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第六部・社内旅行 編
逃げる、抱き寄せられる
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『比べたくないが、こちらの孫世代はもうひ孫の顔を見せてくれている。お前が可愛いからこそ、期待している』
「分かってるよ。ただ、こっちにも予定はあるし、子供ばかりは授かりものだ」
香澄は彼の膝の上に、横向きにのせられたまま大人しくしている。
真剣な話をしているというのに、リアルでのこの動きのギャップは何なのだろう?
顔を上げると、佑はスマホの方を見てまじめな顔でアドラーと話している。
その喉仏が上下すると、体を通じて彼の低い声が伝わってくる。
自分を抱いている体も、その温もりも、急に意識し始めてしまい、香澄は焦る。
(待って……。私、待って。今とってもシリアスなの分かってる? なんで佑さんに見とれてるの)
意識すればするほど、彼の睫毛の長さや前髪の影がかかった目元の彫りの深さ、透き通ったヘーゼルの瞳、通った鼻筋、潔癖そうな唇に目がいく。
おまけにあの唇が自分の体のあらゆる場所を舐めたと思うと、恥ずかしさで赤面してくる。
(やばい……。やばい。なんで今、あああああ……!)
佑を欲目で見ている自分に呆れ、香澄はとりあえず彼の膝の上から逃れようとした。
そろりと立ち上がろうとするのだが、グッと腕に力を入れられ思うようにいかない。
足に力を入れて立ち上がり、またグッと引き寄せられてポスンと膝の上に戻る。
半ば意地になって立とうとするのだが、全身を使う香澄に対し、佑は片腕だけでいなしている。
その圧倒的な力の差にも彼の男らしさを感じ、ますます香澄は赤くなってゆく。
「アロクラは騒ぎ立てるだろうから、あいつらには言わないでくれ。できればオーマも心配させたくない」
『分かった、善処しよう』
「じゃあ頼んだ」
腕を伸ばしてトンとスマホをタップすると、佑は電話を切る。
それから毒気を抜かれた声で尋ねてきた。
「さっきから何してる?」
「え……ぁ、や。……なんでもない……」
そう言いながらも、香澄はなおも足腰に力を入れている。
すると今度は両腕でガシッと抱き締められた。
「俺はさっき『おいで』って言ったよな? まだ『いいよ』って言ってないのに、行こうとするのはナシじゃないか?」
「だ……だって。ごめんなさい。ちょっと待って。ホントに待って」
カーッと顔が熱くなり、香澄は両手で顔を覆って必死にそっぽを向く。
彼女が急に離れたがっていた理由が分からなかった佑も、ようやく彼女が照れている事に気付いたらしい。
悪戯っぽく微笑み、佑はわざと彼女の耳元で囁く。
「香澄?」
「うーっ、……ぅ、待って……。ちょ、待って……ホントに……」
「いきなりどうしたんだ?」
距離が近いと佑が纏っている香りに包まれているのを意識させられる。
佑が纏っていると本当にいい匂いなので、変な気分になってしまう。
「あの……。い、いま私変なの。佑さんからだだ漏れる色気を百パーセント受けちゃって、真剣にしてなきゃいけないのに急に……」
「欲情した?」
体を反転させられたかと思うと、彼の腰を跨ぐ体勢になってしまった。
「そ、そうじゃない! 違うの。ただ照れてるだけなの」
「かーすみ?」
「や……やめて……、ホントに……、いま、私変だから……っ」
目尻に涙すら浮かべた香澄は、耳まで真っ赤になっていた。
そんな彼女を見て、佑はご満悦だ。
恐怖で泣いていた彼女を、理由は分からないが自分をきっかけに、良い方向に立ち直らせる事ができたと思えている。
電話をしていた間のできごとなので、香澄が何を考えていたかは分からない。
もしかしたら顔を見ただけで「格好いい」とか思ってくれたのかもしれないが、そうならばこの顔で良かったな、なども思ってしまう。
「変になってる顔、見せて?」
「ん?」と顔を覗き込まれても、香澄は両手で顔を覆ったまま彼を見られない。
「……可愛い耳」
ぱく、と赤くなった耳を咥えられ、香澄はヒクッと肩を跳ねさせる。
堪らなくなって佑の首にしがみつくと、背中をポンポンと叩かれた。
「……あのね、佑さん」
「ん?」
「今の私って、とっても幸せだと思うの。札幌にいた頃も、普通ならではの幸せを送ってた。でも、好きな人ができるってもっと素敵な事だった。佑さんと出会ってあっという間に恋をして、体の繋がりもできて、体験した事のない気持ちよさと幸せを得られたの」
「……うん」
「佑さんは優しいし、ちょっと変態で独占欲強いけど、この上ない相手だと思ってる」
「……ふふ、変態で独占欲強いか。まぁ否定はしないけど」
佑は香澄の背中を撫で、さりげなく尻にも手を置いている。
「分かってるよ。ただ、こっちにも予定はあるし、子供ばかりは授かりものだ」
香澄は彼の膝の上に、横向きにのせられたまま大人しくしている。
真剣な話をしているというのに、リアルでのこの動きのギャップは何なのだろう?
顔を上げると、佑はスマホの方を見てまじめな顔でアドラーと話している。
その喉仏が上下すると、体を通じて彼の低い声が伝わってくる。
自分を抱いている体も、その温もりも、急に意識し始めてしまい、香澄は焦る。
(待って……。私、待って。今とってもシリアスなの分かってる? なんで佑さんに見とれてるの)
意識すればするほど、彼の睫毛の長さや前髪の影がかかった目元の彫りの深さ、透き通ったヘーゼルの瞳、通った鼻筋、潔癖そうな唇に目がいく。
おまけにあの唇が自分の体のあらゆる場所を舐めたと思うと、恥ずかしさで赤面してくる。
(やばい……。やばい。なんで今、あああああ……!)
佑を欲目で見ている自分に呆れ、香澄はとりあえず彼の膝の上から逃れようとした。
そろりと立ち上がろうとするのだが、グッと腕に力を入れられ思うようにいかない。
足に力を入れて立ち上がり、またグッと引き寄せられてポスンと膝の上に戻る。
半ば意地になって立とうとするのだが、全身を使う香澄に対し、佑は片腕だけでいなしている。
その圧倒的な力の差にも彼の男らしさを感じ、ますます香澄は赤くなってゆく。
「アロクラは騒ぎ立てるだろうから、あいつらには言わないでくれ。できればオーマも心配させたくない」
『分かった、善処しよう』
「じゃあ頼んだ」
腕を伸ばしてトンとスマホをタップすると、佑は電話を切る。
それから毒気を抜かれた声で尋ねてきた。
「さっきから何してる?」
「え……ぁ、や。……なんでもない……」
そう言いながらも、香澄はなおも足腰に力を入れている。
すると今度は両腕でガシッと抱き締められた。
「俺はさっき『おいで』って言ったよな? まだ『いいよ』って言ってないのに、行こうとするのはナシじゃないか?」
「だ……だって。ごめんなさい。ちょっと待って。ホントに待って」
カーッと顔が熱くなり、香澄は両手で顔を覆って必死にそっぽを向く。
彼女が急に離れたがっていた理由が分からなかった佑も、ようやく彼女が照れている事に気付いたらしい。
悪戯っぽく微笑み、佑はわざと彼女の耳元で囁く。
「香澄?」
「うーっ、……ぅ、待って……。ちょ、待って……ホントに……」
「いきなりどうしたんだ?」
距離が近いと佑が纏っている香りに包まれているのを意識させられる。
佑が纏っていると本当にいい匂いなので、変な気分になってしまう。
「あの……。い、いま私変なの。佑さんからだだ漏れる色気を百パーセント受けちゃって、真剣にしてなきゃいけないのに急に……」
「欲情した?」
体を反転させられたかと思うと、彼の腰を跨ぐ体勢になってしまった。
「そ、そうじゃない! 違うの。ただ照れてるだけなの」
「かーすみ?」
「や……やめて……、ホントに……、いま、私変だから……っ」
目尻に涙すら浮かべた香澄は、耳まで真っ赤になっていた。
そんな彼女を見て、佑はご満悦だ。
恐怖で泣いていた彼女を、理由は分からないが自分をきっかけに、良い方向に立ち直らせる事ができたと思えている。
電話をしていた間のできごとなので、香澄が何を考えていたかは分からない。
もしかしたら顔を見ただけで「格好いい」とか思ってくれたのかもしれないが、そうならばこの顔で良かったな、なども思ってしまう。
「変になってる顔、見せて?」
「ん?」と顔を覗き込まれても、香澄は両手で顔を覆ったまま彼を見られない。
「……可愛い耳」
ぱく、と赤くなった耳を咥えられ、香澄はヒクッと肩を跳ねさせる。
堪らなくなって佑の首にしがみつくと、背中をポンポンと叩かれた。
「……あのね、佑さん」
「ん?」
「今の私って、とっても幸せだと思うの。札幌にいた頃も、普通ならではの幸せを送ってた。でも、好きな人ができるってもっと素敵な事だった。佑さんと出会ってあっという間に恋をして、体の繋がりもできて、体験した事のない気持ちよさと幸せを得られたの」
「……うん」
「佑さんは優しいし、ちょっと変態で独占欲強いけど、この上ない相手だと思ってる」
「……ふふ、変態で独占欲強いか。まぁ否定はしないけど」
佑は香澄の背中を撫で、さりげなく尻にも手を置いている。
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