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第六部・社内旅行 編

出迎えの準備

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 そうしているうちに時間も進み、夕方になると荷物をまとめて松井と共にホテルを出る。

 清算はいつもの黒いカード一枚でサッと済ませる。

 そのままシャルル・ド・ゴール空港に向かい、プライベートジェットに乗った。

 香澄への土産は、言われたお菓子の他に化粧品もしこたま買った。
 各ブランドの夏の新色リップやチーク、アイシャドウを片っ端から買い、ネイルや香水も次々と買う。

 どんどん増えていく荷物は、護衛たちに持ってもらった。

 香澄には「こんなに増えても使えきれない」と文句を言われそうだが、似合いそうなので買いたい。
 これだけシンプルな動機は他になく、買わない訳にいかない。

 本当なら懇意にしている百貨店の外商に一言言えば事足りる。
 しかし日本での買い物なら、香澄はあれこれ遠慮をするだろう。

 何より、初めて彼女を百貨店に連れて行った時、機嫌を損ねてしまった。

 ならば〝土産〟という口実を作れば受け取ってくれるのでは、と思ったのだ。

 我ながら酷いやり方だと思う。

 お陰で香澄の部屋のドレッサー周りがかなり賑やかになってきたので、コスメを収納する棚などもしつらえなければ……と考えていた。

 慣れ親しんだプライベートジェットのシートに座り、客室乗務員が出してくれた水をごくごく飲む。

(ああ、やっと帰れる)

 シートに体を沈ませ、佑は早くも目を閉じて香澄を想った。
 あとは帰るだけと思うと、あまりに幸せで口元が笑ってしまう。

(香澄、いま帰るよ)

 心の中で大事な人に囁いただけで、こんなにも嬉しい。

 微笑む彼を見て、女性の客室乗務員が思わず見とれてしまい、慌てて己を諫めた……のを、佑は知るよしもない。

 やがてプライベートジェットは夜のパリ上空を飛び、東に向かっていった。



**



「赤松さん、提案なのですが」
「はいっ? 何でしょう、斎藤さん」

 例によって日中のんびりと過ごしていた香澄は、ランチのあとに斎藤に声をかけられ、元気な返事をする。

「御劔さんは十五時半頃に羽田着の予定ですが、もし良ければ気晴らしに迎えに行きませんか?」
「え……っ」

 早く佑に会いたいと思っていたが、彼は目立つ人なので迎えに行ってもいいのだろうか? とずっと思っていた。

「目立たないでしょうか?」

「赤松さんと私、それに久住さんと佐野さんなら、一般人扱いですし空港にいても大丈夫です。御劔さんが戻られたら、回してある車でスムーズに移動すればいいだけですし」

「そう……ですね」

 一分一秒でも早く佑に会えるのだと思うと、香澄の胸に歓喜が沸き起こる。

「わ、私、出掛ける準備をしてきます!」
「まだ十分時間がありますから、ゆっくりどうぞ」

「はい!」

 香澄はぴょこん、ぴょこんと玄関ホールまで向かい、エレベーターを使って二階の自室へ向かった。
 そして、服のコーディネートに悩む。

(どうしよう……。なに着たら喜んでくれるかな? スカートかワンピースで……。でもギプスが出てもアレだから、ロング丈の方がいいよね)

 いまが七月である事も考慮し、香澄はウォークインクローゼットの中で迷いに迷う。

(そう言えばこれまだ活躍させてないし、色が夏だ!)

 そう思って取り出したのはノースリーブのサマードレスだ。
 儚げなアイスブルーで、胸元からくるぶしまでバサリとしているのでギプスも上手く隠れる。

(えっと、布面積が大きいから髪はアップにしよう)

 決めてしまうとあとは楽しくなり、ルームウェアを脱ぐとよそ行きの下着に着替えた。

 日焼け止めを塗ると、ジョン・アルクールのネクタリンと、スイートペアーを重ねづけする。
 そのあとにバサッとサマードレスを被った。

 それから最近練習をした、編み込みなどを取り入れたまとめ髪にチャレンジした。

 そのあとサマードレスに合わせた、ピンクやラベンダーベースのメイクに取り掛かる。

 ベースメイクを入念におこなったあと、アイメイク用の下地を目蓋に塗り、ワンピースに合わせたアイシャドウを塗っていく。
 ブラウンのリキッドアイライナーでキュッとアイラインを引き、仕上げに目蓋の上や涙袋の所に、ポンポンとラメを入れた。
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