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第六部・社内旅行 編

嫉妬確定

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「河野が来たんだっけ?」

 徐々に気持ちが現実に戻り、佑はハンズフリーにすると、ベッドに横になって通話を続ける。

『うん。まじめでとっても優秀そうな人だね。語学も堪能でボディガードにもなって。本当に……うん。いい人を見つけたと思いました』

 その中に複雑な感情が込められているのに、その時の佑は気付いてやることはできなかった。

「まぁ、彼は若いしバリバリ働いてもらうよ」
『ふふ、なにその言い方。佑さんだってちょっとしか変わらないじゃない』

 二人してクスクスと笑い、少し沈黙が訪れる。
 やがて香澄が意外な事を尋ねてきた。

『ねぇ、佑さん。あの……変な意味じゃないけど、幼馴染みの女性ってどんな人?』

(妬いたのかな?)

 そう思った彼は、顔が見えないのにチラッとスマホの方を見る。

「あぁ、エミリアって言って、香澄より一つ上だ」
『やっぱり……金髪美女なの?』

(嫉妬確定……)

 申し訳ないが、少しの嬉しさもある。

「金髪碧眼ではあるかな。ドイツでは珍しくない色だよ」
『佑さんやお二人と幼馴染みっていう事は、お嬢様?』

「……ドイツでは有名な家かな。日本では馴染みがないが、保険を中心とした金融グループも営んでいる」
『ふぅん……』

 それきり香澄は黙ってしまった。

「本当に彼女とは特別な関係にないよ。何か気にしてる?」
『ううん。……うん、教えてくれてありがとう』

 努めて明るい声を出し、香澄は気を遣う。

『いまそっち深夜でしょう? パソコンで調べてびっくりしちゃった。もう寝て? 明日のスケジュールは分かってるけど、それでも夜はちゃんと寝ないと駄目』
「……ん」

 香澄の声を聞いているうちに、あれほど高鳴っていた心臓も落ち着いた。

「香澄、愛してる。香澄は?」

 けれど最後にどうしても、彼女からの愛の言葉を聞きたかった。

『ん……もぉ。斎藤さんもいるのに。……あ、愛してる、……よ』

 恥ずかしがって小声で言ってくれる香澄に、佑は笑みを漏らす。

「ありがとう。おやすみ。お土産ちゃんと買って帰るから」
『うん、急ぎで間に合わなかったら、全然いいからね? おやすみ』

 佑が通話口に向かってちゅ、とエアキスをしてみせると、向こうからも戸惑った間があってから、ほんの小さなちゅ、が聞こえた。
 嬉しくてクス……と笑うと、『ちゃんと寝てね?』と念を押されて香澄の方から電話を切った。

「……はぁー……」

 耳から一気に幸せな気持ちが広がり、悪夢を見て起きたあの絶望はどこかへ消えていた。

「やっぱり……生身だよなぁ。帰ったら本当に抱き潰そう」

 うん、と一人頷いてから、佑は大の字になる。

「早く帰りたいな……」

 呟いてから、今度は自分と香澄の幸せな夢をみようと試みた。



**



 翌日はホテルでゆったりと過ごした。

 と言っても、ロンドン市場の取引時間が始まる時間も近く、まずは新聞を読んでいた。
 電子版で定期購読している、日本国内と世界の経済誌に目を通し、世界中のニュースにもアンテナを立てておく。

 投資をするにあたって一番大切なのは、情報だ。

 やれどこの国のお偉いさんがどんな発言をした、となればそこの通貨、または会社の代表なら会社の株が大きく変化する。
 定期的に行われているアメリカでの金融会議なども注目されているし、何にしてもまずは情報だ。

 ようやく行動を開始しようという時になり、スマホを開くと双子とエミリアから連絡が入っていた。

『近いうちに日本に行きたい』と双子が言っているが、冗談ではない。
『国で仕事してろ』と打ち返したあと、双子からの連絡を通知オフにした。

 エミリアからは、社交的に『昨晩は久しぶりに話せて楽しかった』との事で、社交辞令で『また会えたら』と返しておく。

 贅を凝らした部屋でルームサービスを頼み、スケッチブックに向かって鉛筆を走らせる。

 頭の中には香澄の下着姿が浮かび、その体をマネキンに佑は何通りも服やアウター、下着からコスチュームまで、好きな物を描き殴った。
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