261 / 1,544
第六部・社内旅行 編
頼みがある
しおりを挟む
「ん、美味しい。佑さんもチョコムース一口どうぞ」
「じゃあ、あーんして」
「んー。はい、あーん」
言われて、自分が食べた分と同じくらいすくい、佑の口元に運ぶ。
お互いムグムグと口を動かして無言になったあと、香澄は覚悟を決めて呟いた。
「……何かね、誰かが私に死んで欲しい……みたいな、そんなメ」
「は!?」
香澄がすべて言い終わらないうちに、佑が大きく声を張り上げる。
プリンをテーブルに置き、綺麗な色の目を見開いて香澄を凝視した。
「誰が? 誰がそんなこと言った?」
強張った顔で言う佑は、本気で怒っていた。
真剣に自分を想ってくれている姿を見て――、心に張り詰めていたものが決壊する。
「……た、……すく、……さ」
気がつけば目の前が見えないぐらい涙がこみ上げて、彼にしがみついていた。
――不安だったのだ。
怖くて、それでも一人で堪えなければいけなく、ずっと気持ちを強く持って平気なふりをしていた。
それが佑の大きな愛情を前にして、ドッと崩れてしまったのだ。
「うーっ、……ぅ、……う」
うなるような声を出し、香澄はぐりぐりと額で佑の胸板をこする。
佑もしっかりと香澄を抱き、大きな手でトントンと背中をさすってくれる。
もう二十七にもなったのだから、声を上げて泣くなどしない。
ズビズビと鼻を啜って佑に抱きついていると、彼が手を伸ばしてティッシュボックスを取ってくれた。
ありがたくそれを使わせてもらい、涙を拭い鼻をかむ。
「……香澄は俺が守るから」
大好きな声が耳のすぐ近くで聞こえ、堪らず香澄はまた佑に抱きついた。
冷房の効いたリビングで、一体どれだけくっついていたのか――。
落ち着いた頃、香澄は先ほどの言葉の続きを口にする。
「……メール、なの。見て」
傍らに置いてあったスマホを手にし、香澄は例のメールを開いた。
スマホごと佑に渡すと、みるみる彼の表情が険しくなってゆく。
「どこの誰……とも、これだけじゃ判別つかないな」
香澄が分析した事までは、佑もすぐ考えたようだった。
「弁護士に情報開示請求してもらっても、多分すぐには分からないだろうな。捨てアカウントの可能性は高いし、香澄を狙ったとなると人を使ってやらせたとも考えられる。これが一般の人なら、情報開示請求をしてある程度片がつく。だが香澄は俺の婚約者だ。ドイツでの事故があったあとのタイミングで、〝これ〟となると、俺たちの関係やドイツに行った事を知った者という可能性が出てくる。だとすれば、金を使って自分に証拠が残らないようできる可能性だってある。金さえ出せば、ネット経由で何でも依頼を引き受けるグループだってあるし」
佑が次々に可能性を口に出し、香澄は自分が思っている以上の情報量に圧倒される。
〝可能性〟がもっと広がり、香澄は戸惑って固まってしまった。
「おいで」
佑は香澄を抱き締め、自分の膝の上に乗せる。
そのままギュッと抱き締めて無言になり、何か考えているようだった。
少ししてから自分のスマホを手に取ると、迷わずどこかへ電話をかけた。
やや待ってから、ハンズフリーの状態で佑は話し始める。
「オーパ? 少しぶり。頼みがある」
(嘘!? アドラーさんに電話かけちゃった!?)
「香澄が命に関わる脅しを受けた。『死ねば良かったのに』だ。これを看過する事はできない」
冷静に告げる佑に対し、怒り狂ったアドラーが喚く声が聞こえる。
『何だと!? 許せん! すぐに私のボディガードを日本に派遣する!』
「いや、オーパの護衛はよこさなくていい。かさばる。日本では日本人の方が目立たなくていいんだよ。それはそうと、香澄がドイツにいた間、関わった全員を疑ってほしい。俺はすべての可能性を確認していきたい。そちらで俺や香澄を恨んでいる者がいないか調べてくれ。申し訳ないが、可能性としてアロクラの女たちのセンも含めてだ。日本での可能性は俺が調べる」
テキパキと指示をする佑の声を聞き、香澄は真顔になって冷や汗を垂らす。
(……えらい事になった)
まさか不審なメール一通で、佑がクラウザー社の会長を顎で使うとは思わなかったのだ。
「礼はちゃんとする」
『いや、礼など言われても私が佑に望むものなどない。望むならひ孫だな』
「あー……、分かった。結婚してからな」
「!?」
サラッと凄い事を言われ、香澄はこれ以上ないほど目を見開く。
だが佑はチラッとこちらを見て、ポンポンと頭を撫でてくるだけだ。
「じゃあ、あーんして」
「んー。はい、あーん」
言われて、自分が食べた分と同じくらいすくい、佑の口元に運ぶ。
お互いムグムグと口を動かして無言になったあと、香澄は覚悟を決めて呟いた。
「……何かね、誰かが私に死んで欲しい……みたいな、そんなメ」
「は!?」
香澄がすべて言い終わらないうちに、佑が大きく声を張り上げる。
プリンをテーブルに置き、綺麗な色の目を見開いて香澄を凝視した。
「誰が? 誰がそんなこと言った?」
強張った顔で言う佑は、本気で怒っていた。
真剣に自分を想ってくれている姿を見て――、心に張り詰めていたものが決壊する。
「……た、……すく、……さ」
気がつけば目の前が見えないぐらい涙がこみ上げて、彼にしがみついていた。
――不安だったのだ。
怖くて、それでも一人で堪えなければいけなく、ずっと気持ちを強く持って平気なふりをしていた。
それが佑の大きな愛情を前にして、ドッと崩れてしまったのだ。
「うーっ、……ぅ、……う」
うなるような声を出し、香澄はぐりぐりと額で佑の胸板をこする。
佑もしっかりと香澄を抱き、大きな手でトントンと背中をさすってくれる。
もう二十七にもなったのだから、声を上げて泣くなどしない。
ズビズビと鼻を啜って佑に抱きついていると、彼が手を伸ばしてティッシュボックスを取ってくれた。
ありがたくそれを使わせてもらい、涙を拭い鼻をかむ。
「……香澄は俺が守るから」
大好きな声が耳のすぐ近くで聞こえ、堪らず香澄はまた佑に抱きついた。
冷房の効いたリビングで、一体どれだけくっついていたのか――。
落ち着いた頃、香澄は先ほどの言葉の続きを口にする。
「……メール、なの。見て」
傍らに置いてあったスマホを手にし、香澄は例のメールを開いた。
スマホごと佑に渡すと、みるみる彼の表情が険しくなってゆく。
「どこの誰……とも、これだけじゃ判別つかないな」
香澄が分析した事までは、佑もすぐ考えたようだった。
「弁護士に情報開示請求してもらっても、多分すぐには分からないだろうな。捨てアカウントの可能性は高いし、香澄を狙ったとなると人を使ってやらせたとも考えられる。これが一般の人なら、情報開示請求をしてある程度片がつく。だが香澄は俺の婚約者だ。ドイツでの事故があったあとのタイミングで、〝これ〟となると、俺たちの関係やドイツに行った事を知った者という可能性が出てくる。だとすれば、金を使って自分に証拠が残らないようできる可能性だってある。金さえ出せば、ネット経由で何でも依頼を引き受けるグループだってあるし」
佑が次々に可能性を口に出し、香澄は自分が思っている以上の情報量に圧倒される。
〝可能性〟がもっと広がり、香澄は戸惑って固まってしまった。
「おいで」
佑は香澄を抱き締め、自分の膝の上に乗せる。
そのままギュッと抱き締めて無言になり、何か考えているようだった。
少ししてから自分のスマホを手に取ると、迷わずどこかへ電話をかけた。
やや待ってから、ハンズフリーの状態で佑は話し始める。
「オーパ? 少しぶり。頼みがある」
(嘘!? アドラーさんに電話かけちゃった!?)
「香澄が命に関わる脅しを受けた。『死ねば良かったのに』だ。これを看過する事はできない」
冷静に告げる佑に対し、怒り狂ったアドラーが喚く声が聞こえる。
『何だと!? 許せん! すぐに私のボディガードを日本に派遣する!』
「いや、オーパの護衛はよこさなくていい。かさばる。日本では日本人の方が目立たなくていいんだよ。それはそうと、香澄がドイツにいた間、関わった全員を疑ってほしい。俺はすべての可能性を確認していきたい。そちらで俺や香澄を恨んでいる者がいないか調べてくれ。申し訳ないが、可能性としてアロクラの女たちのセンも含めてだ。日本での可能性は俺が調べる」
テキパキと指示をする佑の声を聞き、香澄は真顔になって冷や汗を垂らす。
(……えらい事になった)
まさか不審なメール一通で、佑がクラウザー社の会長を顎で使うとは思わなかったのだ。
「礼はちゃんとする」
『いや、礼など言われても私が佑に望むものなどない。望むならひ孫だな』
「あー……、分かった。結婚してからな」
「!?」
サラッと凄い事を言われ、香澄はこれ以上ないほど目を見開く。
だが佑はチラッとこちらを見て、ポンポンと頭を撫でてくるだけだ。
42
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる