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第六部・社内旅行 編

悪魔が来る予感

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 覆い被さった佑は、香澄の反応を見ながらクツクツと笑っている。

「おかしいな。香澄の軸ってブレなさそうだ。普通、ここまで甘やかしたら大抵の女性はコロッと落ちそうなのに」

「わ、私は大抵の女性の方だと思うよ。でも佑さんだからこそ、ブレーキが掛かるの! 好きな人の前で欲に負けてだらけた姿なんて見せたくない」

 必死に抵抗するも、佑はいまだ悪巧みをする。

「ふぅん……? ツテに連絡して、香澄が応募した何かで一億円当たったっていう事にしようかな。それだったら金を受け取ってくれる?」

「やめてえええええ……! 怖い! 怖いから! 商店街の福引きも引けなくなる!」

 ぶっとんだ佑に、恐怖しか抱けない。

「俺の目標は、香澄の常識を壊す事かな? 懇意にしている宝石商もいるし、自分から進んでジュエリーを見るとか、買い物をするぐらいにはなってもらわないと」

「しない! 宝石そんなに好きじゃないもん。自分のお給料で買った、ちっちゃいので満足してます!」

「じゃあ、何が好きなんだ?」

 少しつまらなさそうな顔をした佑が、Tシャツの裾から手を入れてくる。
 会話と行動の脈絡がついていない。

「え……と、買い物するなら本とか文房具とか……。あとは美味しいラーメン求めてフラフラとか」

「本なら、アンティ」

「間に合ってます! グラスランドで電子書籍を買ってます。実物はかさばるし、古書とかそういうのいいから」

 グラスランドというのは、世界で一番有名なネットショッピングサービスだ。
 スンッと大人しくなった佑に、香澄はつけ加える。

「文房具も一人でフラフラ専門店を歩くのが好きなの。便箋とかシールとか色ペンとか、じわじわ集めるのが好きで、使ってなくなったらまた買いに行くのが楽しみなの。高級万年筆とかそういうの出してきたら、使わない上に一週間口きかないから」

「……香澄が冷たい」

 ブラジャーの上から胸に手を当てたまま、佑が割と傷ついた声を出す。

「佑さんが節操ないからでしょ。守ってくれるとか甘えさせてくれるとか、そういうのは嬉しいです。頼りにしてる。でも私は私でささやかな幸せを持っているから、それを奪わないで」

「……はい。おっぱい触っていいですか?」
「ちゃんと分かってくれたなら、いいですよ」

 サラリと流れがおっぱいになり、つい香澄も承諾してしまう。
 佑はシュンとしたまま香澄のブラジャーのホックを外し、浮き上がった下着の間からむにむにと胸を揉む。

「……はぁ。佑さんって頼りになるカリスマタイプと思いきや、その直後にとっても残念な人になるから、訳が分からない……」

 佑は香澄のグレーのTシャツを首元までたくし上げ、Eカップの胸を見下ろす。
 夏らしいパイナップル柄の薄手リラックスパンツをはいた太腿を撫で、また溜め息をついた。

「香澄を連れてどこか別荘に逃げたい」
「だーめ。週末まで我慢して。明日金曜日、ほらもうすぐ」

「いや……。その他にも嫌な予感があるんだ」
「なに? 嫌な予感って。わっ」

 きょと、と目を瞬かせると、佑がガバリと香澄に覆い被さってきた。
 裸の胸元にキスをされ、そのあと胸元を枕にするように顔を押しつけてきた。

「七月末から九月上旬まで、ブルーメンブラットヴィルでバカンスが始まる」
「あー」

 香澄は佑の言いたい事を察する。

「そう。あの悪魔たちがやってくる可能性が高い」

 現在、七月中旬で月末まであと半月だ。
 それまでにあの嵐のような二人を迎える心の準備をしなくてはいけない。

「佑さん、心労で倒れないでね?」
「……家の鍵、もう一つ増やそうかな。あいつら合鍵持ってそうだ」

「合鍵渡したの?」

「いいや。オーパとオーマには、日本に来たらいつでも上がってほしいって合鍵渡していたんだ。で、クラウザー家に自由に出入りしているあの二人が、鍵の場所をまったく知らない……とは言い切れない。勿論あの二人は根っこでは常識人だし、俺が不在の間に勝手に上がり込む事はないと信じてる。だから本当に何ていうか、嫌な予感……なんだけど」

「それって……」

「どこかで鍵を見つけたら、『拾った』って言ってスペア作りそうだろ? そういう〝きっかけ〟があったら、あとはサラッとやるんだよ、あいつら」

「ああああああ……」

 あり得そうな話に、香澄は胸を揉まれたまま唸る。

「だから時期になったら、本気で香澄を連れてどこかに逃げたいなとは思ってるよ」
「うーん……」
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