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第六部・社内旅行 編

江戸小路

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 日本人は「あの人芸能人かも?」という目で佑を気にしていた。

 しかし佑はお構いなしでスマホを耳に宛がい、香澄に連絡をしている。

『もしもし!?』

 パッと焦った様子の香澄が電話に出ると、佑は思わず笑顔になった。

「香澄? 迎えにきてくれているんだろう? どこにいる?」
『…………。あぁ~っ! もぉぉ……。バレちゃった……』

 心底残念そうな香澄の声を聞き、佑はクツクツと笑う。

「今どこだ? 迎えにいくよ?」
『えっとね……。あんまり来た事がないから、何階とか分からないんだけど、ご飯のところ!』

 食い気に負けたのか。と思うと一気におかしくなり、佑は眉を寄せて笑い出す。

「OK。江戸小路の方だな? そこで動かないで待っていて」
『分かるの?』

「分かるよ。一旦切る」

 電話を切った佑に、松井が話しかける。

「江戸小路の方に行かれますか?」

「はい。香澄とちょっとデートしてから帰ります。瀬尾の車で自宅まで戻るので、松井さんは一旦ここで解散でお願いします。荷物をお願いしていいですか?」

「承知致しました。ではごゆっくり」

 松井と別れると、佑は軽い足取りでエスカレーターに向かった。

 またスマホを立ち上げ、GPS追跡アプリを起動させる。

 香澄のスマホにも同じアプリがインストールされてあるが、佑がこっそり入れた訳ではない。
『出張で国内海外一緒に行くし、万が一はぐれたら大変だから入れておこう』と言うと、すんなり頷いてくれたのだ。

 GPS追跡アプリの反応を見ながらエスカレーターで四階フロアに上がると、江戸小路の提灯前で、香澄と斎藤、久住と佐野が立っていた。

「香澄!」

 思わず大きな声で彼女の名前を呼ぶと、向こう側を向いて斎藤と話していた香澄が、クリンッとこちらを向いた。

「佑さん!」

 松葉杖は片方だけになっていたが、相変わらずぴょこんぴょこんと歩いている。

「急がなくていいよ。危ない」

 大股に歩み寄ると、佑は松葉杖を片手で支えて片手で香澄の腰を支え抱き上げた。

「ただいま」
「……おかえりなさい」

 公衆の面前で抱き上げられて恥ずかしがっているが、香澄は喜んでくれる。
 ギュウッと抱擁したあと、佑は静かに彼女を下ろした。

「斎藤さん、留守の間ありがとうございます」
「いいえ。御劔さんの出張が滞りなく終わりまして、安堵しております」

 斎藤はにっこり笑ったあと、二人を見て気を利かせる。

「では……どうしましょうか。私はタクシーでお先に帰らせて頂きます」
「えっ? 帰っちゃうんですか? 斎藤さん……」

 香澄が残念そうに言うが、彼女は笑って首を横に振る。

「どうぞ御劔さんとデートを楽しんでください」
「うう……、ありがとう、ございます……」

 そう言われては断りにくいのか、香澄は頬を赤らめながらも頷く。

(斎藤さん、ありがとう)

 佑は心の中でサムズアップすると、微笑んで「領収書取っておいてくださいね」と言った。

 佑が何となく歩き出すと、松葉杖の他はポシェットだけという香澄も歩を進めた。
 護衛二人は何も言わずとも香澄を守る契約をしているので、そのままだ。

「十六時近くか……。少し中途半端だな。香澄は何か食べたい物あるか?」
「えっ? 私は食べても食べなくてもどっちでもいいよ?」

 香澄は顔を上げ、何かをごまかすようにやたらニコニコする。

(……これは何か食べたい物がある顔だな)

 そう読んだ佑は、やんわりと誘導していった。

「でも日本食が恋しいところだし、やっぱり何か食べて行こうかな? 香澄、付き合ってくれるか?」
「うん! 私もちょうどお腹すいてたの」

 あっさり引っ掛かった香澄は、嬉しそうな顔をして前方にある店の食品サンプルを気にした。

(さて、この顔は何が食べたい顔かな?)

 佑は「食べたい」という気分にシフトしてゆく。
 一方で香澄の様子を窺い、彼女の気にする物を探っていた。

 合流した場所から左手へ進んでゆくと、左右に店が並び順番待ちをしている人もいる。
 相変わらずここは人で溢れていて、並んでいる人もそこそこいる。

 香澄はキョロキョロと左右のレストランを気にしつつ、まっすぐ前を見ていた。
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