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第六部・社内旅行 編
香澄は誰に遠慮している?
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「こんな最高の男性が、どうして今までフリーだったのか分からない。巡り会えたのは奇跡だと思ってる。私は一億円の宝くじを当てるより、凄い幸運を手にしてしまったの」
「まぁ、総資産が一億円以上あるのは確かだな」
冗談めかして笑う佑に、香澄は「もう」と抱きつく腕に力を込める。
「……だからね、そんなとびっきりの幸せを手にしてしまった分、誰かから恨まれても当然だと思ってる。佑さんの事を好きな人は数え切れないぐらいいると思う。社内で片思いをしている人なんて氷山の一角で、メディア越しに佑さんを見てファンになった人とか大勢いると思う」
「……そんな大したものじゃないよ。ファンは、本当の俺を知らない」
佑の言葉を聞き、香澄は首を左右に振る。
「ファンってね、凄いの。私の友人にも俳優さんとかアイドルのファンがいるけど、推しのためならどれだけでもお金を出すし、遠い場所のコンサートでも行く。その熱量って凄いんだよ。推しが活躍する東京に行って同じ景色を見たり、映画やドラマの聖地巡礼のために旅行もしたりする」
「……俺は俳優じゃないし、テレビの仕事もスケジュールが合ったら引き受けてるだけだ。本当は企業のトップはメディアに顔を出すものじゃない。するならアンバサダーだ」
「……うん、分かってる。でもね、佑さんは自分が思っているよりずっと多くの人に想われて、憧れられてる。それは事実だよ。夢見がちな誰かは、ある日出会いがあって自分が佑さんに選ばれると思っているかもしれない。――私みたいになれると思っているかもしれない」
思い詰めた様子の香澄に、佑は落ち着いた声で問いかける。
「……そういう、名前も知らない〝誰か〟が香澄を恨んでいると?」
「…………」
香澄は黙り、ギュッとしがみつく手に力を込める。
「……分からない。〝誰〟なのかは分からない。まったく知らない人かもしれない。もしかしたら私の知り合いで、玉の輿に嫉妬した人かもしれない。佑さんの関係者かもしれない」
不安を口にしているうちに、香澄は自分が何を言いたいのか分からなくなってきた。
このままでは「佑がモテるから自分が被害を受けたのだ」と八つ当たりしているようだ。
「……違うの」
ブンブンと首を振り、香澄はそれだけが頼りと言わんばかりに抱きつく。
「……なぁ、香澄。悪いけど、俺はそういう事はもう全部予想している」
後頭部をよしよしと撫でられ、香澄は顔を上げた。
潤んだ彼女の目を見て、佑は甘く微笑む。
「俺の存在が香澄を苦しめてると、一番分かってる」
「そうじゃない!」
悲痛な声を出す香澄に、佑は「しぃ」と唇に指を当て話を聞くよう促す。
「でもな、香澄。俺は謝らない。後悔もしない。俺は香澄を選んで結婚し、幸せになる。それ以外の道はない。香澄以外の誰を不幸にしようが、誰の恨みを買おうが、俺は構わない。エゴイストと言われてもいい。逆に俺と香澄の幸せを壊すような奴がいるなら、こちらから出向いて全力で叩き潰す」
うっすらと笑う佑は、傲慢だからこその魅力がある。
漲る自信を持ちそう言い放つ彼は、思わずゾクリとするほど妖艶だった。
「……だって……。誰かが苦しんでるよ? 恨んで、本来なら犯すべきじゃない罪を犯してる」
「香澄は自分が攻撃されてるのに、相手の心配をしてるのか?」
また「お人好し」と言われそうで、思わず黙る。
「いいか、香澄。幸せになるのに他人の許可なんて要らない」
正論を言われ、ハッとした。
「人生九十年として、俺はあと六十年ぐらいだ。やりたい事は沢山ある。ただでさえ時間は足りないし、香澄とイチャつく時間はもっと足りない。毎日香澄の笑顔を見て、幸せに満ち足りて過ごしたい。人生を〝そう〟したいのに、顔も知らない誰かに遠慮する必要があるのか?」
打ちのめされたまま、香澄は何も答えられない。
「香澄は誰に遠慮している?」
「私は……」
ヘーゼルの目がまっすぐ香澄を見つめている。
「俺は誰にも遠慮をしない。したい事をして、自我を通したから今の俺がある」
超然とした王のような目に射貫かれ、香澄は自分と彼の差を感じた。
だから自分は、いつまで立っても一般人のままなのだ、と強く痛感する。
自分があれこれ細かな事に悩み、〝知らない誰か〟に遠慮をしてビクビクしている間、佑は世界と渡り合ってビジネスをし、絶大な支持を得てゆく。
彼が身を置いている世界では、顔の知らない誰かが自分を知っていて当たり前だ。
身に覚えのない恨みつらみを買うのも当然。
しかしそんな事にいちいち心を砕いていては身が持たない。
恐らく生まれ持っての強靱な精神力もあるのだと思う。
それに加えて、仕事と自分が望むもののためなら、何かをバッサリ切り捨てられる決断力の、何と強い事だろう。
「まぁ、総資産が一億円以上あるのは確かだな」
冗談めかして笑う佑に、香澄は「もう」と抱きつく腕に力を込める。
「……だからね、そんなとびっきりの幸せを手にしてしまった分、誰かから恨まれても当然だと思ってる。佑さんの事を好きな人は数え切れないぐらいいると思う。社内で片思いをしている人なんて氷山の一角で、メディア越しに佑さんを見てファンになった人とか大勢いると思う」
「……そんな大したものじゃないよ。ファンは、本当の俺を知らない」
佑の言葉を聞き、香澄は首を左右に振る。
「ファンってね、凄いの。私の友人にも俳優さんとかアイドルのファンがいるけど、推しのためならどれだけでもお金を出すし、遠い場所のコンサートでも行く。その熱量って凄いんだよ。推しが活躍する東京に行って同じ景色を見たり、映画やドラマの聖地巡礼のために旅行もしたりする」
「……俺は俳優じゃないし、テレビの仕事もスケジュールが合ったら引き受けてるだけだ。本当は企業のトップはメディアに顔を出すものじゃない。するならアンバサダーだ」
「……うん、分かってる。でもね、佑さんは自分が思っているよりずっと多くの人に想われて、憧れられてる。それは事実だよ。夢見がちな誰かは、ある日出会いがあって自分が佑さんに選ばれると思っているかもしれない。――私みたいになれると思っているかもしれない」
思い詰めた様子の香澄に、佑は落ち着いた声で問いかける。
「……そういう、名前も知らない〝誰か〟が香澄を恨んでいると?」
「…………」
香澄は黙り、ギュッとしがみつく手に力を込める。
「……分からない。〝誰〟なのかは分からない。まったく知らない人かもしれない。もしかしたら私の知り合いで、玉の輿に嫉妬した人かもしれない。佑さんの関係者かもしれない」
不安を口にしているうちに、香澄は自分が何を言いたいのか分からなくなってきた。
このままでは「佑がモテるから自分が被害を受けたのだ」と八つ当たりしているようだ。
「……違うの」
ブンブンと首を振り、香澄はそれだけが頼りと言わんばかりに抱きつく。
「……なぁ、香澄。悪いけど、俺はそういう事はもう全部予想している」
後頭部をよしよしと撫でられ、香澄は顔を上げた。
潤んだ彼女の目を見て、佑は甘く微笑む。
「俺の存在が香澄を苦しめてると、一番分かってる」
「そうじゃない!」
悲痛な声を出す香澄に、佑は「しぃ」と唇に指を当て話を聞くよう促す。
「でもな、香澄。俺は謝らない。後悔もしない。俺は香澄を選んで結婚し、幸せになる。それ以外の道はない。香澄以外の誰を不幸にしようが、誰の恨みを買おうが、俺は構わない。エゴイストと言われてもいい。逆に俺と香澄の幸せを壊すような奴がいるなら、こちらから出向いて全力で叩き潰す」
うっすらと笑う佑は、傲慢だからこその魅力がある。
漲る自信を持ちそう言い放つ彼は、思わずゾクリとするほど妖艶だった。
「……だって……。誰かが苦しんでるよ? 恨んで、本来なら犯すべきじゃない罪を犯してる」
「香澄は自分が攻撃されてるのに、相手の心配をしてるのか?」
また「お人好し」と言われそうで、思わず黙る。
「いいか、香澄。幸せになるのに他人の許可なんて要らない」
正論を言われ、ハッとした。
「人生九十年として、俺はあと六十年ぐらいだ。やりたい事は沢山ある。ただでさえ時間は足りないし、香澄とイチャつく時間はもっと足りない。毎日香澄の笑顔を見て、幸せに満ち足りて過ごしたい。人生を〝そう〟したいのに、顔も知らない誰かに遠慮する必要があるのか?」
打ちのめされたまま、香澄は何も答えられない。
「香澄は誰に遠慮している?」
「私は……」
ヘーゼルの目がまっすぐ香澄を見つめている。
「俺は誰にも遠慮をしない。したい事をして、自我を通したから今の俺がある」
超然とした王のような目に射貫かれ、香澄は自分と彼の差を感じた。
だから自分は、いつまで立っても一般人のままなのだ、と強く痛感する。
自分があれこれ細かな事に悩み、〝知らない誰か〟に遠慮をしてビクビクしている間、佑は世界と渡り合ってビジネスをし、絶大な支持を得てゆく。
彼が身を置いている世界では、顔の知らない誰かが自分を知っていて当たり前だ。
身に覚えのない恨みつらみを買うのも当然。
しかしそんな事にいちいち心を砕いていては身が持たない。
恐らく生まれ持っての強靱な精神力もあるのだと思う。
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