわせる。
腕時計を見ると、十四時二十分だ。
宿に無理を聞いてもらったようで、通常より一時間前にチェックインし、香澄と過ごす時間を捻出してくれた。
「松井さんたち待ってるよ?」
「先にホテルに向かってもらったから大丈夫だ。俺は後から散歩がてら歩いて行く。久住と佐野、瀬尾はこの旅館にいるから、俺が不在の間に何かあったら必ず頼る事」
「はい」
返事をしたあと、佑は静かに立ち上がって香澄の傍らに膝をついた。
「香澄」
耳元で名を呼ばれ、服越しに胸に触られただけで、香澄はお腹の奥に熱が宿るのを感じる。
「で、でも……。んっ」
何か理由をつけようとした時、抱き寄せられ唇を奪われた。
「ん……、ん」
ちゅ、ちゅとリップ音がし、佑が香澄の唇を確かめるように口づけてくる。
小さく吸っては舌先で唇を舐め、呼吸のために少し開かれたそこに、舌がヌルリと入り込んだ。
「ぁ……っ、ふ……、ん……」
そのままズルズルと畳の上に押し倒され、いい子いい子と頭を撫でられながらキスをされる。
ワンピースの背中のファスナーが下げられ、サロペットの肩紐が左右に下ろされた。
「ん……っ、ん。……た、すくさん」
トントン、と背中を叩き、香澄は必死に彼の胸板を押す。
「……何?」
あまり余裕のない目で見つめ、欲望を止められた彼が不機嫌そうに尋ねてくる。
「あ……あの。浴衣。……着替えない? あ、佑さんはホテル行くから着替えたら駄目か」
「浴衣」
この一瞬で何を想像したのか、佑がピーンと何かに気付いた顔になる。
「と、とにかく。このままはやめとこ? ワンピースも変な跡ついちゃうし……」
服をこよなく愛する佑にとって、それは殺し文句だった。
「……仕方ないな」
のそりと身を起こす様は、おあずけを喰らった大型犬のようだ。
女将に案内されてさらに別の洋室を覗くと、ダイニングテーブルがある。
途中で見えた部屋は書斎らしく、デスクとプレジデントチェアがあり、マッサージ機まで置かれてあった。
「こちらにベッドルームがありますが、もしお布団の方が宜しければ、内線でお知らせください」
寝室にはゆったりとした大きさのベッドが二つ並んでいる。
間接照明で照らされた、温もりのあるウッド調の内装が気持ちをほっこりさせた。
「こちらが洗面所とお風呂です」
ガラス張りの引き戸の向こうは、大理石のボウルが二台ある洗面所になっていた。
鏡も大きく、ピカピカに磨き上げられている。
シャワーブースがある向こうには、ガラスのドアがあり源泉掛け流しの露天風呂があった。
露天風呂からは整えられた庭が一望できる上、プライバシーもしっかり守られている。
「はぁ……、贅沢……」
思わず溜め息を漏らした香澄を見て佑が微笑する。
部屋を案内し終えた女将は、「お茶をご用意しますのでどうぞ」と座るよう勧めてきた。
豪華な宿に感心したまま掘りごたつの座椅子に座ると、他の仲居が持ってきたお茶道具で女将が抹茶を点ててくれる。
一緒に可愛らしい和菓子も出され、香澄は笑顔が止まらない。
作法については、以前に箱根を訪れた時の事を思いだし、つたないながらもきちんとできたと思っている。
「それでは、ごゆっくりどうぞ。何か分からない事がございましたら、受話器をとってゼロ番でフロントに繋がります」
「ありがとうござます」
女将と仲居が立ち去ったあと、部屋には二人だけになる。
「……お抹茶美味しいね」
甘いお菓子を食べたあとに抹茶を飲むと、口の中で甘みが苦みによって打ち消されてゆく。
けれど舌を刺すような苦みではなく、まろやかで優しい苦みだ。
舌の上でその味わいを楽しみつつ、香澄はうっとりと目を閉じる。
頬杖を突いて何とはなしに庭を眺めていると、手をそっと握られた。
「……ん?」
「……風呂、入らないか?」
静かに、けれど熱のこもった目が訴えてくる。
その視線だけで落ち着かなくなった香澄は、目線をさまよわせる。
腕時計を見ると、十四時二十分だ。
宿に無理を聞いてもらったようで、通常より一時間前にチェックインし、香澄と過ごす時間を捻出してくれた。
「松井さんたち待ってるよ?」
「先にホテルに向かってもらったから大丈夫だ。俺は後から散歩がてら歩いて行く。久住と佐野、瀬尾はこの旅館にいるから、俺が不在の間に何かあったら必ず頼る事」
「はい」
返事をしたあと、佑は静かに立ち上がって香澄の傍らに膝をついた。
「香澄」
耳元で名を呼ばれ、服越しに胸に触られただけで、香澄はお腹の奥に熱が宿るのを感じる。
「で、でも……。んっ」
何か理由をつけようとした時、抱き寄せられ唇を奪われた。
「ん……、ん」
ちゅ、ちゅとリップ音がし、佑が香澄の唇を確かめるように口づけてくる。
小さく吸っては舌先で唇を舐め、呼吸のために少し開かれたそこに、舌がヌルリと入り込んだ。
「ぁ……っ、ふ……、ん……」
そのままズルズルと畳の上に押し倒され、いい子いい子と頭を撫でられながらキスをされる。
ワンピースの背中のファスナーが下げられ、サロペットの肩紐が左右に下ろされた。
「ん……っ、ん。……た、すくさん」
トントン、と背中を叩き、香澄は必死に彼の胸板を押す。
「……何?」
あまり余裕のない目で見つめ、欲望を止められた彼が不機嫌そうに尋ねてくる。
「あ……あの。浴衣。……着替えない? あ、佑さんはホテル行くから着替えたら駄目か」
「浴衣」
この一瞬で何を想像したのか、佑がピーンと何かに気付いた顔になる。
「と、とにかく。このままはやめとこ? ワンピースも変な跡ついちゃうし……」
服をこよなく愛する佑にとって、それは殺し文句だった。
「……仕方ないな」
のそりと身を起こす様は、おあずけを喰らった大型犬のようだ。
43
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる