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第六部・社内旅行 編
「甘える」は「信頼」
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「……私も、佑さんみたいになれるかな?」
不安に駆られた顔で問う香澄に、佑は苦笑いする。
「俺みたいな傲慢な性格は、日本では割と少数派だと思う。香澄はそうならなくていいし、俺は繊細で他人に気を遣える君が好きだ」
「でも……」
「だから、この問題は俺に任せてほしい。これから香澄のWメールのアドレスやアカウントを変えたり、協力してもらう事は多少ある。それ以外の事は、全部俺が調べて俺が解決する。俺はこの通り鉄みたいな男だから、多少の攻撃では凹まないし逆に金と弁護士でやり返せる。俺が君を守る。……だから、香澄はただ信じていてほしい」
目の前に揺るぎない意志がある。
まっすぐに香澄だけを見て、全力でもたれかかっても構わないと告げる目が見つめている。
今まで懸命に自分の脚でプルプルと立っていた香澄は、ゆっくりと佑という頑丈な杖に頼っていこうと気持ちを緩めた。
「……何かあったら相談していい?」
「当たり前だ。隠し事したらベッドに引きずり込んでお仕置きだからな」
「怖くなったら甘えていい?」
「勿論」
何を言っても佑は受け入れてくれる。
ズブズブに甘やかすその手が心地良く――、どこか不安になる。
――弱くなった。
心底そう思う。
「私……、こんな弱い人間のつもりじゃなかった。本当は、もっとちゃんとできたの。一人で考えて行動して、自分の事は自分で、ってできたんだよ」
ぐい、と香澄は目元を乱暴に拭う。
「分かってる。それも俺の責任だ。札幌にいた時は香澄は〝そう〟であっても、俺が強引に環境を変えてしまった。だからしっかり責任を取るよ。俺が君に甘えて欲しいと望んだ。香澄のせいじゃない」
「……ん」
ゆっくりと頷き、香澄はぎこちなく笑う。
「俺は守るものがあると、強くなれるタイプだと思っている。そういう意味でも、香澄とは相性がいいんだ」
「……うん、分かった」
彼がここまでしてくれる原因の一つを知り、納得する。
そして自分の気持ちも少し理解した。
「多分私、全部自分の責任で解決しないといけないんだと思い込んでた。きっとまだ、佑さんに人生ごと甘えるっていう事が、できていなかったんだと思う」
「うん」
「佑さんが今までずっと、『もっと甘えてほしい』って言ってくれていたの、きっと言葉のままに受け取っていたと思う。甘ったれた事を言ったり、ベッドで……とか、物欲的におねだりをしたりとか。……でも〝甘える〟ってそれが全部じゃないんだね。きっともっと、信頼する事なんだと思う」
彼女の理解に、佑は満足げに微笑む。
「勿論、物理的に甘えてほしいけどな?」
「もう」
軽く睨むと、彼は肩を揺らして笑った。
「……でも、そうだな。やっぱり香澄ってまじめな性格もあって、まだ俺に対して遠慮があるんだと思う。いまだに家賃を渡してきたりするし、俺が渡したカードも一回も使ってないだろ?」
「う……」
佑から「買い物をする時に自由に使っていいから」と黒いカードを渡されたが、恐ろしくて一度も使った事がない。
「だ、だって……。お金はきりがあるから大事に使えるのであって。欲しい物だって何でも手に入ってしまったらつまらないし……」
「欲しい物をスムーズに手に入れて、何が悪いかな?」
しかしケロリとして言われ、逆にこちらの常識が揺らいでしまう。
「だ……駄目人間になっちゃう……」
「なってごらん? 仕事をやめたいと言っても構わない。香澄がやりたい事をして幸せなのが俺の一番の望みだから」
その言葉を聞いた瞬間、ぞわっと背筋に鳥肌が立った。
「うわぁっ、ダメ! それ! 佑さん、駄目人間メーカーだ!」
思わず離れようとすると、逆に腕を引かれてカウチソファに押し倒された。
「あれ? 今ごろ分かったのか? 俺は香澄をズブズブに甘やかして、俺がいないと生きていられなくするために躾けている真っ最中なんだけど」
「わーっ、ムリムリムリムリ! 私、産休は取るけど定年になるまで絶対働くから! 万が一のために貯金も続けるし、佑さんのカードなんて絶対使わない!」
香澄の中の〝常識人〟が、〝異次元の人〟である佑を前に拒絶反応を起こしている。
不安に駆られた顔で問う香澄に、佑は苦笑いする。
「俺みたいな傲慢な性格は、日本では割と少数派だと思う。香澄はそうならなくていいし、俺は繊細で他人に気を遣える君が好きだ」
「でも……」
「だから、この問題は俺に任せてほしい。これから香澄のWメールのアドレスやアカウントを変えたり、協力してもらう事は多少ある。それ以外の事は、全部俺が調べて俺が解決する。俺はこの通り鉄みたいな男だから、多少の攻撃では凹まないし逆に金と弁護士でやり返せる。俺が君を守る。……だから、香澄はただ信じていてほしい」
目の前に揺るぎない意志がある。
まっすぐに香澄だけを見て、全力でもたれかかっても構わないと告げる目が見つめている。
今まで懸命に自分の脚でプルプルと立っていた香澄は、ゆっくりと佑という頑丈な杖に頼っていこうと気持ちを緩めた。
「……何かあったら相談していい?」
「当たり前だ。隠し事したらベッドに引きずり込んでお仕置きだからな」
「怖くなったら甘えていい?」
「勿論」
何を言っても佑は受け入れてくれる。
ズブズブに甘やかすその手が心地良く――、どこか不安になる。
――弱くなった。
心底そう思う。
「私……、こんな弱い人間のつもりじゃなかった。本当は、もっとちゃんとできたの。一人で考えて行動して、自分の事は自分で、ってできたんだよ」
ぐい、と香澄は目元を乱暴に拭う。
「分かってる。それも俺の責任だ。札幌にいた時は香澄は〝そう〟であっても、俺が強引に環境を変えてしまった。だからしっかり責任を取るよ。俺が君に甘えて欲しいと望んだ。香澄のせいじゃない」
「……ん」
ゆっくりと頷き、香澄はぎこちなく笑う。
「俺は守るものがあると、強くなれるタイプだと思っている。そういう意味でも、香澄とは相性がいいんだ」
「……うん、分かった」
彼がここまでしてくれる原因の一つを知り、納得する。
そして自分の気持ちも少し理解した。
「多分私、全部自分の責任で解決しないといけないんだと思い込んでた。きっとまだ、佑さんに人生ごと甘えるっていう事が、できていなかったんだと思う」
「うん」
「佑さんが今までずっと、『もっと甘えてほしい』って言ってくれていたの、きっと言葉のままに受け取っていたと思う。甘ったれた事を言ったり、ベッドで……とか、物欲的におねだりをしたりとか。……でも〝甘える〟ってそれが全部じゃないんだね。きっともっと、信頼する事なんだと思う」
彼女の理解に、佑は満足げに微笑む。
「勿論、物理的に甘えてほしいけどな?」
「もう」
軽く睨むと、彼は肩を揺らして笑った。
「……でも、そうだな。やっぱり香澄ってまじめな性格もあって、まだ俺に対して遠慮があるんだと思う。いまだに家賃を渡してきたりするし、俺が渡したカードも一回も使ってないだろ?」
「う……」
佑から「買い物をする時に自由に使っていいから」と黒いカードを渡されたが、恐ろしくて一度も使った事がない。
「だ、だって……。お金はきりがあるから大事に使えるのであって。欲しい物だって何でも手に入ってしまったらつまらないし……」
「欲しい物をスムーズに手に入れて、何が悪いかな?」
しかしケロリとして言われ、逆にこちらの常識が揺らいでしまう。
「だ……駄目人間になっちゃう……」
「なってごらん? 仕事をやめたいと言っても構わない。香澄がやりたい事をして幸せなのが俺の一番の望みだから」
その言葉を聞いた瞬間、ぞわっと背筋に鳥肌が立った。
「うわぁっ、ダメ! それ! 佑さん、駄目人間メーカーだ!」
思わず離れようとすると、逆に腕を引かれてカウチソファに押し倒された。
「あれ? 今ごろ分かったのか? 俺は香澄をズブズブに甘やかして、俺がいないと生きていられなくするために躾けている真っ最中なんだけど」
「わーっ、ムリムリムリムリ! 私、産休は取るけど定年になるまで絶対働くから! 万が一のために貯金も続けるし、佑さんのカードなんて絶対使わない!」
香澄の中の〝常識人〟が、〝異次元の人〟である佑を前に拒絶反応を起こしている。
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